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最終クエスト 『全力の全力』

 戦いは始まった。

 予定の場所にて戦端が開かれたことで、まずは一つこちらが有利。


 大きく呼吸をして、剣を抜く。

 とてつもない勢いで駆けてくるアンガーボアの群れを止めることは困難に思える。


「だがしかし!」


 大猪の群れは俺の眼前で、落とし穴に吸い込まれていく。

 作るのに苦労したんだ。存分に味わえ。


「ちっ! 落とし穴とは小癪な真似を!」


 ジャスティンの声には悔しさがにじんでいる。

 言っておくがそれだけでは終わらないぞ。


 体をのけ反らせて息を吸う。

 放つのはドラゴンブレス。


「≪炎の息(ボル・ドア・ルー)≫!」


 これまで数々の魔物を始末してきた極大の炎が、勢いの弱まった魔物の群れに直撃する。

 炎はどこまでも突き抜け、大魔星将ジャスティンをかすり、周囲に火を移した。


 燃え上がる木々。

 あっという間に山林が炎に包まれて、熱気を生み出す。

 これでヤツラに退路はない。


「ふん……しかしケイオス、おまえが死ぬことに変わりはない!」


 言われずともわかっている。

 これで止まるなら誰も魔物になど苦労はしない。


 魔物の軍勢は次々と落とし穴に吸い込まれ、穴を埋めた。

 そして背後に控えているヤツラが同胞を足場にして向かってくる。


「ギャッ!」


 短く叫んでコボルドの群れが飛びかかってきた。


「≪影の中の黒子(シャドウインザダーク)≫」


 影魔法を発動。ほぼノータイムで影の中に潜り込み、難を避ける。もちろん置き土産も忘れない。

 影中へと入る直前に置いた魔法爆弾が炸裂する。

 至近距離からまともに爆発を浴びたコボルドたちはその小さな身を木っ端みじんにして血の雨を降らせた。

 

「さあ! ここからが本番だぞ!」


 影から躍り出て、剣を振るう。

 どうせ敵しかいないんだ。どこに剣を振っても魔物に当たる。


 人面犬を、ゴブリンを、クロウクロウオオカミを斬る。頭蓋を割り、腹を裂き、手足を千切って再び影の中へ。

 すでに地面には血だまりができている。

 俺は影の中から出て、大物と対峙した。


「ぐるるるるるるるるる……」


 気味の悪い威嚇音を出して腕を振り上げるのは『地獄熊』。

 スキル≪瞬間模倣術≫を発動。

 ものまねするのは『聖騎士』ルールスの剣技だ。

 どっしりと腰を下ろし、力を溜める。

 あいつはカウンター攻撃が得意だったからな。真似をさせてもらう。


 俺は地獄熊が腕を振り下ろそうとした刹那、力を爆発させた。

 防御できないタイミングで振るう剣は、いともたやすく地獄熊の首をすっ飛ばす。


「ぐっ……」


 後ろからの衝撃。

 醜い猿の魔物『フェルンペンデク』が木の棒を打ちつけてくる。

 大丈夫だ。まだ痛くない。


 振り向きざまフェルンペンデクを剣で切り裂く。


「ダブルスラッシュ!」


 さらに踏み込み、二体の猿を唐竹割り。

 これはブラインの剣技だ。


 囲まれる前に再び爆弾を置きながら影の中へ。

 炸裂したのは氷爆弾。

 凍てつく衝撃が数十体の魔物を止める。


 生き残ったヤツラは俺がどこへ消えたのかわからず、困惑していた。


「次はこれだ」


 影から空中に出た俺は、宙で回転し、竜言語を口にする。


「≪光の息(レイイ・ドア・ルー)≫!」


 凝縮された魔力が生み出すのは光線。

 左から右へと顔を動かし、薙ぎ払う。


 光の息を受けた魔物は焼け死ぬだけだ。

 これでどれぐらい倒しただろうか? 百体か、二百体か。

 俺は魔物ハンターだ。

 一秒でも長くとどまり、一体でも多く倒し、時を稼いでやろう。


 着地すると同時に、魔物を斬り伏せる。

 どす黒い濁った血が俺に降り注いだ。


 近づくもの全て斬り、影に潜っては避け、飛び出ては斬る。

 いったい幾度繰り返したのか。


「……?」


 魔物の勢いが弱まる。

 どうした。これで終わりじゃあないだろう?


