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クエスト・Ⅵ 『ゴブリン?』退治 そのに

「ジルルアッ!」


 耳慣れない不快な声を出し、巨人となった魔物が迫ってくる。

 

「ブライン、無理に攻めるな。機をうかがうんだ」

「わかってるよ!」


 天職が『剣士』であるブラインの動作は鋭い。

 巨体を存分に発揮して暴れる魔物を相手に、徹底したヒットアンドアウェイ。


 よし。ブラインに注意が向けば、俺も動きやすい。

 発動するのは影魔法≪影の中の黒子(シャドウインザダーク)≫だ。


 影中に身を沈めた俺は、ブラインへ夢中になっている魔物に標的に定める。

 

(まずは足を斬り、動きを止める)


 前代未聞のゴブリン型魔物がどれほどの防御力を持っているか、確かめる。

 俺は標的の影を出口にして、地上へ出たと同時に斬る。


「ジルルルルルル‼‼」

「なにっ!?」


 手ごたえのなさに思わず驚いた。

 身長三メートルはある魔物が、縦に切り裂かれる。

 これは俺の一撃が強力なのではなく、こいつが脆すぎるのだ。


「ブライン! こいつらは脆いぞ」

「ああ! 見ていた!」


 天職『剣士』持ちの相棒が剣をひるがえす。

 ブラインの逆襲はあまりにもあっけなく、魔物を裂いた。どしゃりと臓物がばら撒かれ、ひどい臭気が漂う。


 腐り切ったヘドロのような血が噴き出して、残り二体にかかった。

 だが———


「ジルル!」


 またもや分身。増えた方も分身したことでまた四体に戻る。

 これは……キリがない。


 さて、どうするか。

 ヤツらの防御力が皆無に等しいことはわかった。

 しかし、一体ずつ仕留めていたのではまた分身されてしまう。


 増えるまでのタイムラグはごくわずか。素早く四体を殺せるかどうかが鍵となる。

 ヤツラの攻撃を避けながら考える。こちらの体力が尽きる前に片をつけなくてはならない。


「ケイオス! どうすんだよ!」

「待て、いま考えているところだ」

「おれは三十路だぞ! 体力が持たねえ!」


 などと言いつつ、ブラインの動きは衰えていない。

 

「ドラゴンブレスは……撃つ暇がないっ!」


 俺とブラインは二体ずつに襲われている。ブレスのタメを作る暇がない。

 なにか手はないのかと言えば……ある。魔力の消耗を度外視してできる方法。


()()をやるしかないか」


 正直、やりたくない。実戦で試したことがないから不安要素だらけだ。

 一か八かなどと、『分析士』がすることではないからな。


「しかし、四の五の言っていられない状況だ」


 魔物の攻撃をよけながら、意識を集中。


「ブライン、一度下がってくれ!」

「わかった!」


 彼が大きく下がり、同時に俺がもう二体を引きつける。

 四体に包囲されつつあるが、これでいい。


「影魔法……≪闇黒領域(ダークワールド)≫!」


 これは≪黒風呂敷(ダークシーツ)≫の進化系。俺自身を中心に、影で空間を覆い尽くす。

 これにより俺以外の生物は暗闇に閉ざされる。

 半径は十五メートル。というかこれが限界。持続時間はわずか十秒だが、十分だ。

 要はタメが作れればいい。


 影の世界に覆われ、慌てふためく魔物たちを残して、範囲の外に出る。

 そして大きく息を吸いこんだ。


 カウント十。≪闇黒領域(ダークワールド)≫が解けて視界を取り戻した四体の魔物に向けて、ドラゴンブレスを叩きつける。


「≪氷の息(イシス・ドア・ルー)≫‼」


 絶対零度のブレスは四体の魔物を巻き込み、動きを止める。

 それだけでは終わらせない。ありったけの魔力をつぎ込み、氷の息を吐き続けた。


「ジルルルルルっ!?」

「ジルグアッ!?」


 いまさら下がろうとするなど、遅すぎる。

 巨人型と化した四体の魔物は体の各所からつららを伸ばして、完全に凍りついた。


 ブレスを吐き終えると同時に、四体が砕け散る。

 討伐完了。

 大きく息をして、片膝をつく。

 新魔法にドラゴンブレス。かなり疲労してしまった。


「やったな! ケイオス!」

「ああ、ブラインこそ」


 喜ぶのはまだ早い。

 魔物が守っていたらしき黒い球体を確認せねば。


 祭壇に目を向ける。

 ぬらりと黒光りする球は、俺が見たとたん、ふっと消え去った。


「……逃げた、のか?」


 あれも魔物……?

