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クエスト・Ⅴ 『ガラクタ』鑑定

「……」


 椅子に座る俺の目の前で、アイツフェルン冒険者省支部局長ハディスンが神妙な顔をしている。

 

「……アヴァウォック・ツリー、大アブラムシ、キノコン、クロウクロウオオカミ、アンガーボア、ノブリスカメレオン、地獄熊、牙ネズミ、アズラムカデ、ヘルトカゲ、ブラッディバット及びコンガマトー、アイツフェルンデスワーム、フェルンペンデク……」


 彼が読み上げているのは、この二週間で俺が討伐した魔物の名称だった。


「…………ケイオスちゃん、一ついい?」

「なんだ?」

「討伐しすぎぃっ‼」


 手にした資料を机に叩きつける。


「あなたねえ、ちゃんと休んでる?」

「……?」

「どんだけ退治してるのよ」

「退治して悪い事はないと思うが」

「ええ、ありがと! おかげさまで私の評判もうなぎのぼりよ!」


 なーんで俺、怒られてるの。

 評判がいいなら問題ないじゃん。


「あなたが倒れるんじゃないかってエリちゃんが心配してるの」

「エリーシェがか」

「ええ、そうよ。だってあなた、信じられないけど他の冒険者が半年でする仕事を二週間でしているのよ?」

「ああ、そのせいでけっこう貯金できた。近いうちに装備を一新しようかと———」

「その前に休息なさい」

「しかし———」

「ダメよ」


 有無を言わさない迫力に、息を呑んでしまう。

 確かに局長の言う通り、アイツフェルンに来てからというもの、ほとんど休んでいない。


「別に疲れはないのだが」


 精神も肉体も絶好調だ。最近は無理をしてはいないし、問題ない。

 新たに開発した影魔法も試したいし、ドラゴンブレスの使い方にも慣れてきたところだしで、むしろ討伐クエストをこなしたいのだった。


「まったく……まるで水を得た魚ね」

「そう褒めないでくれ。照れる」

「半分は褒めてないけど」


 局長がため息をする。


「とりあえず、今日からあなたはアイツフェルンの準二級冒険者よ」

「……なに?」


 これには驚く。この前、個人ランク三級に上がったばかりだ。しかも準二級と言えば、紛れもない一流冒険者。


「当たり前でしょう? ほとんど単独(ソロ)で依頼を完了していれば累計報酬金額が跳ね上がるんだから」

「すっかり失念していた」


 王都にいた頃はパーティーを組んでいたおかげで報酬が分割されていた。

 こっちに来てからというもの、ブラインがいない時は一人で討伐を行っていたから報酬が総取りだった。


「パーティーは作らないのかしら? あなたとだったら組みたい冒険者が行列を作るんじゃなーい?」


 俺はちょっとだけ考えて、否定した。


「パーティーはもうこりごりだな。しばらく作るつもりはない」

「ああ、アカツキのことね」

「知っているのか?」

「田舎町にも聞こえていたわよ。ものすごい勢いで駆けあがっている若手だってね」


 それなりに有名だった、ということか。王都以外にも名が知られていたとは驚きだ。


「最近の評判は最悪みたいね。依頼達成率が五パーセント未満でパーティーランクはCに降格。このままだとDランクに落ちるわ」

「それは……あまり聞きたくなかったな」


 なんだか胸がもやもやしてくる。

 アカツキは俺とジャスティン、そしてライトが一から立ち上げたパーティーだ。

 縁が切れたとはいえ、何も思わないわけではない。


 あるいは……ルールスがいなくなったことで苦戦しているのかもしれない。

 だとしたら原因は俺だ。

 ヤツは許されざる犯罪者。殺す以外に凶行を止める方法はなかっただろう。

 だが、それでアカツキの総合力が落ちるのは当然だった。


「なら……そうね。たまには討伐以外の依頼もこなしたら?」


 考えこむ俺に局長がそんなことを言う。


 討伐以外か。

 俺の天職は『分析士』と『ものまね士』。できるのは鑑定、失せもの探し、人探し、といったところ。

 ものまねに関しては、宴会で披露する身内ネタくらいしかない。


「急に言われてもな。今日はすでに一件受けている」

「そうなの? だったらあなたが戻ってくるまでに考えておくわ。それでどうかしら?」

「わかった」


 話が終わったので、俺は席を立った。

 

 さて、今回受注したのは再び現れた『バラク蜘蛛』だ。さくっと終わらせてもう一つ受けてもいいな。

 受付にいるエリーシェへ声をかける。


「エリーシェ」

「ケイオスくん、お話終わった?」

「ああ、準二級に上がった」

「ほんと?」


 彼女は嬉しそうにしている。


「ケイオスくんなら当然だと思う」

「そうか。だが……心配をかけてしまっているようだな」

「!?」


 ものすごい顔してるな。なんだか悪いことした気になる。


「局長から聞いた。すまない」

「……局長のお馬鹿」

「どうした?」

「ううん! なんでもないわ」


 エリーシェの様子を見る限り、俺には計り知れないなにかがあるみたいだ。

 うん、触れないでおこう。


「これから討伐に行く」

「気を付けてね」


 送り出してくれる人間がいるのはいいものだと改めて思う。王都にいた時もそうだが、彼女がいなければアカツキも俺も成り立たなかった。

 エリーシェに感謝しつつ、俺は『バラク蜘蛛』退治に向かった。





 首尾よく討伐クエストを終え、夕方に町へ戻る。

 最近は討伐にかかる時間も短くなり、一日に複数の依頼を受注できるようになった。

 それがなにより嬉しい。

 魔物が減れば減るほど、町は安全になり、栄える。人々の笑顔が増えるのは好ましいことだ。


 職業安定所に入ると、エリーシェの他に局長がいて、さっそく執務室に通された。

 入ると見慣れない物があることに気付く。


 局長のデスク上に置かれているのはなんだろうか。

 

