アカツキ・Ⅱ
王都に唯一人の天職『聖戦士』であり屈指の強者であるジャスティンこと僕が振り下ろした剣は、『サラマンドレイク』を一刀両断にする。
気味の悪い断末魔の叫びととともに、赤い体の爬虫類は死んだ。
「ライト! 右を頼む!」
「りょーかいっと!」
天職『大炎魔法士』が放つ極大の火炎は、本来火に強いはずの『サラマンドレイク』を焼き尽くす。
イイ感じだ。これならクエスト達成できる。
先の一件以来、新メンバーたちの口数が減り、やりやすくなった。
ずいぶんと脅しが聞いているようだ。
最初からこうすればよかったな。
「ヴァイオレット、アクアーナ、同時攻撃を」
「わかったわ、リーダー」
ヴァイオレットの毒性魔法とアクアーナの水魔法が、トカゲどもの塊を一掃する。
上出来だ。
先日、僕たちはAランクパーティーから、Bランクに降格してしまった。
ムカつくことこの上ないが、国からのお達しではどうしようもない。
降格を待ってくれるよう、スポンサーに仲介を頼み込んだんだけど、さすがに無理だった。
「雑魚だな」
トカゲどもの危険度はせいぜいCランク。報酬も安いし僕たちがやるような仕事じゃない。
これはクエスト達成率を上げるためにやっているだけの、簡単なお仕事ってヤツだ。
僕は王都に唯一人の天職『聖戦士』であり屈指の強者であるんだから、こなせて当たり前。
「もう少しだ。気を抜くなよ」
街道をふさぐ形で大量発生した『サラマンドレイク』も、もはや数体が残るのみ。
あとは———
「きゃあっ!?」
声を上げたのは、天職『緑林魔法士』を持つフォレスティアだった。
彼女はいつの間にか背後に来ていた『サラマンドレイク』に足を噛まれている。
「くそっ!」
まとわりつくトカゲを、剣で切り払う。
「フォレスティア、平気かい?」
「う、うん……軽傷よ」
「リーダー! 後ろ……」
「な……」
嘘だ、と言いかける。
僕たちの背後には大量の『サラマンドレイク』がいた。
「なんでこんなに……」
「ジャスティン、やべーぞ。奥にデカいのがいやがる」
トカゲどもの奥に、今まで見たことがないくらいにデカいサイズの『サラマンドレイク』がいる。
「リーダー! どうするの!」
「……」
「リーダー!」
「……て、撤退だ! 数が多すぎる!」
「おい! ジャスティン! またクエスト未達成になんぞ!」
「ダメなものはダメだ! さっさと撤退しろ!」
くそっ! なんでこうも予定が狂うんだ!
あんなデカいヤツがいるなんて聞いていない!
僕たちは包囲される前に撤退した。
王都付近まで走って、振り切る。
「はあっ……はあっ……くそがっ!」
「リーダー……」
ヴァイオレットが暗い顔で覗き込んでくる。
「……なにか言いたそうだね、ヴァイオレット。だけど先に言わせてもらう。撤退したのは君たちを守るためだ」
「はあ?」
「君たちを傷つけさせないためさ。こんな仕事で怪我なんかしたらつまらないだろう?」
「こんな仕事って……」
そうだ。僕たちの実力はAランクパーティー級。いや、AAクラスなんだから。
「……今日はもう解散にしましょう」
「ああ、そうだね」
ふん、どうせまた文句を言うつもりだったんだろうけど、そうはいかない。
「また明日、リーダー」
そう言って彼女たち———ヴァイオレット、フォレスティア、アクアーナと……この重騎士名前なんだっけ……が街に戻っていく。
「ライト、ルールスはまだ戻らないのか」
「連絡の一つもねーな。逃げたんじゃね」
「なんだって!?」
逃げたと言われても、なんの理由なんだ。
「あの重騎士……名前なんだっけ? あいつは役に立たない。Aランクに戻るためにはルールスが必要なんだ」
「まあ……それについちゃ同意するがよ。いねーもんはどうしようもねーだろ」
ルールスめ、戻ってきたらとっちめてやる。
「……なぜだ! なぜうまくいかないっ!」
サラマンドレイク討伐撤退から一週間後、またもや失敗続きの僕たちアカツキは、Cランクに降格してしまった。