 俺のスキル≪眼力≫でも正体がわからなかった。

 少なくとも生き物ではないだろうが。


「なんだったんだ、アレ」

「俺にもわからない。だが、ろくなものじゃないのは確かだ」


 ブラインに肩を貸してもらい、立つ。


「帰ろう。さすがに疲れた」

「だな」


 俺たちは氷漬けになって砕けた魔物の一部を回収し、アイツフェルンへの帰路につくのだった。




 

 そして。

 アイツフェルンの職業安定所に到着し、受付に向かう。

 そこにいるのはエリーシェだ。彼女はいつも変わらず職務に精励している。


「エリーシェ、戻った」

「ケイオスくん、おかえりなさい……ってどうしたの!?」


 エリーシェは俺の顔色を見て驚いたようだった。

 鏡を見ていないからわからないが、相当ひどいんだろうな。


「顔が真っ白よ。なにがあったの?」

「少し……いや、魔法を使いすぎた」

「ケイオスくん、無理しないでって言った」


 頬を膨らませて怒る。

 困った。焦る。


「まあまあ、エリーシェ嬢。予定外の事態だったんだぜ? 大目に見てくれ」


 助け舟を出してくれたのは、ブラインだ。


「予定外?」

「ああ、魔物はゴブリンではなかった。おそらくは新種……または亜種だな」

「そんな……」

「一部を持って帰ってきたから、鑑定を頼む」

「ええ、すぐに」


 やっと終わったか。しかし、ほんとうに疲れたぞ。

 ゴブリンに似た魔物はこれまでに類を見ない怪物だった。少し休んだら手帳に記しておこう。


 うーん、緊張が途切れたからか、気が遠くなってきた。

 ダメだ。もう眠い………………


「ケイオス? おい、どうした!」


 ブラインの声が遠いな。これは、眠りに落ちる瞬間というヤツだ。


「ケイ———」


 そこで意識が途切れ、ブラックアウトしてしまった。


 ……

 …………

 ………………


 後頭部が柔らかくて温かい。すごく気持ちがいい。

 そうか。俺は死んだんだな。この夢見心地、天国とやらに間違いないだろう。


 ゆっくりとまぶたを開け、天国かどうかを確認する。

 なんだろう? よく見えない。なにかこう、ボリュームのある『なにか』によって視界をふさがれているのだ。

 影になってよくわからないのだが。

 これは———


「……なに?」

「あ、起きた」


 体を起こすと、すぐそばにエリーシェがいる。


「だいじょうぶ? 具合悪くない?」

「……天国ではなかったか」

「なに言ってるの?」


 天国ではなかったが、極楽ではあったかもしれない。

 まさか、膝まくらされていようとは。

 彼女は優しいからな。俺が頭でも打ったかと心配してくれたんだろう。きっとそうだ。そうでなくては、膝まくらなど、あり得ないこと。


「すまない。気を失ってしまった」

「やっと起きたわね、ケイオスちゃん」


 局長のハディスンもいた。ブラインもだ。他に人がいないのは、閉庁時間を過ぎているからだろう。


「起こしてくれれば」

「あれだけぐっすりされたんじゃ、起こせないわよ」

「俺は何時間寝ていたんだ?」


 局長は、三時間、と指を立てて見せた。


「待っていてくれたのか?」

「ケイオスくんの口から今回の話が聞きたいって、局長が」

「ああ、おれじゃよくわからなかったからな」


 ブラインはそう言うが、俺でもよくわからない。

 ただ、新種のゴブリンは確実にアレを守っていたと思う。


「おおまかな経緯はブラインちゃんから聞いてるわ」

「では俺がわかっていることを話そう」


 そうして俺は、今回の件を話し始めた。青みがかった肌の単独で行動するゴブリンの出現。

 分身し、さらに巨大化もする。

 

「鑑定結果はどうだったんだ?」

「ゴブリンの近似種らしいわね。まあ、新種?」

「亜種、だろう。危険度は比べることもできないが」


 おそらく危険度はAか最低でもBランク。()()()()()()には精鋭四人組パーティー以上が必須だと感じた。

 

