最終クエスト 『なす術はあるのか』
再び会議が始まる。
二時間ほど眠れたおかげで、頭は冷えた。さっきよりはマシな話ができそうだ。
「ケイオスの言う通りだった。山の中に魔物が千体以上。たぶん、まだ増える」
ブラインの言葉が、どよめきを生む。
「なんということじゃ……」
信じていなかった商工会の会長は頭を抱えている。
ハディスン局長は無言。その他の者もだ。
どうするべきか、見出せないでいるのはみな同じだ。
そこで手を挙げたのは、町長だった。
全員の視線が集まる。
「逃げよう。避難するんだ」
当然の判断だと思う。
「町を捨てて逃げる……じゃと!?」
「千体の魔物から身を守る術はないよ、会長」
「だからといって……生活はどうなる!」
商工会の会長が言う事も間違ってはいない。町を、家を、仕事をそう簡単に捨てられない。
「一時的な避難だ」
「待て、町長」
ストップをかけたのは、顔に傷のある老人だ。大柄で迫力満点のこの男は、裏社会の顔役である。
「どこに避難するってえんだ?」
「それは……」
「逃げられるってえ保証はねえ。だったら戦う方がいい」
確かに言う通り。ヤツラはアイツフェルンを滅ぼし、その足で王都に向かうつもりだ。ここで止められれば、と思う。
「だが、人命には代えられない。逃げるべきだ」
今まで沈黙を保っていた警備隊長の反論もわかる。魔物に殺されるなどあってはならない。
議論は平行線。どちらも間違ってはいないのだから、当然だった。
「……魔物ハンターさんは落ち着いているようですね」
決着を見ない議論から逃れるように、町長が俺を見る。
「そんなことはない。ただ、やるべきことをやろうと思うだけだ」
「それは?」
「なにも一つの方法にこだわる必要はない」
今の状況を分析して、答えを導き出す。
それもまた、俺の本分だ。
「ヤツラがいつ動き出すのかはわからない。これについては見張りを置き、狼煙で知らせる」
「狼煙って……前時代的ね」
「魔法でも構わない。動き出したと知らせてくれればいい」
みなが黙って耳を傾けている。
俺は話を続けた。
「俺は……戦うべきだと思う」
「……」
町長の疑問に満ちた眼差しは、間違っている。
話はまだ終わっていない。
「町を捨てない。みんなはこの町が好きだろう? 捨てるべきではない。捨てたとしても、おそらくは魔物にやられるだろう」
「では籠城するとでも?」
「援軍を呼ぶ」
「!?」
この町の警備兵は約二百名。魔物一体を倒すために必要な平均冒険者数は2.5人とされている。
つまり、千体の魔物へ対抗するには、圧倒的に足りない。
「王都に緊急の要請を行う。援軍さえ到着すればなんとかなる」
「だが! ヤツラがいつ動き出すかわかったものじゃない!」
町長が声を荒げる。
「だから……時間を稼ぐ」
「なんと……」
「王都までは最速で一日半、といったところか。着いて要請を出し、戻ってくる日にちを計算すると早くて四日だな」
今からすぐに発てばいい。
「四日間……」
「そうだ。その間、もっとも広い場所に町民を集めて守る。避難してもいいが、あまり町から離れると魔物が襲ってくるだろうしな」
アイツフェルン以外の場所でも魔物の動きは活発化しているのだ。
逃げた先で別の魔物にやられるなど本末転倒。
ならば、ここにいた方がいい。
四日間は長いだろうが、不可能ではないはずだ。
「これは警備兵に当たってもらおう。そして冒険者は町にある数か所の出入り口、特に山側を守備するんだ」
「そこで迎え撃つんだな?」
ブラインが言うので、俺は首を横に振る。
「冒険者には、討ち漏らした魔物を倒して欲しい」
「……おい、ケイオス、おまえさん、なにを言ってる?」
「ヤツを迎え撃つのは、俺だけでいい」
「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」
そう聞こえるのも無理はない。
だがこれは俺が分析によって出した案で一番効率がいいものだ。
「ブライン、俺の天職は『分析士』だ。分析の結果ではこれが一番いいんだ」
「なにがいいって言うんだよ!」
「俺の使える魔法は広範囲を巻き込む。ともに戦う人間を巻き添えにしてしまう可能性が高い」