Aランクパーティーに上がった直後、一件だけ依頼をこなしたが、それからは全て失敗。月間クエスト達成率は十パーセントを切る始末。
そのせいで下がりにくい個人ランクも等級落ち。あり得ないことだ。
「ルーキーですらあり得ない達成率だぞ! どうなってる!」
椅子を蹴り飛ばす。物にでも当たらなければやってられない。
アジト内は無言。メンバー全員が口を閉ざしている。
「ねえ、リーダー」
「また文句かい? というかヴァイオレット、なぜ僕を名前で呼ばないんだ?」
「だってあなた、リーダーでしょ?」
このよそよそしい態度。以前は媚びていたのに。クソ女め。
「ねえ、ちゃんと準備した?」
「は?」
「わたしたちは一応準備したのよ。でもあなたとライトは準備してるように見えないんだけど」
「したさ。心の準備だろ?」
「え……?」
なにを言っているんだ。僕たちは最強クラスの冒険者だ。そもそも負けるはずがない。
「僕たちは君たち新メンバーにレベルを合わせてるんだよ。だからちぐはぐなんだ」
「えーと……まあ、とにかくそれはいいけど、いつもはどうしてたの? わたしたちが加わる前」
前……? いつも通りだけど。
「誰も準備してなかったの?」
「雑用係ならいたさ。君たちが加わった時クビにしたあいつだよ」
「彼が? 役立たずだって言ってたじゃない」
「そうだね。分析や準備にしか能がない役立たずだったね」
「……」
ようやく黙ったか。女狐め。
「あー……そうなのね……よくわかったわ」
「そうだよ。ケイオスとは長くやったけど、僕たちには必要なかった」
「と、とりあえずわたしたちはお風呂に行ってくるわ。また明日」
「待て、ミーティングがまだだろう?」
「明日でいいんじゃない? それにちょっと具合が悪くって」
具合が悪い、か。ならしょうがない。
「わかったよ」
「うん、じゃあね」
ったく、水を差しやがって。
やる気がないなら、また脅してやろうかとも思う。
だけど僕は寛容だ。ミーティングは明日にしよう。
そして次の日———
ヴァイオレットたちは姿を見せなかった。
次の日も、そのまた次の日も、アジトには来ない。
「信じられないな。なぜ誰も来ない」
「マジで病気なんじゃねーのか」
「そんなわけないだろう! くそっ! どいつもこいつも!」
僕の彼女であるエリーシェも姿を消した。王都にはいないらしい。誰も彼も連絡一つない。頭がおかしいんじゃないのか。
「ライト、このままじゃダメだ。ルールスを探そう」
「だな。やっぱあいつがいねーと守りが薄すぎる」
さすがはライト、よくわかっている。
天職『聖戦士』である僕と『大炎魔法士』のライトが存分に攻撃力を活かすには、『聖騎士』ルールスが要るんだ。
「探すあてはあんのか?」
「あいつが行っていた賭場で聞こう」
そうして僕とライトは、アジトを出るのだった。
おまけ・個人ランクについて
冒険者には個人ランクがある。パーティーランクは累計報酬金額とクエスト達成率によって審査されるが、個人ランクは累計報酬金額と所属する都市および町村への貢献度によって決まる。
等級は十級から始まり、三級からは、準二級、二級、準一級、一級、準特級、特級、超級と上がっていく。準特級以上は人間を超えた化け物扱いされ、大陸に名が轟くという。
今現在、王都には特級が一人、準特級が三人だけしかおらず、数は少ない。
個人ランクはパーティーランクに比べて受けられる恩恵が小さいため、等級を気にする冒険者はあまりいないという統計が出されている。
パーティーランクとは違い、クエスト達成率が影響しないせいで、上がりづらく下がりづらい。
一方で、激しく上下するパーティーランクに比べ、高等級の冒険者は自治体からの信頼が絶大であり、名士としての扱いを受ける。
という感じです。
いよいよ次回からケイオスの本領発揮……かも、です!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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また来てね!




