クエスト・Ⅵ 『ゴブリン?』退治
「よお、ケイオス。暇か?」
職業安定所の入り口でばったり出くわしたブラインが開口一番、聞いてきた。
「今から討伐クエストを受けようと思ってはいるな」
「じゃあ暇ってことか」
暇じゃない。遊びなら付き合えないが———
「ゴブリンが出たってよ」
「なら行こうすぐ行こう討伐しよう」
魔物退治ならば断わる理由はない。
「ずいぶんとやる気じゃねえか」
「俺はいつもやる気だ。だが、強いて言えば最近は討伐依頼が少し減ってきているしな」
「そりゃあおまえが狩りすぎたからだろ」
「魔物の根絶が俺の目標だ。狩り過ぎて困ることはない」
アイツフェルンに帰郷してから数カ月。毎日のように討伐をこなしていたのが効いている。
うぬぼれに聞こえるかもしれないが、俺も少しは町に貢献できていると感じた。
「採取メインの連中は喜んでたぜ?」
「それは……嬉しい話だな」
雑談を終えて、準備に入る。
「ゴブリンの種類はなんだ?」
「普通のって聞いたけどな」
「詳細はあるか?」
聞くと、依頼書を寄こされた。ざっと目を通し、確認。
「少し不明瞭な点があるな」
ゴブリンは別名『小鬼』と呼ばれる、小人型魔物。
残忍な性格。好戦的。作物、家畜、人を襲って喰らう。
特徴的なのは、道具を使う事と、独自の方法で意思の疎通を行う事だ。
「通常、二十体ほどでコロニーを形成しているが……目撃されたのは一体だけ、か」
「行ってみりゃわかるだろ。まずは調査ってことでいいんじゃねえか?」
「そうだな。十分に準備をしていこう。なにが起こっても不思議じゃない」
「了解」
ちっぽけな不安がぬぐいきれない。
『シャドウレオパルド』や『カースドビースド』の件もある。
魔物は日々進化しているのだから、油断は微塵もできないのだった。
目撃情報があったのは、アイツフェルンの北に広がる山間部だ。
人の進出を阻む魔物の領域であり、自然の宝庫でもある。
薬草がよく取れる場所としても有名で、採取をメインとする冒険者の狩場と言ってもいいだろう。
今のところ、ゴブリンらしき痕跡は見当たらない。あるのは人と獣の足跡だけだ。
「確かキャンプ地で襲われたんだったな」
「ああ、採取に来ていた冒険者が食事中にいきなり襲われたっつう話だぜ」
「反撃はしたのか?」
「資料には……逃げたって書いてあるなー」
混乱してしまった、ということか。
しかし、逃げたのは良い判断だろうと思う。
ゴブリンは一匹見たら、後ろに十匹はいると考えた方がいい。
「一体一体は大したことがない。が、集団になるととたんに危険度が増す」
「だな」
うなずきあった俺たちは、山間部に入る直前でキャンプをし、夜が明けてから目的地を目指した。
山の中に作られた道を進んで行くと、ぽっかり開けた場所にたどりつく。
「ここが例のキャンプ場だな」
「どうだ、ケイオス。なんか見えるか?」
ブラインに請われた俺は、分析を開始する。
スキル≪眼力≫を発動し、浮かび上がる痕跡を確認した。
たき火跡の周囲にはたくさんの足跡がある。
慌てて逃げだしたと簡単に想像できた。
テントはめちゃくちゃにされ、食糧などが散乱している。
「人的被害がなかったのは幸いだが」
「どうした、ケイオス」
「ゴブリンらしき痕跡は見当たらない」
「なんだって?」
人の痕跡を除外して浮かび上がるのは、小人サイズのものが一つだけ。
集団で行動するゴブリンの特徴とはそぐわない。
単独で行動する小人型魔物はいない。
だとすると、未だ発見されていない新種か亜種の可能性が出てくる。
「足跡は奥に続いているな」
追いかけるのがいいか、一度退くのがいいか。
いや、姿を見て魔物の存在を確定させるのが先だ。
「行こう、ブライン」
「ああ!」
俺たちは剣を抜いて、ゴブリンらしき足跡を追う。
森の中へと続く痕跡を慎重にたどっていくと、自然の中にそびえる不自然な人工物を見つけた。
「石壁か。遺跡だな」
朽ちた石壁が悠久の時を感じさせる。
「ここに遺跡があると知っていたか?」
「ああ、ここは以前、山城だったって話だ。魔物が出現するようになるずっと前のことらしいぜ」
「よく知っているな」
「おれはここら辺にも採取に来たことがあるからな」
ブラインはわけあって『癒しの霊草』というお宝を探している。
ここら辺に詳しいのも当然か。
「遺跡の構造はどうなっている?」
彼は迷うことなく、俺の質問に答えてくれる。初めて会った頃だったらこうはいかなかったろう。
説明では、遺跡は石造りの壁が円形に広がり、中央には祭壇があるとのことだった。
魔物の足跡は中央部、その祭壇に続いている。
俺たちは石壁に身を隠しながら、ゆっくりと遺跡に中央を目指した。
木々に侵食されている遺跡は、言ってみれば残骸にしか過ぎない。逆にそれが魔物のねぐらとなるわけだ。
ゴブリンは洞窟の他に、廃墟や遺跡を利用することも確認されている。
ここをねぐらとしていても不思議ではない。
「ブライン、止まってくれ」
なにかがいる。
腕を上げてストップをかけ、様子をうかがう。
「ゴブリン……なのか?」
青い肌を草の服で包んだ小人型魔物。ゴブリンに見えなくもないが、確証はない。
魔物は俺たちに背を向けるようにして、古ぼけた祭壇を見つめている。
「なんだあれは」
祭壇の上にあるものはなんだろうか。
影、あるいは闇。黒い不定形の塊が祭壇上に浮いている。
気になる。かなり気になる。
一体だけのゴブリンらしき魔物と、謎の塊。このような組み合わせは見たことがない。
「おい、ケイオス、大丈夫か?」
「なにがだ?」
「だっておまえ……汗がすげえぞ」
なんだ? なんで俺、こんな滝のような汗を?
