闇の呪縛 第1章-5
次々と流れていくメイの記憶。
メイの物心がつく頃には、彼女の人生には常に魔術が側にあった。
彼女に魔術を教えたのは、彼女の父――水無月蒼月。時に厳しく、しかし優しい父親が、メイは何よりも好きだった。
だが10年前。彼女は父親を亡くした。当時のメイは知らないが、現在行われているのと同じ、7つの神霊石を奪いあう闘いで。奇しくも、彼女と同じ”水”の神霊石をその身に宿して。
蒼月は闘いの終盤、暁光冥に殺された。彼女が父親の亡骸と対面したのは、闘いが終結して数日が経過してからだった。
メイは告別式の日、感情を失った人形のようになっていた。
動かない父。もう二度と、自分に語りかけてくれることはない。隣で母親が気丈に振る舞っているのを見て、自分も見習おうとする。
だが、何もできなかった。失ったモノの大きさが、亡くした時に一番痛感させられる。
幼いメイは、しばらくの間呆然としていた。
父を亡くしてからメイは、父の書斎に籠もっていた。
少しでも父親がいた残り香を感じたくて、何をするでもなく部屋の椅子にかけていた。
数日、数ヶ月が経過して、いよいよ残り香もなくなった。あるのは、書斎に鎮座する大量の書物。
メイは父親を感じるため、書物を読み漁った。
幼年の彼女には読めない漢字。果ては外国語もあったが、自己研鑽を重ね、徐々に読めるようになっていった。
書斎には、魔術に関する書物が多く収蔵されていた。師がいなくなったメイは、その書物を基に、独学で修練を積んでいった。
そして、父親が死んだ原因が、件の闘いであることも知ることになる。その時メイは、いつか闘いに参加した人物を特定し、復讐することを朧気ながら思うようになっていった。
それから数年後。
メイはある事故現場に遭遇した。
商業区における火災事故。不幸にも、その日は各地でイベントが行われていて、道路が混雑していた。消防車が到着するには相当の時間がかかる見込みだった。
まともな手段では、火災に巻き込まれた人は助かりそうにない。仕方なくメイは、自身の存在を隠蔽しながら救援活動を行うことにした。
その時点でメイは、一端の魔術師を名乗れるぐらいの実力を持っていた。一般人には自身の存在を悟られることなく、死傷者を出すことなく救援活動を終えることができた。
しかし、それから数日後、メイの前に怪しげなスーツ姿の人間たち――NINJAが現れた。
彼らは通常の手段では助かりそうにない火災事故において、なぜ死傷者が0なのかを疑問に思った。事故現場にいた人間を監視カメラで追っていくと、一人の少女が微妙におかしな動きをしていることに気づいた。
人物照会をすると、水無月蒼月の娘であることが判明する。
そして、NINJAは水無月蒼月をはじめとする、魔術師の存在を認知していたのだ。
NINJAは、メイに取引を持ちかけた。
・NINJAはメイに、資金と環境を提供する。
・メイはNINJAに、魔術師としての戦力を提供する。
この条件に、メイは二つ返事で快諾した。
父親を亡くしたメイは、母親と二人暮らしだった。十分な蓄えがあり、質素に平凡な暮らしをする分には、十分だった。
だが、メイにとっては、それは不十分だった。魔術の修練には、座学だけでは限界がある。実践的な修練をするには、場所が必要であり、道具を調達する資金も必要だった。
そして、件の闘いに関する情報。それを、NINJAは持っていた。
メイは、この出会いから、かねてから朧気に持っていた復讐心を、確固たるものにする。当時は知らなかった父親を殺した存在――暁光冥を知って。
具体的な目標ができてからは、メイは死に物狂いで、何事にも取り組んでいった。
魔術の修練もより実践的な戦術を意識するものになっていく。他の面でも、彼女は可能な限り、自身の発展につながることを模索して実行する。
そして、彼女は1年飛び級で新緑高校に入学した。NINJAとの連携の都合もあるが、実力で生徒会長になり、評価されていくことになる。
メイに誤算があるとすれば、それは神皆葉と再会したことか。
父親を亡くしてから自分の成すべきことに邁進してきたが、幼少期からの想いが呼び起こされ、歯車が狂ってしまった。
自分の感情と折り合いをつけて振る舞おうとするが、ズレた歯車はメイの中で軋み、気がつかないところで影響が生じる。
業紅蓮との闘いでの敗走――実力で負けていたわけではないのに、対応を誤って苦汁を嘗めることになった。
続く神皆葉との闘いでも、業紅蓮との闘い後の隙を突き、漁夫の利を得る算段をつけたにも関わらず、駆け引きによって防がれる。
仕切り直しの闘いでも、事前の契約術式やNINJAによる干渉もあって、有利な状況にあった。だが、終盤で互いの手札を見誤り、神霊石を失うことになる。
「……」
記憶の奔流が落ち着き、皆葉は水無月メイのことを想う。
自分と関わらなければ、この闘いは違う顛末になったのではないだろうか。復讐だけが人生というのは悲しいが、自分の存在が彼女の枷になってしまったのだとしたら、どこか申し訳なさを覚えてしまう。
メイを想い、複雑な感情を覚える皆葉だが、一つの答えに収斂する。
「彼女を助けることができて、良かった」
闘いが始まる前も、始まってからも、メイは真っ直ぐに突き進んできた。その愚直さが、皆葉にとっては眩しく見えた。
今後どういう関係を構築していくかは分からない。だが、メイとあらためて話をしたい。
「…………うん?」
自分の気持ちを整理したところで、とある記憶――いや記録が気になった。
それは、暁光冥に関する情報。
NINJAが整理した暁光冥の経歴。それだけなら、気になる情報ではあるが、それほど着目することはないだろう。皆葉の目に留まったのは、その家族構成。
妻は死亡しているが、娘が2人生存している。
記されている名前は、暁灯。そして、
「……不知火……闇」
次回は途中で別れた、麗と神奈の話です。




