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クエスト・Ⅶ 『薬草』栽培

 目覚めた時、時間はすでに昼を過ぎていた。

 予定にはない時間に起きてしまうのは、疲れている証拠だ。


「やはりここはしばらく体を休めるか」


 魔物討伐は控えて、昨夜に思いついた畑の整備を行うことにする。

 食事、風呂と順に済ませて、外に出た俺は、職業安定所には向かわず、雑貨店を目指した。

 必要なものは手帳に記してある。


「肥料、種……畑を囲う柵用の木材、のこぎり、金づち、釘。植物栄養剤もあればいいが」


 と、ここまで考えて、思いつく。


「最高の肥料がある。ものは試しだ。あとでやってみよう」


 一人頷いた俺は重たい足を引きずって、町中を進んだ。

 雑貨店では柵用の資材と工具が購入できた。あとは薬草、毒草の種を買うとしよう。


 目当ての薬草店は裏通りにあった。あまり流行ってはいなさそうだが、入ってみる。

 ドアを開くと鈴がなるものの、店内に人はいない。

 土と緑の香りが充満してむせた。


「いらっしゃい……」

「!?」


 ビクッとした。

 気配は感じなかったが。


「なにかお探しで?」


 この店員、暗いな。はてしなく暗い。人のことを言えた義理ではないが、これで商売ができるのだろうか。

 

「種が欲しい」

「はて、どのような……?」

「薬草と毒草だ」

「種はないねえ……」


 じゃあ聞くなよ! 

 っと、いけない。思わずツッコミそうになった。


「種を売ったら……薬草店は潰れてしまう」

「……確かにな。すまない、考えていなかった」


 みんな薬草を栽培し始めたら、店の意味がなくなる。迂闊だった。


「種を買う方法はないのか?」

「うーん……業務用の卸問屋かなあ……ただ商業権を持ってないと買えないだろうね」


 どうやらダメそうだな。


「山で採取するか、誰かに株分けしてもらうしかないなあ……それでも許可は必要だけどね」

「そうなのか」

「家庭菜園の範囲を超える場合は、商業用とみなされるからねえ」

「そうか……やはり都合よくはいかないんだな」


 しかしこの男、暗いが懇切丁寧だな。けっこう気に入った。


「しかたない。それはおいおいにしよう。あなたは店主か?」

「ああ、そう」

「では乾燥したクコの実とキハイダをくれ。ガーマの花粉もあるといいんだが」

「おや、お客さん、詳しいね……ふっふっふ」


 不気味な笑いをしながら、店主が商品を用意する。

 これは……客が寄りつかないだろう。その程度には気味が悪い。


 会計を済ませ、店を去ろうとして、ふと止まる。

 あのよくわからない種について聞いてみようと考えたのだ。

 こんなこともあろうかと、持ってきている。


「店主、この種がなんだか知っているか?」

「……?」


 生き物が丸まっているような、気持ち悪い見た目の種を見せる。


「ふーむ……見たことがない。しかしこの形状……」

「心当たりが?」

「ない、けど、ある」


 どっちだよ!?


「作り物だと思うけどなあ……」

「知っているんだな」

「あるはずがないから、知らないなあ……」


 どういうことだ?

 

「お客さん、これ、植えてみれば?」

「薬草なのか?」

「期待を持たせたくないから言わない」


 いま絶対に俺の顔は引きつっているはずだ。この男、相当変わっているぞ。


「くっ……邪魔したな」

「首尾よく生えたらウチに卸して……」


 なんなんだ。終始ペースを握られてしまった。

 だが、収穫は大きかったな。

 種については採取を主な仕事とするブラインに聞いてみよう。

 要は家庭菜園の範囲を守ればいいということだ。

 なんだかやる気が出てきた。

 さっそく始めるとしよう。 




 

 それから二日間は忙しかった。

 畑を万全な状態にするため、土壌の成分から分析を開始し、柵を作り、ブラインに種を手に入れる方法を聞く。

 山に入って、わずかだが薬草の種を手に入れた俺は、ようやく種を植えるところまでこぎつけた。


「さて……」


 山で手に入れたのは、傷に効く『モーデスの薬草』と解毒作用のある『シンズイの草』だ。どこでも見かける有名な代物である。

 そして、ついでに謎の種も植える。薬草店の店主は気になることを言っていたからな。なにが出てくるか見物だろう。


 一通り植えて、水を撒く。

 これからが最後の仕上げだ。

 ボウルいっぱいに入った粉末。これは魔晶石を砕いて作ったふりかけである。

 

