闇の呪縛 第1章-1
新章開幕です。サブタイトルで新たな敵が分かるのは、お約束ということで。
「ようやく会えましたね。先輩」
そう語る少女を前に、皆葉には2つの考えが巡る。
(先輩?)
自分を知っているような口調だが、皆葉には覚えがない。そして、それ以上に問題なのが、
(この疲弊した状況で、新たな”神の道化”が現れるか)
警鐘を鳴らし続ける神霊石。現在2つの神霊石を入手した皆葉には、メモリを使った各神霊石の機能以外に、新たなる機能が追加されていた。
・1つ入手 他の”神の道化”の大体の位置が分かる。
・2つ入手 他の”神の道化”の属性が分かる。
1つ目の機能は、”火”の神霊石を入手してからバタバタが続いていたこともあって使うことがなかった。だが2つ目の機能は、新たなる”神の道化”と相対して、即座に使用されることになる。
(……”闇”……か)
機能を意識して目の前の少女を見ると、少女の全身から、薄く黒いオーラが漂っているのを認識できる。
”闇”――闇を形にして射撃したり、闇を纏うことによって姿を隠すといった用途があるが、
(”闇”でどんなことをしてくるのかが……分からない)
自分が想像できない魔術行使が、皆葉の警戒心をさらに上げていく。
「どうしたんですか、先輩? 何をそんなに怯えてるんです?」
そんな不安を見抜くように、少女は語りかけてくる。
「……先輩?」
「ええ、先輩ですよ。ボクから見て、神皆葉さんは年上なんですから、先輩と言っても良いでしょ?」
「……君は、僕とどこかで出会ったことが?」
「中学校の時ですよ。ボクは先輩の一つ下で、一方的に知っているだけです。何度か声をかけようとも思ったけど、そちらのこわーい人が目を光らせてたんで、できなかったんです。ねえ、神代神奈さん?」
少女は、いつの間にか車から出て皆葉の隣に立っている神奈に向けて話しかける。
「神奈。君は、この子のことを知ってるのか?」
「いいえ」
「まあ、そうでしょうね。あの当時は、先輩に近づく輩を見境なく排除してましたから。さすがにあそこまで狂った獣のように立ち回る人がいたら、先輩に近づくのはできないですよ」
くすりと笑いながら、少女は神奈を見やる。
「先輩も不憫ですね。束縛が激しい身内が、善悪問わず排除しようとするんですから。寂しい思いをしたんじゃないですか?」
「く……黙れ!」
苦悶の表情を浮かべ、神奈は身構える。カードを握りしめ、即座に3枚を弾いて射撃する。
「……はあ」
溜め息混じりに、少女は右手を前に突き出す。少女を襲う3枚のカードは、少女の目前まで迫ったが、急速に落下して地面に叩きつけられた。
「先輩が絡むと感情的になるの、少しは改めたらどうですか?」
「ッ!!」
少女の嘲りに、神奈の怒りが爆発した。憤怒の表情を浮かべ、少女を始末しようとする。
「やめろ、神奈!」
少女に向かって駆け出そうとした矢先、皆葉によって神奈は制止させられた。
「落ち着け! この状況で彼女に手を出すと、下手したら全員死ぬぞ!」
「ッ!?」
言われて、神奈は動きを止める。現在の追いつめられた状況が、彼女の思考を揺らす。
・神皆葉が現在用いうる神霊石は、共に魔力がほぼ残っていない。
・新たに入手した”水”の神霊石は、皆葉と同調していないためまだ使えない。
・神代神奈と円麗も、皆葉の支援のために魔力を多く使っており、万全の状態であろう”神の道化”を相手にできるわけがない。
「……すいません、兄さん」
「分かればいいんだ。とりあえず、今はこの状況を打開するために、何があっても落ち着くんだ」
「はい……」
「そろそろいいかな?」
「ああ。それで、君はどうしたいんだ?」
「どうするとは?」
「僕を倒したいなら、問答無用で始末にかかればいいだけだ。だが君は、僕と対話することを選んだ。そこに、何らかの意図があると思うが?」
「さすが、神皆葉さん。どこかのクールと見せかけて実は直情的な人とは違って、冷静ですね」
「この……!」
「神奈!」
「……はい」
「ふう……君も、挑発して遊ぶのが目的じゃないだろう? そろそろ、本題に入ってくれないか?」
「ええ、そうですね。では、ボクの目的を語りましょうか」
意気揚々と、少女は告げる。
「ねえ先輩。ボクと、契約しませんか?」
「契約?」
「そう、契約です。今の貴方なら、おそらく容易く始末できるでしょう。ですが、“緊急脱出術式“で逃げられる可能性が高い。なので、契約したいということです」
「……具体的に、どんな条件で?」
よくぞ聞いてくれました、と楽しげな表情で少女は告げる。
1 1週間の間、互いに危害を加えることを禁ずる。
2 2人は1日の内10時間以上を近くで過ごす。これに反する場合は、期間の残り日数に関わらず、1の制約は解消する。
3 互いの関係者が、2人に危害を加えた場合も、2と同じく制約は解消する。
「ということですが、いかがですか?」
「?」
皆葉は困惑する。その条件で、少女にどんなメリットがあるというのか。一方、神奈はその意図を理解したようで、
「この……!!」
憎々しげに、少女を睨みつける。
「神奈?」
「兄さん、こんな条件呑む必要はありません。ただちに逃げましょう!」
「いや、1週間とはいえ、安全に回復する時間が得られるなら、悪くないと思うが」
「ダメです! この女の思惑は」
「はいストップ」
その先は言わせない、とばかりに少女は神奈を遮る。
「ねえ神代神奈さん。さっきお兄さんから冷静になれと言われたばかりなのに、もう忘れたの? ボクの条件が気にくわないと言っても、決めるのはお兄さん。それに、もし“緊急脱出術式“で逃げようとしたら」
朗らかに話しかけてきた少女の顔が曇り、
「貴女と車に乗ってる女は、殺すよ?」
鋭利な鎌を首に突きつけるように、明確な殺意を口にする。
「ッ!?」
言われて、神奈は車に残っている麗を見やる。神奈が車外に出る際、いつでも逃げられるように待機するよう伝えたので、麗は車に残って運転席で準備をしていた。
「く……!」
悔しげに、神奈は少女を睨む。だが睨むだけで、もはや言い返すことはできなくなった。
「理解してもらえたようで良かった。さて、先輩」
「この条件を呑みますか? 呑みませんか?」