本能が恐怖を覚えているとでもいうのか。
「気にするな。それよりも……もっと近づこう。アレがなにか知りたい」
「あの黒い球を? よせ、さっきから嫌な予感がするしよ。一度戻った方がいい」
一瞬だけ考える。
ブラインの言うことはもっともだ。
「わかった。一度キャンプ地まで下がる」
祭壇に佇む魔物がなんなのか。黒い球の正体もだ。
一度戻って考察するべく、下がる。
が、しかし———
下がった俺たちに反応して、石壁の上で羽を休めていた小鳥が逃げていく。
迂闊だった。
音を聞きつけ、青い肌の魔物がこちらへ振り向いてしまう。
「ジルルッ!」
奇妙な声だ。ゴブリンが発するものとは微妙に違う。
ヤツラはギルル、とか、ガルル、と声を出す。
いや、そんなことを言っている場合ではない。
「やるしかないか」
「しょうがねえな」
石壁の陰から飛び出し、魔物と向かい合う。
妙な動きをされる前に片をつける、と剣を握り直した時、魔物が目を疑う変化を起こした。
「ジルッ!」
短い叫び。
そしてヤツは———分身した!
「嘘だろ!?」
ブラインの驚き。
俺も同じだ。声を出さなかっただけで、体が硬直している。
「なんなんだ、この魔物は」
見た目はゴブリンに似ている。しかし、分身するなどとは思いもしない。
落ち着け、ケイオス。そして分析しろ。俺の天職は『分析士』だ。未知の魔物に驚くな。
自分に喝を入れつつ、スキル≪眼力≫を発動する。
魔素がとにかく濃い。見ているだけでむせる。
「お、おい……ケイオス、あいつ、やべえぞ!」
二体に増えた魔物はさらに分身し、四体に増加した。
それだけにとどまらない。魔物の肉体がみるみるうちにデカくなる。
ヤツラはあっという間に俺たちよりも大きくなってしまった。
「分身した上に巨大化か。珍しいこともあったものだ」
「呑気に言ってる場合かよっ!」
呑気になどしていない。さっきから心臓がバクバクいって破裂しそうだ。
「やるぞ、ブライン」
「マジかよ!?」
「こいつらは危険だ。アイツフェルンには近づけさせない」
「クソっ! やってやらあ!」
分身し巨大化する魔物など前代未聞。ここで滅する。
それは何故か。
理由は簡単だ。
俺はケイオス。
魔物ハンターだからな。
おまけ・魔物紹介
『ゴブリン』
小人型魔物に分類される。最小単位は二十体。最大のコロニーは千体以上の巨大なものが確認されている。単独で行動することはなく、常に集団で獲物を襲う。正確は残忍で獰猛。非常に好戦的。作物、家畜に加え、人も襲う。最小単位ならば危険度は高くないが、油断はできない。
人間を真似して道具を扱うことがあり、こん棒や松明を使用する。火を恐れず、むしろ活用してくる。また、独自の叫び声による意思疎通を行い、連携を取る事が知られている。
広く名が知られている魔物であり同時に研究もされていて、脅威的な魔物ではなくなった。
討伐推奨冒険者数は二人~五百人(コロニーの大きさによる) 討伐報酬額も数によって変わる。 おおよそ一匹あたり75Gほどである。
という感じです。
まあ……ゴブリンではなかったのですが、ゴブリン紹介でした。
ゴブリンはこちらの世界でもよく知られた怪物、または妖精ですね。それが逆に登場させるのを躊躇わせます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
よろしければよろしければ感想、コメントなどお待ちしております。
それでは次回。