「実ってくれよ」


 願いとともにふりまく。

 魔晶石を砕いて撒くと、植物の生成が早いという検証結果がある。


 ハディスン局長に報酬としてもらった魔晶石が役に立ったわけだ。

 魔晶石を用いた肥料は、言わば強引な裏技。行う業者は存在しない。


「俺が持っていても売るくらいしか使い道がなかったからな」


 独り言を呟く。

 なぜ業者が行わないのかは単純。

 魔晶石が高すぎてコストに見合わないからだ。

 贅沢な使い方だと怒られそうだが、これでいい。


「さて、今日はゆっくり過ごすか……」


 久しぶりの休息だった。

 夕食後、いつのまにか寝ていた俺は、ただならぬ魔素を感じて飛び起きる。

 時間は早朝。太陽はまだ顔を見せていない。


「まさか……魔物か?」


 剣を取り、スキル≪眼力≫を発動する。

 魔素の発生源は裏庭だ。


 影魔法≪黒風呂敷(ダークシーツ)≫を使用し索敵するも、魔物の気配はない。

 おそるおそる裏庭に回った俺は、驚いてしまった。


「もう生えたのか……?」


 畑に植えたものがしっかりと育っている。

 瑞々しい葉が朝露を滴らせ、新鮮さを見せつけていた。

 すごいな。魔晶石効きすぎだろ。

 そして、謎の種を植えた場所確認。 


「なんだこれは」


 毒々しい紫色の葉が飛び出している。形状から推察するに、根菜だろうと思う。

 紫色の大根? 人参? なんだろうか。


 近づいて少しだけ掘り返し、俺は硬直した。

 マジか。

 夢じゃないよな?


 慌てて部屋に戻り、本棚を漁る。手に取ったのは植物図鑑—―—ではなく、神話や伝承を集めた書物だ。

 ページをめくって、とあるところで止まる。


「マ、マンドラゴラ……」


 紫色の葉に人の顔と姿を模したような根菜は『マンドラゴラ』。伝説によれば引き抜くと絶叫し、聞いた者を殺すとか。

 着目すべきはその効能だ。


「ペースト状にすればどんな傷をも治す軟膏になり、煎じて飲めば万病に効く。血行促進、滋養強壮、代謝力強化、魔力回復……」


 そんな馬鹿な。

 マンドラゴラは絶滅したはずだ。

 あるはずがない。

 

「これは……『癒しの霊草』どころではない」


 局長からの情報では、借金のかたに差し押さえた『癒しの霊草』の種だったと聞いたが。

 俺は片手で口を押さえた。

 絶滅したはずなのだから、薬草店の店主が作り物だと言っていたことに合点がいく。

 

「いや、待て。落ち着け、ケイオス。分析するんだ」


 先ほど確認した根菜はマンドラゴラの特徴と一致している。少し掘っただけだが、人のおでこみたいな形状だった。

 

「まずは確認しなければ」


 知的好奇心を止められない俺は、確かめてみることにした。

 念のため、家にあったものを利用して即席の耳栓を作成。

 さっそく装着して裏庭に出る。


「よし」


 紫色の葉を掴んで力を入れる。

 緊張するな。本当に大丈夫か? 準備は足りているだろうか。


「いや、迷うな、ケイオス。ここは一気に———」


 ずぼっと引っ張り上げる。

 その直後だった。


「KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」


 聞いたこともない絶叫がほとばしる。

 耳が破壊されそうだっ!?

 こんなもの、まともに聞いていたら鼓膜が破れるぞ。


 畑の上に放り投げた根菜は、人の顔をしていて、おそろしく不気味だ。

 やはりマンドラゴラ。伝説の植物。お目にかかれるとは思いもしない。


「……さらに収穫するのは無理だ。耳がもたない」


 残り二つをそのままにし、採取したマンドラゴラを手にぶら下げて戻る。

 スキル≪眼識≫で見る限り、これは素晴らしいものだ。今まで見たどんな薬草よりも力があふれ、にじみ出ている。

 ごくり、と唾をのみ下した。

 これ、食べたらどうなるの?