「ケイオスちゃん、あなたに依頼をするわ」

「局長が?」

「ええ、あなたにお願いしたいのは『鑑定』よ」


 なるほど。

 俺が持つ天職『分析士』のスキルは二つ。≪眼力≫と≪眼識≫だ。

 そのうち≪眼識≫は物体の真贋を見極めたり、力を看破することが可能である。


 町に一人は必ずいる鑑定士は、スキル≪眼識≫を持つ者が多い。

 しかし、わざわざ俺に頼むことではないと思うのだが。


「なぜ俺に? 鑑定士がいるだろう」

「つい最近、長らく鑑定士を務めていたおじいちゃんが引退したのよ」

「今は不在ということか」

「いえ、いるにはいるんだけど、まだ見習いでね」


 うーん、やるのはいいが、俺には重大な欠点がある。

 スキル≪眼識≫は真贋を見極められても、その物の価値まではわからない。価値の見極めは本人の知識に依存するわけで。

 しかし、依頼されれば断る理由はない。


「やってみよう」

「助かるわ~」


 局長のデスクに置かれている物品は八個ほどか。

 スキル≪眼識≫発動し、確かめる。

 どれもほこりがついた骨董品だ。


「……正直に言っても?」

「ええ、いいわよ」

「まずこれとこれとこれとこれとこれはガラクタだな」


 俺がする容赦ない仕分けに、ハディスンはがっかりしていた。

 六個目に取りかかり、手を止める。

 単なる石かと思ったが、これは『魔晶石』の原石だ。


「これは価値が高い。魔晶石の原石だ」


 魔晶石には魔法を込めるとしばらく定着するという性質がある。俺たちが住むミード大陸では生活に必要な照明や水道の他、多岐に渡って使用されているものだった。


「やったわ」

「次は……って、これはなんだ?」


 土くさいカビの生えた鉢植え。草など生えておらず、土も腐っていそうだ。


「ああ、それ? 税金を払えなかった冒険者の差し押さえよ」

「……これはきついな。ゴミじゃないのか」

「癒しの霊草を植えたとか言っていたけど、やっぱりでたらめだったのかしら」


 癒しの霊草だと? さすがに信じられないな。その場しのぎの嘘だろう。

 まあブラインのこともあるし、記憶にとどめておくか。


 そして最後の一つ。古ぼけた刻印の指輪を見て、俺はうなり声を上げてしまった。


「これは値打ちものだな」

「なんの指輪なの?」

「護身の指輪だ。まさかここで拝めるとは」

「聞いたことないわね」


 護身の指輪とは、超古代の遺産であり、極めて優れた魔法を付与された物だ。

 ダンジョンにて稀に見つかるアーティファクト。身に着けると、装備者に危険が及んだ時、障壁が発生する。


 値段は……まだ言わないでおこう。局長が気絶するかもしれない。


「ガラクタが六つと、魔晶石に指輪ね。ありがと、ケイオスちゃん」

「お安い御用だ」

「じゃあ報酬ね」


 と、局長がデスクの上を指さす。


「……なんだと?」

「これ、全部あげちゃう」

「いらん」

「ひどいわ、ケイオスちゃん。ゴミを押し付けようとしてるわけじゃないのよ?」


 違う違う。ガラクタを押し付けられるのはかなわないがな。

 護身の指輪は相当な値打ちものだ。鑑定の報酬としてはあまりにも高すぎる。


「さすがに受け取れない」


 そう言う俺に向かって、局長が怪しい笑みを浮かべた。


「遠慮しないで。私が持っていてもしかたないし、邪魔……ごほん、あなたなら役立てるはずよ」


 おい、いま邪魔って言いかけただろ。


「やっぱりあなたは鑑定士としても優秀よ。これからもよろしく頼むわ」

「俺は魔物ハンターだ」

「二足のわらじってことで」

「それは断る」


 俺はケイオス。今となっては生粋の魔物ハンターだ。他にリソースを割く余裕はない。

 が、報酬は報酬かもな。

 ガラクタは置いていきたいものの、護身の指輪は魅力的だ。


「局長には世話になっているからな……」

「あ・り・が・と」


 俺はため息ととも報酬を回収し、職業安定所をあとにするのだった。

 おまけ・鑑定士について


 冒険者省には様々な物が持ち込まれる。討伐の証拠、ダンジョンから持ち帰ったもの、採取クエストの納入品など、多岐に渡るため、鑑定士の存在は必須である。

 自治体からそれなりに高額な給料を保障されるおかげで人気のある職業。ただし現場には立つことがないせいで冒険者からは嫌われている。

 鑑定士になるには、スキル≪眼識≫か鑑定の魔法に類する技術が必須とされており、公認鑑定士ともなれば引く手あまたである。

 統計によれば鑑定士のスキル≪眼識≫のレベル平均は5。

 アイツフェルンの魔物ハンター・ケイオスの≪眼識≫レベルは平均に比べて高い位置にある。


 鑑定士の平均月収はおおよそ2000Gと他職業よりも高く、冒険者よりは低い。



 という感じです。


 今回は静かなエピソードでしたが……次回はどうなるのか。

 アイツフェルンの魔物ハンター・ケイオスの活躍はまだ続きます!

 よろしければ感想、コメントお待ちしております。


 また来てね!

 

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