 魔物たちはじりじりと距離を詰めてくる。

 びっしりと隙間なく隊列を組み、俺が影から出る場所を失くしたつもりなんだろうな。


「悪いがその行動は分析済みだ」


 唱えるのは影魔法。


「≪影ノ槍(シャドウスピアーズ)千劔(サウザンド)≫」


 干渉する影は俺のものではなく、魔物たちのものだ。

 密集した奴らの影から黒い槍が突き上がる。


 真下から串刺しになった数百体の魔物が痙攣し、薄汚い命を終えた。

 むせ返る血の匂い。

 くらくらする。


「悪あがきを!」


 一瞬にして大量の魔物が殺戮されたことで、ジャスティンが叫ぶ。

 目を血走らせて悔しさをにじませていた。


「ふう……さすがに疲れたな」


 時間がけっこう経っている。ものの数分かとおもったが、もう夕暮れか。

 

「松明は要らなかったな。木が燃えているから明るい」

「殺せ! さっさと殺せえ!」


 またもや魔物の群れが殺到してくる。

 いいだろう。第二ラウンドだ。


 次の相手は青白い肌の小人型魔物。俺が発見し命名した『スプリガンゴブリン』だな。

 分身する上、巨大化までする厄介な相手だが……


「貴様の分析はとうに終わっている」


 このような狭く、魔物が密集した場所では力を活かせないだろう。

 ドラゴンのブレスを使うまでもない。

 腰のベルトの差した短刀を投擲。

 刃はスプリガンゴブリンの眉間に突き刺さった。


「防御力が皆無なのに突進してきてどうする」


 要は分身される前に遠距離から仕留めればいい。

 特徴さえわかってしまえば恐れることなど一つもない。


「次は……火トカゲか……いや、サラマンドレイクだな」


 火トカゲの上位種『サラマンドレイク』は二隊に別れて人間を挟み撃ちにするという習性を持つ。

 炎に強いこともあるし、おおかた燃える森を突っ切って本隊が来るんだろう。


 俺は氷爆弾を取り出しつつ≪黒風呂敷(ダークシーツ)≫を展開。

 予想通り、右手の方角から大量の気配を感知した。


 氷爆弾を本隊めがけて投げる。

 正面のサラマンドレイクはものまねした剣技で対応。


 とどめは———


「≪氷の息(イシス・ドア・ルー)≫!」


 絶対零度の冷気が正面に展開していた魔物を凍らせ、砕く。

 だが、同胞の屍を乗り越えて次々とやってくる。


 俺は駆けた。

 まだやれる。

 剣を振るう腕が千切れようと知ったことじゃない。

 全て出し尽くす。


 スキル≪眼力≫を最大精度で発動。

 ヤツラの動きは手に取るようにわかる。


 銀閃がきらめきを放つ。

 急所を寸分なく穿ち、魔物を絶命させた。


 そこから先はあまり記憶がない。

 我に返った時はすでに朝だった。

 凶悪な臭気が漂う。

 俺の全身は、魔物の黒い血を浴び過ぎて色がわからなくなっていた。


「ケイオス……!」

「どうした? おまえは戦わないのか?」


 俺の周囲にはおびただしい数の薄汚れた亡骸が積み重なっている。


「……」

「なんだ?」

「おまえ、誘ってるな?」


 勘がいい。人間だった頃のジャスティンならまず気が付かない。


「罠か。小細工を」


 ヤツは狡猾だった。

 自分からは来ず、再び魔物をけしかけてくる。


 今度もまた数が多い。

 しかたがない。使うしかないか。破られるのもつまらないしな。


 魔物の突進に合わせて後ろへ下がる。

 あるポイントまで下がり、地面に埋めておいたロープを掘り出した。


「こいつらには少々もったいないが」


 ロープを思い切り引く。

 茂みの中から風を切って飛び出したのは、大量の矢だ。