「……魔力はまだ戻っていない。もしもこれが本物ならば———」


 決めた。

 食べる。

 煮て食うか、焼いて食うか。それとも乾かして粉末にするか。どれでもいい。


 俺はマンドラゴラを剣で切り分ける。なんとなく人を切っているようで気分が悪かった。

 分けた部位をよく水で洗い、観察する。

 まるで光り輝いているようだな。体に良いものが凝縮されているのではないだろうか。


「……シチューにでもするか? いや……」


 迷いに迷った俺は、結局一口大に切り分けて、そのまま食べることにした。


「俺は『分析士』だ。まずは自分自身で確かめないと気が済まない」


 自分に言い聞かせて、口に放り込む。

 噛んだ瞬間。


「オゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


 あり得ない。なんなんだこの苦さは。

 口いっぱいに広がる最悪の渋みと腐ったドブ水みたいな味。酸味と苦みは強烈すぎて目がちかちかする。

 吐き出しそうとする本能を、無理やり抑え込んだ。

 分析によれば毒ではない。

 己を信じて飲み下す。


「オウエッ!? アババババババババババ……」


 後味も最低だ。襲い来る地獄の苦みに耐え切れなかった俺は———気絶した。


 ……

 …………

 ………………


「ハッ!?」


 目を覚まして、倒れたまま辺りを確認する。

 どうやら死んではいないようだ。


 窓から差し込む光から察するに、時間は昼頃。五時間くらい気を失っていたのだろう。

 口の中がまだおかしい。


 だがしかし!


「体が燃えるように熱い!」


 起き上がって自分の肉体を分析する。

 重たかった体は、絶好調の時よりもさらに絶好調だ。脈を打つ血管が浮き出ていて、血の巡りは滑らか。腹の底から魔力がみなぎり、天まで飛んでいけそうだ。


「なんということだ。本物……だったのか」


 効能を実感するかぎり、マンドラゴラは本物だ。

 枯渇しかけていた魔力は膨張し、内圧で張り裂けんばかり。


「このままじゃいられない!」


 外に出て、走る。どこまでどこまでも駆けて、港を通り過ぎ、浜辺に到達した。


「服など着ていられないぞ!」


 衣服を脱ぎ捨て、パンツ一丁になる。

 俺はそのまま海へダイブして、沖に向かった。

 気の済むまで泳いだあと、力を抜いて海面に浮かぶ。

 

「太陽がまぶしい……いや、きらめいて見える」


 爽快極まりない。


「だが、やはりまずいな」


 太陽を見ながら考える。本物のマンドラゴラが発見されたとなれば大挙して様々な輩がアイツフェルンにやってくるだろう。

 商人ならまだしも、盗人などの悪党が来たのでは町に迷惑がかかる。


「隠すしかないか」


 この前、植物ハンターもいいなどと思ったが、あれはなしだ。

 もしもマンドラゴラについて聞かれたらこう答えるしかないな。


 俺はケイオス。

 植物ハンターではなく魔物ハンター。

 ましてやマンドラゴラなど栽培していないと——— 

 おまけ・採取について。


 様々あるクエストのうち、危険度が少なく群生地さえ見つかればくいっぱぐれのない採取の仕事をメインにする冒険者は多い。

 薬草は冒険者のみならず、一般の人々もよく使用するため、需要が切れないことも一因だろう。

 依頼されるのは栽培が困難な種の植物がほとんど。魔素が濃い地にはそれこそ未知の薬草や、美味なる果実が生えており、場合によっては討伐よりも報酬が高い。

 魔物の存在が開拓を妨げている現状では、希少な植物の採取は冒険者頼みとなっている。

 実際に、薬草のうち高い効能を持ち、かつ栽培に成功した冒険者は歴史に名を残しているのだった。

 また、魔物に効く毒草を専門に扱う高等な冒険者も存在し、その価値は非常に高い。


 『モーデスの薬草』 ―― 切り傷、擦り傷に効く。一人前のお値段は75G

 『シンズイの草』  ―― 消毒薬として用いる。一人前のお値段は50G

 『乾燥したクコの実』―― 傷全般に効く。一人前のお値段は40G

 『キハイダ』    ―― 解毒作用がある。一人前のお値段は35G

 『ガーマの花粉』  —— 鎮痛剤として使用する。一人前のお値段は30G



 という感じです。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 思わぬ収穫を得たケイオス。

 それがどう影響するのか。


 では次回!


 よろしければ感想、コメントお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです! だんだん主人公の決めセリフで笑うようになってしまいました。まんまと作者様の術中にはまることに…。
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