アカツキ・Ⅲ
僕とライトは無言だった。
メンバーが集まらなくなった新生アカツキは、あれからさらにクエストを失敗し続けている。
現在のパーティーランクはD。中堅以下になってしまった。
「……」
このままじゃ家賃が払えない。全部、僕に従わないクズどものせいだ。
類まれなる防御力を誇る『聖騎士』ルールスは結局見つからなかった。あいつがよく言っていた賭場で得た話では、『アイツフェルン』という町に向かったのだそうだ。
「ジャスティン、これからどうするよ」
ライトはアカツキの立ち上げから行動をともにしているメンバー。僕が知る限り最強の魔法士だ。
加えて僕の剣があれば、やれないクエストなどない、はずだった。
「……」
僕は答えない。そもそも自分で考えたらどうなんだ。なんでもかんでも聞くなよ。
思えば、ケイオスをクビにしてからというもの、ツキがない。
「……待てよ」
思いつく。
「まさか、あいつ」
「どうしたんだ、ジャスティン」
そうだ。あいつ———
と、考えているところに、ヴァイオレットたち四人が来た。
のうのうと敷居をまたぐとは。これまでどこにいやがった。
「ヴァイオレット、フォレスティア、アクアーナ、今までどこに?」
あともう一人はなんだっけ。男の名前を覚えるのは苦手だ。
彼女たちは無表情で、いつもと様子が違う。
「リーダー、わたしたち、抜けるわ」
「は?」
「アカツキを抜けて、『シジュノキバ』としてやり直すことにしたの」
「は?」
「あなたたちにはついていけない」
「は?」
なにを言っているんだ、こいつは。馬鹿なのか?
そんなこと、認めるわけにはいかない。
「それは許されないな」
「悪いけど……決めたことよ」
「パーティーランクなどすぐにまた上がる。今はやめる時じゃない」
「……」
「そうだ! それに、やっとわかったんだ! 僕たちがDランクまで下がった理由が!」
「……ええと?」
そう、僕は気が付いた。
これは全部ケイオスの仕業だ。
あいつはいちいち分析だのなんだのとうるさかった。戦闘力を持たない雑用風情がなにを言っているのかと常々思っていたんだ。
いなくなってせいせいしたかと思えば、これだ。さんざん世話をしてやったというに。
「ケイオス……あいつが抜ける時、『呪い』をかけていったんだ! だろ? ライト」
「確かにな。あいつがいなくなった途端、これだ。クソ野郎め」
さすがはライト、よくわかっている。
「ちょ、ちょっと……」
「だからヴァイオレット、今からあいつのいるところまで行って呪いを解除させよう。それで問題は解決だ!」
「いや……そうじゃなくて」
この女、なにが言いたいんだ。
「わたしたちは抜ける。呪いとかは知らないわ。あなたたちとはやっていけないと判断したの」
「……なんだって?」
「あなたたちはまともじゃない。力頼みすぎて準備の一つもしない。計画は場当たり的で、無理だわ」
「だから、抜ける、と?」
なるほどな。こいつも呪いだったか。
「そうか。だが———」
剣を抜き、斬る。
まずは見せしめのために、彼女の友人を。
「えっ!?」
いまさら抜けるなんて認めない。そもそもDランクにまで落ちたのはこいつらが原因でもあるわけだし。
「アクアーナ! そんなっ!?」
青色の美しい髪を振り乱し、崩れ落ちたのは『水清魔法士』のアクアーナだ。血にまみれ、目を見開いたまま倒れる彼女もまた綺麗だな。
「うおおおおおおお!」
なんだ? 重戦士の男が突っ込んでくるぞ。まったく、さんざん役に立たなかった上に、僕を襲うのか?
「ライト!」
「おうさ!」
範囲を極力狭くした轟炎が発現し、重戦士を包む。
バカなやつ。ライトの魔法を防げる人間はいない。
「グード!?」
ああ、こいつ、グードって名前だったか。どうでもいいが。
「何をするの!? 正気!?」
「僕は正気だよ。リーダーに襲いかかってきたメンバーを返り討ちにした。それだけだ」
「嘘……アクアーナ、グード……なんてことを……」
二人は死んだ。ご愁傷様。
「さて、君たちにも来てもらおうか」
「……」
放心状態のヴァイオレットに言う。
「これから呪いを解きに行く」
返事はない。肯定と受け取ろう。
「ライト、ケイオスがいまどこにいるか知っているか?」
「さーな。故郷に戻ったんじゃねーか?」
「どこだ?」
「それなんだけどよ。ルールスの件で思い出したんだ。ケイオスの故郷はアイツフェルンだな」
ほう、偶然もあったものだ。もともとルールスを探しに行くつもりだった。手間が省けていいな。
「行くよ、みんな。言っておくが異論は認めない」
「……こんなことをしてただですむと思ってるの!?」
「こんなことって?」
「あ、あなたたちは殺人を犯したのよ!」
「冒険者同士のいさかいなんて珍しいことじゃない。僕は襲われた。だから反撃した。そうだよね、ライト」
「ああ、見てた。おれたちは襲われた」
そうそう、その通り。
「あなたたち、狂ってるわ」
「あのさあ、僕たちは王都でも唯一のレア天職持ちなんだ。バックにも大物がついてる。つまり、僕たちは正しい。狂っているのはそっちだろ」
「な……!?」
なにを驚いているんだ。当り前だろ。
「さあ、行くよ。君たちにも役に立ってもらう」
「い、行くわけないでしょ!」
「ダメだ。行くんだ。それとも……」
血に濡れた剣を見せつける。
ヴァイオレットは黙り込んだ。
これで決まりだ。
ケイオス。
あいつの呪いを解く。それで万事解決だ。
こうなるんだったらあの時に始末しておけば良かった。これは反省しないと。
「ライト、準備はいいか?」
「おれはいつでもいける」
彼は楽しそうに笑った。
そうだよな。呪いの元凶を断てばすべて元通りだ。
ようやくAAランクパーティーを目指せる。
僕とライトは、二人の女を連れて王都を後にする。
待ってろよ、ケイオス。
おまけ・パーティー紹介
『シジュノキバ』
漢字にすると『紫綬の牙』。リーダーである天職『毒性魔法士』ヴァイオレットの美しい紫髪にちなんで名付けられた。『重戦士』グード、『緑林魔法士』フォレスティア、『水清魔法士』アクアーナにヴァイオレットを加えた四人パーティー。グードの防御力で敵を食い止め、他三人の魔法コンビネーションで戦う。アカツキ合流前のパーティーランクはCランクで、短期間でランクを上げたことから注目株だった。
リーダーのヴァイオレットは王都で有名になることを目的としていて、Aランクパーティーに上がったアカツキと目的が同じ事から合流したのだが、結果としてDランクに降格する事となる。
という感じです。
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