闇の呪縛 第1章-2
「この条件を呑みますか? 呑みませんか?」
突きつけられた契約。だが、皆葉は迷わなかった。
「ああ、呑もう」
「GOOD」
「だが、一部条件が曖昧だな。『1』の近くというのは、具体的にどの程度の距離だ?」
「そうですね……なら、10メートルにしましょうか。家で一緒に過ごすのをイメージしてたんですけど、どうです?」
「…………」
熟考すること数十秒。
「……わかった、それで構わない。それと、休戦が終わったら、どうする?」
「それは……終わってから判断しましょう。ボクとしては、そこまで縛るつもりはないです」
「そうか……なら、契約しようか」
「では、やりましょう!」
少女は右手を虚空に突き出す。
「契約術式起動!」
少女が術式の起動を宣言すると、虚空に光が現れる。
「契約対象・神皆葉。
契約内容・現在から7日間が経過するまでの休戦
条件1・神皆葉は不知火闇と1日の内10時間以上を半径10メートル以内の距離で過ごす。
条件2・神皆葉及び不知火闇の関係者は、両名に危害を加えてはならない。
条件3・条件1又は条件2に反する場合、本契約は直ちに破棄される。
契約条件提示!」
光は少女――アンの宣言した言葉を虚空に書き出していき、最後の言葉と共に、文字列が皆葉の前へ移動していく。
「契約条件応諾!」
皆葉が返答する。メモリが5画失われていくのを2人は実感し、ここに契約は成立した。
「はい。これで契約締結だね、お兄ちゃん」
「お兄ちゃん?」
「ボク、お兄ちゃんが欲しかったんだ。お姉ちゃんは、いなくなっちゃったから」
「いなくなった? それは」
「やめろ!」
皆葉が意味深なつぶやきに疑問を覚えたところ、それを遮って神奈はアンにくってかかる。
「どうしたの? なんちゃって妹の神代神奈さん?」
「私以外の人間が、彼を兄と呼ぶな!」
「はあ……。何度同じことを言えばいいのかなー」
苛立たしげに、アンは言う。
「冷静になれって、貴女のお兄さんは言ってるでしょ? バカなの? アホなの? どんだけ単細胞なの? 少しは学習してよ」
「やめるんだ……神奈」
「兄さん……」
「お前も分かっているだろう? 今の契約によって、君たちは彼女に手を出せなくなった。一方的に、彼女が君たちを始末できるようになってしまったんだ」
「……」
「だから、この1週間。君たちは僕から離れててくれ」
「兄さんッ!?」
「当然だよね。いつ寝首を掻かれるか分からない条件下で、一緒にいられるわけがない。まあ、神代神奈さんは、ボクとお兄ちゃんが、一緒にいるのが気にくわないだけだとは思うけど」
「く……!」
全身を震わせる神奈。だが、やがてそれは静まり、
「わかり……ました」
身を引き、乗ってきた車へと戻り、その場から立ち去っていった。
「さて、お兄ちゃん。ボクたちも行こうか」
「……」
「そんなに難しい顔しないでよ。さっきの質問にも、追々答えてあげるからさ。ともかく、ボクの家に行こうか」
そう言うと、アンは皆葉に抱きつく。すると、
「なに?」
皆葉の身体が軽々と、アンに持ち上げられてしまった。
(どこに、そんな力が)
「ああ、これ? 力じゃないよ、魔術」
疑問を口にする前に、アンは皆葉の疑問に答える。
「お兄ちゃんは疲れてるでしょ? だから、ボクが運んであげるね」
言うや、アンは皆葉を抱えたまま、宙へと浮かんでいく。
「どんな魔術かは、想像にお任せするよ。じゃあ、行くよ」
高層ビルぐらいの高さまで浮かび上がると、2人は高速で一直線に飛翔していく。
この後は、2人の同棲生活(?)が始まります。




