水の咆哮 第3章-11
約4か月ぶりの更新になってしまいました。
円麗と神代神奈が話をしている中、神皆葉は麗の言いつけ通り、ベッドで眠っていた。今後の戦いのことを考え、20分程度の仮眠にしようと、自己暗示をかけて眠っていた。しかし、
(実に、面白いことになってきたものだ)
皆葉の意識は覚醒していた。いや、皆葉ではない、”彩破”の意識が。
(神奈の狼狽は、彼女のルーツがどこにあるか、か)
神奈が麗に打ち明けた、紅蓮によって白日の下にさらされた、自身の出自。それは、皆葉との関係性の否定を意味していた。
(幼少期からの私の記憶には、神代神奈に関するものはない。当たり前のように皆葉と共にいたから疑問を持たなかったが、こうして目の当たりにすると、確かに疑問を覚える。神奈は何者なのか)
彩破は思考する。与えられた情報と、先日の神奈とのやりとりから、彩破は考えを構築していく。
(そもそも、神奈はなぜ魔術媒介なしで魔術を使える?)
①神の道化であるが、本人は自覚していない。
→皆葉や他の神の道化から認識されていないので、少なくとも今回の戦いの神の道化ではない。
②麗と同じように、一時的に神霊石を貸与されて”改造”された。
→今回の戦いではなく、可能性としては前回の戦いならありえるか。
③他の要因で、生まれながらに神の道化並の素質が与えられている。
→神の道化の素質は不明だが、竜律華という存在があることから、可能性はないこともない。
(②か③ぐらいしか思いつかないが、ここにさっきの事象を加味すると、どうだ?)
彩破は少し前の出来事を振り返る——神奈とキスをしていた時のことを。
神奈とキスをしている間、神霊石が神奈の唾液に反応したのか、急激に活性化した。
魔術師の体液には魔力が宿っている。その魔力に反応したのか、自身の神霊石の活動が活発化し、魔力の生産量が異様に向上した。今ではほぼ、NINJAとの戦いで消費した魔力は回復しており、魔力だけを捉えれば、睡眠は必要ない。
(私の”生命”の神霊石と反応するということは、おそらく神奈は”生命”の神霊石と何らかの関係がある。ならば、それは何だ?)
考えられる要素——”生命”の神霊石に関わる者——神皆葉と神刹那。
(私との因縁では、おそらくない。ならば、親父との関係性を考えるのが妥当か。なら、それは何だ?)
神刹那——過去の戦いにおける”生命”の神の道化。当時の戦いでは生き残ったとのことだが、優勝者は違う神の道化。だがそもそも、
(親父が生き残ったというなら、それはどうしてだ?)
10年前の戦いが終わってから、神刹那は業紅蓮や竜律華と遭遇している。今の生死は不明だが、ゼロサムゲームであるこの戦いを生き残ったということだ。その事実が、まずおかしい。
(メモリがなくなれば、神の道化は死ぬしかない。”優勝者”がいるのならば、親父は神霊石を持っていないはず。ならば、どうして生きていられた?)
神の道化は、心臓を神霊石に変えられた者。それを失うということは、死を意味する。だが”生命”の神の道化は事情が異なる。
(——あるとすれば、自分の心臓を創り出したというところか)
他ならぬ皆葉自身が、それを他者に対して行っている。自分に対して同じことを施すという状況が想像しづらいが、理論的にはできないことはないのだろう。
(それができるなら、私もこの戦いから逃げようと思えば、できるというところか)
一つの案が浮かぶ。しかし、彩破はすぐにそれを頭から振り払う。
(まあ、それはいよいよ、危ない状況になったらにするか。今はまだ、焦る必要はない。それに、私にもできるかは、怪しいところだ)
自分の心臓を作り出して、自分に埋め込む。考えるのは簡単だが、実行に移せるかというと、それは相当厳しい。
自分から神霊石を取り外した時点で、神の道化としての能力が失われる。その上で、自身への施術を完了しなければならない。
(脱線したが、とりあえず考えることは、親父のその後か。神霊石を失っても、どうにか生き残った。なら、親父から摘出された神霊石は……どうなった?)
”優勝者”という存在がいるならば、筋からいけばそいつが手にしたのだろう。だが、何らかの要因があって、そいつが”生命”の神霊石を手にしていなかったとしたら。
(…………だとしたら、神奈は…………)
答えに至ろうというところで、彩破の表情が曇る。
(……どちらにしても、これはまだ、”皆葉”に共有させるわけにはいかないか。それに、もう時間か)
彩破は壁に掛けられている時計を見る。時刻は、午後10時35分を示していた。自己暗示が終わる時間だ。
(できれば……私の考えが外れていてほしいものだ)
願うように、祈るように、彩破は想った。意識を虚空へと飛ばし、自らに施した自己暗示に従い、皆葉に身体を委ねていく。
前の戦いで父親が生き延びていた理由は、概ねこんなところです。詳しい話はまた後で出てきます。
神奈の事情についても、もうしばらく後になりますが、ここでは触りというところで。