 忍ばせておいた固定式ボウガンの数はきっかり百台。左右からの十字砲火が魔物たちを襲う。

 当然、鏃には毒を塗ってある。


「ギャアッ!」

「アガガガガガガガ!」


 聞くに堪えない断末魔を上げて、ゴブリンをはじめとした小人型魔物が全滅。

 さらに後ろの獣型魔物にまで矢は効果を発揮した。


「俺が調合した毒は効くだろう? 遠慮するな、死ぬまで味わえ」


 これで百体は倒した。

 しかしまだだ。

 まだうじゃうじゃいる。

 

 嬉しすぎる状況に違いない。

 俺は魔物の殲滅を掲げる冒険者。魔物ハンターだ。

 これだけいればいくらでも殺せる。


「このカスがあああああああああああああああ!」

「お怒りだな、ジャスティン」

「黙れっ! こっちにはまだ駒があるんだ! 出ろ!」


 どうやらとっておきが来ると見た。

 ジャスティンの背後からのそりと現れたのは、『カースドビースド』。以前、竜人の里近郊にて出くわした恐るべき魔物だ。まともにぶつかっては苦戦必至。


「あ~~~~~~ あいつを殺すのかあ~~~~~~~」


 相変わらず気味の悪い見た目だ。

 まあ、いるよな。ちゃんと予想してたよ? うん、ぜんっぜん焦ってない。


「俺は用意周到だからな。こんなこともあろうかと持ってきた」


 素早くポーチから取り出したのは、重曹と酢だ。雑貨店や食料品店で売っているものだな。

 地面を蹴って一気に間を詰める。

 重曹の入った袋を投げつけて切ると、白い粉がカースドビースドにかかる。


「なんだあ~ 目がいてえぞお~」


 そして酢の入った瓶を破壊し、ぶっかける。

 するとあら不思議。カースドビースドの体表を覆うぬめりが取れた。

 ちょっと効きすぎかもな。ここまで即効性があるとは。


「≪炎の息(ボル・ドア・ルー)≫!」


 至近距離からの炎がカースドビースドを焼き尽くす。

 ぬめりがなくなれば防御力が格段に落ちることはすでにわかっている。

 

 真っ黒に焦げたカースドビースドは、呆気なく倒れた。

 分析が終わっている魔物になど、負けるはずもない。


「ケイオスううううううううううううううううう!」


 油断なく構える。


「くそがあああああああああ! 隊を分ける! ものども! 町を襲ええええ!」

 

 さっきからジャスティンの顔がコロコロ変わる。顔芸の使い手だったか。

 いきりたったヤツは指示を下し、小型の魔物を森に入らせた。

 たかだか数十体ならば問題はない。想定内だ。町の人々が片付ける。


「こっちは数だ! 数で押し潰せ! ヤツの体力が尽きるまで攻めを休むな!」


 またもや襲いかかってくる魔物たち。

 ジャスティンの言う通り、休む暇がなければいつかは死ぬだろう。

 だが俺には『マンドラゴラ』がある。


 用意しておいたマンドラゴラの欠片を口に含んでみた。


「うごごごごごごごごごご!」


 ま、不味い! 脳天から足先まで突き抜ける特濃の苦みだ。


 しかし、マンドラゴラの効果は抜群。

 消耗していた体力や魔力がみなぎってくる。


「さあこい! 俺はまだ……貴様らを殺し足りないっ!」


 先頭を走る魔物へ、剣を叩きつけた———

ここまで読んでいただきありがとうございます。


いかがでしたでしょうか。ケイオスの全力でした。

次回『星を滅ぼすもの』では謎が明らかに……なるといいんですが。


よろしければ感想、コメントなどお待ちしております。

では次回。

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