水の咆哮 第4章-2
午後11時40分。
教育区のモノレール駅を下り、皆葉たちは新緑高校の正門前にまでたどり着いた。
「……それで、何の用だ?」
その道のりを妨げる業紅蓮に、皆葉は問う。
「なーに、お連れの二人を案内しようと思って、出向いてきただけだよ、少年」
「案内?」
「ああ。これから始まる、水のお嬢さんとの決戦――その観覧席にな」
「ちょっと待って」
麗が口を挟む。
「あなた、私たちの邪魔をするつもり?」
「邪魔などと滅相もない。ただ、純粋にどっちが強いのか、それを知りたいだけさ。なので、余計な人間には介入してほしくないわけだ」
「つまり、邪魔をするということじゃない。なら、それを拒んだら?」
「残念だが、実力行使せざるを得ない。俺ができないのは、神皆葉に対する攻撃のみ。連れのお嬢さん方に対しては、何ら制約はない」
実証済みだろう、と紅蓮は神奈に告げる。
「……余計な介入というのは、私たちに限らないということですか? ちょっと前に流れてきた、DBなる人物も含めて」
「そうだ。どちらかというと、対DB戦のために協力をしてほしい。NINJAはさほど戦力にならない以上、魔術師の力がどうしても必要だ。
なので、“水”のお嬢さんとやり合うのに力を使ってもらうより、DBを撃退するために力を温存してもらいたい」
あっけらかんと、紅蓮は神奈に理由を話す。
「なるほど。なら、案内してもらいましょうか」
「ちょっと、神奈ちゃん⁉」
「麗さん。面白くないのは分かりますが、ここはこの男の言うとおりにしましょう。それに、兄さんにとって悪いことでもないですし。ですよね、兄さん」
「ああ」
皆葉は頷く。
「では、エスコートさせてもらおう。少年よ、健闘を祈る」
紅蓮は片手を上げてる。すると、どこからか黒塗りの車が現れ、彼らのもとに近づいてきた。紅蓮は後部座席のドアを開け、二人に乗るよう促す。
「また後で、兄さん」
神奈は素っ気なく一言告げ、そそくさと車に乗る。
「……」
「……麗さん。僕は大丈夫だから」
「……わかったわ」
麗も車に乗る。
「……あの女に負けたら、承知しないからね!」
ドアが閉められ、車は去っていった。
一人残された皆葉は、門を潜り、校舎へと歩き出していく。
* *
午後11時55分。新緑高校グラウンド。そこには、”水”の神の道化――水無月メイが立っていた。
メイは自分の胸に手を当て、深呼吸する。
(――大丈夫。体調は万全。ハプニングは起きてても、活動に支障はない)
当初――神皆葉が業紅蓮を撃破した際、漁夫の利を得るべく動こうとしたメイだが、それは神代神奈の介入によって防がれた。
その後は、皆葉との”契約術式”によって他者からの介入はできなくなるはずだったが、メイの預かり知らぬところでNINJAが動くことで、メイの利になるような展開になるはずだった。
しかし、神奈や麗の活躍と紅蓮の妨害、そしてDBの出現によって、純粋な神の道化同士の力を競う戦いが行われようとしている。
「待たせたね」
メイにかけられる声が一つ。同時に、胸の神霊石が警鐘の鼓動を鳴らす。声の主は、緑色の髪をした少年――神皆葉。
「そうでもないよ。あたしも、少し前に来たばかりだから」
デートの待ち合わせをしていたかのようなやりとり。しかし、これから起こる出来事は、そんな甘いものではない。
「あと数分か。僕の方はもう始めてもいいけど、そっちは?」
「そうね……せっかく二人っきりなわけだし、少し話でもしない?」
「いいけど。何を話したい?」
「決まってるでしょ。あたしが勝った後の話よ」
メイは語り出す。
一つ。メイだけを愛すること。
一つ。メイに協力し、メイのためだけに動くこと。
他にも、独善的な項目が羅列されていくが、大きな要求はその二つだった。
「あたしからの要求はそんなところ。さて、始めましょうか?」
「ちょっと待った」
「何?」
「僕が勝った場合の話は聞かないのかい?」
「聞く必要がある? あたしが勝つに決まってるんだから」
「……まあいいや。僕からの要求は、勝った後に突きつけてやるから」
「あっそう。さあ、時間よ!」
午前0時00分。”生命”と”水”――二人の神の道化による決戦の火蓋が切って落とされた。
ようやく皆葉とメイの戦いになります。
次回更新がいつになるかは未定ですが、できるだけ間隔を開けないようにしたいと思います。




