水の咆哮 第1章-3
第2章ー2からの続きになります。
場面は、第2章ー1で皆葉が去ってからの、麗と神奈のやりとりから始まります。
皆葉とメイが去った屋上で、麗は神奈にある事を頼まれていた。
「麗さん。兄さんのそばにいていただけませんか?」
「……なぜ?」
「兄さんは今日、さっきの女と戦います。おそらく、あの女の属する組織の連中が、兄さんに何かしてくるはずです。だから」
「あー、それも聞きたいことだけど、違うの。そうじゃない」
「私を嫌っているあなたが、なぜ私に頼みごとをするの?」
「……」
「『大好きな皆葉兄さんの一大事、だから私が何とかしなきゃ』というのが、あなたが考えそうなことだと思うけど、何で私にそれを頼むの?」
「それは……」
メイは黙り込む。
「もっと言いましょうか。あなたと最初に会ったとき、あなたは私を目の敵にしたでしょ。大好きな兄さんにつきまとう、お邪魔虫、そんなところだと思うけど、どうしてそんな女に、あなたは頼ろうとしてるの?」
「……」
「それとも、彼に何か言われた? それともされた?
私はあなたのことをあまり知らないけど、多分あなたが色々してきたから、彼はあんな屈折した人間になったんじゃないの?」
「違う」
「違わないでしょ。今まででも、私みたいな物好きはいたとは思うけど、多分あなたが悉く排除してきた。だから、彼はひとりぼっちになってしまった。違う?」
「……」
「彼の境遇もあるだろうけど、あなたが彼の成長を阻害してきたから、彼は他人との接し方がわからない。
私が彼と数日間接してきて感じたのはそれ。で、あなたがどうして私に頼みごとをしようとしているのかは、彼から何かを言われたから、じゃない?」
「……そうですね」
諦めたように、神奈は口を開いた。
「あなたの言うとおりです。私は、兄さんから他人を遠ざけてきました。だって、みんな兄さんをイジメるんですから。でも、あなたと出会ってから、兄さんは楽しそうにしているのがよくわかります。
さっきも、”感情”を理解できていないから、全員に対して煮え切らない態度になったのだと思います」
「でしょうね。それで、私に頼む理由は?」
「……」
神奈は黙り込む。
「神奈ちゃん?」
「…………分からないんです」
しばらく押し黙った後、神奈は口を開いた。
「分からないって?」
神奈は今朝の出来事——皆葉が目覚めてからの話を語り出した。
皆葉に詰問され、これまでの彼女がしてきたことについて問われた。そして、
「あなたを排除するのかと聞かれて、私は『そのつもりです』って言えませんでした。おかしいですよ、今までの私なら、即答できたのに。
それからです、私の思考がおかしくなってきたのは。当初は私一人でどうにかするつもりでしたが、なぜか私は、あなたに頼るべきだと考えてしまっている。あなたが兄さんの近くにいることを、許容してしまっている。
確かに、多少なりとも魔術をかじったあなたがいれば、兄さんの助けになるかもしれない。私は私で、別方向から敵に牽制をすれば有利に立ち回れる。理屈で言うなら正しいです。
ですが、私がその考えができる理由が、分からないんです。どうして、どうして?」
思いの丈を、神奈は吐き出した。
「……」
麗は少し考えて、彼女の疑問に答えを見いだした。
(この子もまた、皆葉君と同じ)
皆葉が孤独であったように、神奈もまた孤独。
(いや、皆葉君と同じというよりは、もっと幼い)
最初に神奈と接した時、彼女は麗を脅した。皆葉に関わる者はすべて排除すると。だが、実現できる力があるとしても、その思考はあまりにも幼い。程度の差はあれど、人は他者と関わらなければ生きていけないのだから。
皆葉たちのように極端な生き方をしてこなかった麗には、それが理解できた。だから、
「あなたもまた、彼と同じ。”感情”が分からない」
「え?」
「他者を徹底的に排除したいというのは、あなた自身も”感情”が分からないから。他者と接してこなかったから、接し方が分からない。だから、誰が相手でもあなたは同じような反応しかできない。
でも、私という物好きが余計に関わってきたせいで、あなたの思考回路にエラーがでてしまった。だってそうでしょう? はたから見たら面倒くさいことこの上ないあなたたちと関わりたいっていうのは、余程の物好きでなきゃいないんだから。
で、いざそういう人間に遭遇してしまったら、あなたはこれまでと同じように対応して良いものか分からなくなってしまった。これが、あなたの問いに対する答えだけど、どうかしら?」
麗が示した答え、それを聞いて、神奈は何も言い返せなかった。
口を開こうとしても言葉が出てこず、口をパクパクと開いては閉じて、というのを繰り返していた。
「……ッ」
「……ふう、さて」
「意地悪な問答はもういいかな? じゃあ神奈ちゃん、私はどうすれば良い?」
「……麗さん?」
「なに惚けた顔してるの? 別に私は、あなたたちを手伝わないとは言ってないわよ。どうしようもないくらいに屈折したあなたが、なんで私に頼むのか、知りたかっただけだから」
「……ありがとうございます」
「ということで、兄さんが大好きなあの子は泣く泣く私に頼みごとをしてきたわけ」
神奈の心情をはぐらかして、麗は皆葉に経緯を話した。
「あの子はどこかで戦ってる。私は、生徒会長以外の連中からあなたを護るために、ここにいる」
「僕を護る?」
「そう。あの生徒会長の意志とは無関係に、おそらくNINJAが仕掛けてくるのは間違いないでしょ? で、あの妹モドキは遠くからあなたを護っている。私はあなたの近くで、あなたを護る」
「君は、ちょっと前までただの人間だった。神奈は、そんな君を巻き込んだのか」
「違うわよ」
「私があなたたちと遊ぶために首をつっこんでるの。勘違いしないで」
「・・・・・・はあ。なら、勝手にするといい」
「あれ? 笑った?」
「気のせい。さて、続きをするから、君は遊んでいるといい」
皆葉は中断していた作業を続ける。
「遊べって・・・・・・なら、遊んでやろうじゃないの」
そう言って、麗は自分の鞄を漁りだした。
皆葉と麗の二人から視点が変わり、次は妹モドキの話を予定してます。