俺の影魔法やドラゴンブレスを見ているブラインならばわかってくれるはず。
「……確かに足手まといかもしれねえが……独りで行くことはねえだろう!」
「死にに行くわけではない。あくまでも時間稼ぎだ」
「しかし四日だぞ!」
「町は捨てないし、魔物は滅ぼす」
譲れない。
魔物は滅殺する。
「俺は準二級冒険者だ。これまで、様々な魔物を倒してきた。蓄積された情報をもっともよく使えるのは自分自身だしな」
ブラインは押し黙る。
怒っているようだな。
他の者も異論はないだろう。
「馬の扱いに長けた者はいないだろうか?」
スキル≪馬術≫を持っている者は、ここにはいない。ならばせめて乗馬経験のある人間が望ましい。今から≪馬術≫持ちを探してもいいが———
「ケイオスくん、わたしが行く」
「エリーシェ、しかし」
「わたしの天職は『騎士』よ。忘れた?」
「忘れるはずもないが……かなりの強行軍だぞ」
無理はしてほしくないのだが。
「なら私も行くわ、ケイオスちゃん」
「ハディスン局長が?」
「こう見えても馬には慣れてるの。王都に話を通すなら私が行けば問題ないものね」
ばちん、と重苦しいウインクをする。
「それに、以前あなたが言っていた備え、少しだけどしていたのよ」
竜人の里から帰還した際、俺は局長と今後の備えについて話していた。
まさかほんとうにやってくれていたとは。
「食糧の備蓄があるわ」
「さすがだ」
俺は真っすぐに町長を見て、言う。
「町長、これが俺の考えだ」
考えこむ町長は、そして決断を下した。
「……町は捨てない、か。確かにそうですね」
立ち上がった彼はさっそく指示を出し始める。
町の危機だ。
すぐにでも動き出さなければ間に合わない。
「バリケード設置の用意を。隊長、お願いできますか?」
「今すぐに取りかかりましょう」
警備隊長がすぐさま動き出す。
「みなさんも、急ぎもどって説明を。こちらも令を発布します」
全員が席を立った。
顔は晴れないものの、やるべきことが決まったことで、多少はマシだろう。
「魔物ハンターさん、もしも無理だと判断された場合は町から逃げます。それでいいですか?」
「ああ、そうしよう」
異論はない。
これで話は決まったな。
「俺は一度戻り準備をしよう。狼煙の件は頼んでもいいか?」
「それはウチでやるわ。緊急のクエストを出しましょう」
「ハディスン局長、すまない」
「謝らないで、ケイオスちゃん」
みなが慌ただしく去り、会議場には俺とエリーシェ。それと一部の者達だけとなる。
「エリーシェ、君には無理をさせてしまう」
「だいじょうぶよ。わたしのことよりも……ケイオスくん、一人で行かないで」
彼女の顔は曇っている。
困ったな。
「俺は『分析士』だ。自分のことをちゃんと分析している。無茶はしない」
「……ほんとう?」
「ああ」
「……やっぱりだめだわ」
「だが」
「……」
き、気まずい。
しかし、決めたことだ。
「エリーシェ……」
「わかってるの。わかっているのに……」
「ここは俺の故郷だ。それだけじゃない。俺は———アイツフェルンに戻って、本当の自分がわかった。ここは……守るべき場所なんだ」
故郷に戻らなかったら、今の俺はない。
同時に、エリーシェがいなければ……
俺は彼女の肩に手を乗せた。
「君のおかげだ。俺は君のおかげで救われたんだ」
「ケイオスくん……」
「守るのは町だけじゃない。大事なものを守るために、やるべきことをやる」
エリーシェは長い沈黙のあと、うなずいた。
「絶対に無理は……しないで」
「ああ」
彼女が背を向けて去っていく。
これでいい。
町がどうなってしまうか、予断を許さない状況だ。アイツフェルンが落ちたとしても、彼女は王都で命を永らえるだろう。
「次は俺の方だな」
ヤツらが動き出すまでの間、これまでにない準備をしてやる。
「ジャスティン……いや、大魔星将。この町に手を出すこと、後悔させてやろう」
そうして俺は、急ぎ自宅へと戻るのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は『時は動き出す』です!
いよいよもって佳境ですね。
よろしければ感想、コメントなどお待ちしております。
それでは次回。




