水の咆哮 第4章-1
約10か月ぶりの更新です。
商業区のモノレール駅内にある駅員室。
仮眠用のベッドからゆっくりと、神皆葉は起きあがる。
「……少し、眠りすぎたか?」
壁にかけられている時計を見ると、午後11時20分。自己暗示で設定した時間を5分過ぎている。
「僕の魔術が失敗したか、それとも余分に休息が必要だったか」
「疲れてたんじゃない?」
疑問に応える声が響いてきた。
「おはよう、皆葉君。これ飲む?」
円麗は、両手に缶コーヒーを携えて皆葉に近づいてきた。
「おはよう、麗さん。もらうよ」
麗が差し出してきた缶コーヒーを受け取り、皆葉は口をつける。
「……ブラックか」
「――ブラックは嫌い?」
麗もまた、缶コーヒーに口をつけてから尋ねる。
「飲めなくはないけど、今は糖質がほしい……」
「そう。なら、こっちにしたら? 私のは甘いから」
「いいのかい?」
「私も甘い方が好きだからこっちにしたけど、ブラックも飲めるわよ。あなたは目覚めたばかりだから、ブラックの方が良いと思ってそれを買ってきたけど」
「ああいや、それもあるけど」
「あるけど?」
麗がニヤニヤと笑みを浮かべて、皆葉に顔を近づけてくる。
「あるけど、何?」
「いや、いい……。君が気にしないなら、僕も気にしない」
「ふーん……濃厚なキスをして発情してた神皆葉サマともあろうお方が、今更間接キス程度で初な反応をするわけないわよね。さ、私の口をつけたもので悪いけど、どうぞ?」
「……ああ、もらうよ」
ばつの悪さを感じながらも、皆葉は缶コーヒーを交換する。
「はあ……ッ!」
一息ついて、皆葉は一気に缶コーヒーを流し込んだ。
「……もっと味わって飲めばいいのに」
不満げに、麗はつぶやく。
「お前が言うなと突っ込まれるだろうけど、味わっている場合じゃないからね。それで神奈は?」
空になった缶をゴミ箱に入れ、皆葉は麗に尋ねる。
「あの子なら、モノレールにいるわよ。動かそうとしてるみたい」
「そうか。なら、行こうか」
二人は駅員室を後にする。
モノレールの運転席で神代神奈は、”生命”を使ってコンピュータにアクセスしていた。
数時間前から、モノレールを含めた公共交通機関は運行を停止していたがため、本来であればモノレールは動くことができない。しかし”生命”による命令は、機械にかけられていたロックを解除し、今すぐにでも運転を可能としていた。
「調子はどうだい、神奈」
運転席に入り、皆葉は神奈に声をかけた。傍らには麗の姿もある。
「ああ、兄さん。モノレールは今すぐにでも動かせます。不幸中の幸いと言うべきか、他の車両はメンテナンスに入っているようで、路線上に障害物はないです。十分間に合いますよ」
「そうか、ありがとう。なら、すぐにでも行こうか」
「わかりました」
麗はコンピュータに触れ、”生命”を使って指示する。
モノレールのすべての扉が独りでに閉まり、加速を始めた。
* *
座席にかけ、皆葉は自分の持ち物を点検する。
カード――残数20枚。
アサルトライフルの弾丸――30発入りの弾倉が5つ。
ハンドガンの弾丸――15発入りの弾倉が2つ。
武器に使えるのはこの3点。他に栄養ドリンクがあったが、すでに飲みきってしまっている。
(カードは大分使ってしまったな)
NINJAの前哨戦で、皆葉はメイとの戦いに準備したトランプのカードを半分以上使わされてしまった。魔術による攻防は、消費を抑えても数回――いや、
(メイちゃんの実力からして、おそらく3回ぐらいか)
紅蓮の経験を追体験している皆葉は、メイとの戦いの知識もあった。彼女の魔術は、練達されているのか威力が高く、トランプに込められた魔力を使う場合は、防御するにも相当の量が要求される。状況にもよるだろうが、余剰魔力を込めたトランプはすぐに使い果たしてしまうだろう。
(幸い、僕たちを襲ってきたNINJAからは、弾薬を頂戴してきたから、極端に分が悪いわけではないけども)
戦況が刻々と変化していた先の戦いでは、NINJAもがむしゃらに銃撃をしてきたのもあり、回収できたのはそれほど多くはなかった。銃本体もいくつかあったが、嵩張るのと、皆葉自身が魔術媒介を使って具現化できるので、持ってこなかった。
(あとは、神霊石か。見たところ、まだ麗さんの中から取り出すのはまずいようだし、このままでいくしかないか)
弾薬と一緒に鹵獲した弾帯に弾倉を装着し、瞳を閉じる。