「ほんとうにどうなっているのかしら? あなたがいなかったらどうなっていたことか」

「どうだろうな……ヤツは明らかに『なにか』を守っていた。広範囲に動き回るとは思えない」

「でも危険に代わりはないでしょ?」

「ああ」

「申し訳なかったわ。情報を精査しなかったウチの責任ね」


 局長の顔は、珍しく暗い。


「気にしないでくれ。分身し、かつ巨大化するゴブリンなどイレギュラーすぎる。むしろ天職『分析士』の俺でよかった」

「そう言ってくれるのはありがたいけどねえ」


 話し終えたところで解散となった。

 最後の最後まで、しばらく休め、とエリーシェのみならず局長やブラインにも念を押されたわけだが。





 自宅に戻った俺は、ベッドに腰かけて大きく息を吐き、今回のことを思い出す。

 よかったなァ……膝まくら……じゃないっ! 魔物のことを記さなければ。


 立ち上がり、手帳を取り出そうとしたら膝が抜けた。

 思っていたよりもかなり疲労している。


「おっ……と」


 机へ寄りかかったせいで、上に置いてあるものをぶちまけてしまった。

 いつぞや局長からもらったガラクタと一部貴重品だ。

 さすがに護身の指輪はなくせないので、拾う。


「しまった。床に土が……」


 腐った鉢植えの中身が飛び出て、床が土だらけだ。

 最悪だな。急になにもしたくなくなったじゃないか。


「む? これは……」


 スキル≪眼力≫と≪眼識≫を発動。

 土の中に種がある。しかも三つ。


「見たことのない種だ」


 拾い上げて見ると、なんとなく生き物みたいで気味が悪い。


「毒草じゃないのか、これ」


 気になってしまい、眠気が吹き飛ぶ。棚から植物図鑑を取り出して調査を開始する。

 局長の話では『癒しの霊草』を植えた、という話だったが、明らかに形状が違うな。やはり眉唾だろう。


「うーん……毒なら毒で魔物用には使えるな」


 ダメもとで植えてみるか。


「確か裏庭に」


 両親が作った畑があったはずだ。

 外に出て裏手に回る。

 五年も放置していたから、大半が荒れていた。


「……休め、と言われたし、ここで栽培を行うのも一つの手か」


 俺は分析士だ。土壌を分析し、クエストに有用な種を植えて栽培してみるのは、ありだな。ありどころか、ありありのありだ。

 寝て起きたら畑を使えるようにしよう。そうなると肥料もいるし、種も必要。

 資金については問題ない。討伐クエストばかりしていたから貯金がある。

 

「よし! 寝よう!」


 やることが決まっているのは気分がいいものだ。

 たまには魔物ハンターではなく、植物ハンターをするのも悪くないな。


 明日にもし、自分のことを聞かれたらこう答えよう。


 俺はケイオス。


 魔物ハンターであり植物ハンターと———



  

 おまけ・魔物紹介


『スプリガンゴブリン』


 アイツフェルンに近い山間部の遺跡にて確認されたゴブリンの亜種。なにかを守っていた素振りから、財宝を守る妖精の伝説にちなみ、魔物ハンター・ケイオスが命名。

 特徴は青みがかった肌と単独で行動すること。あくまでもまだ調査中だが、一定の範囲内に人間が入ると襲いかかって追い出す。

 獰猛で強力な魔物。そっくり同じ分身を作り出し、巨大化する。分身出来る数は四体まで確認されていて、それ以上は増えない。ただし、三体以下になるとすぐさま分身するため、同時に倒すか、分身される前に遠距離から仕留めるしかない。

 防御力は皆無でバターを切るよりも簡単に裂ける。危険度のランクは審議中。


 推定討伐推奨冒険者数は腕利きが四人か、そうでないなら三組以上のパーティーが必須。あるいは気づかれる前に遠距離から奇襲する。その場合は単独でも可。

 報酬額は決まっていない。(Aランク相当だと仮定した場合は100000G~)




 という感じです。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

 謎の球体ははたしてなんなのか。

 ケイオスにどう関わってくるのか。

 

 物語も中盤を越えました!

 

 それでは次回!


 よろしければ感想、コメントなどお待ちしております。

 応援してくれると嬉しいなっ!

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