水の咆哮 第1章-4
円麗と別れた神代神奈は、新緑高校にいた。
放課後ということで、部活動に勤しむ学生が校舎内に散在しており、神奈が一人で校舎をうろついていても目立つことはなかった。
18時。下校時刻が来たので、学生たちは皆下校していく。
(・・・・・・特に手がかりはなし)
広い校舎に加え、グラウンドまで歩き回ったが、NINJAらしき人間と遭遇することはなかった。
神奈は校舎入り口にある自販機にて缶コーヒーを購入して一息つく。
(兄さんたちは無事だろうか。ただの人間相手でも、絡め手で来られると・・・・・・)
自身が捕らわれた経験から、不意打ちに合うと魔術師といえども無力化される可能性がある。せめてどういった動きがあるのかという手がかりでもあれば、皆葉の助けになるのではないか、との考えで神奈は動いていた。
(いや、大丈夫。お節介なあの人もいるし。それより私にできることをしないと)
缶コーヒーを飲み干して、神奈は動き出す。
(校舎の中だと、学生が入れない場所は職員室ぐらいか。いや、職員がどれだけいるかは分からないけど、NINJAと関係している人がどれだけいるか・・・・・・。いっそ、研究区に忍び込むか)
次なる捜索場所を考える中、
「どうした、神代神奈」
いつの間にか隣に、竜律華の姿があった。
「竜・・・・・・律華」
「ああ、竜律華”先生”だ。で、下校時刻を回っているのに、お前はどうしてこんなところで道草を食っている?」
問いかけながら、律華は自販機でコーラを買い、一気に飲み干している。
「・・・・・・貴女には関係のないことです」
空き缶を捨て、神奈はその場を離れようとする。だが、
「お前が探しているものは、職員室を探せばあるんじゃないか?」
「え?」
神奈は思いがけない情報を聞き、振り返る。
「竜先生?」
「一応、私にも関係のあることだぞ、これは。さて、私にはやることがあるから、お前を助けることはできない」
「助けてもらおうとは考えてませんでしたけど・・・・・・。私が何を探しているのか、ご存じで?」
「神代神奈というキャラクターと、今日起きるイベントとを照らし合わせれば、想像は難くないさ」
「——まあ、そうですね。で、竜“先生”はこの件について、どの程度ご存じなのですか?」
律華の思惑はどうあれ、彼女もNINJAの関係者である。素直に答えてもらえると期待はしていないが、神奈はダメもとで聞いてみた。
「私か? お前の質問に答えられるような情報は持ってないぞ。精々、奴らの腐った根性からやるであろうことは、想像できるがな。
で、お前のほしい情報は、さっきも言ったところにいる輩が、知っていると思うぞ」
「・・・・・・変な人」
律華は質問に答えると、去っていった。その姿を見届けながら、神奈は一人ごちる。
(あの人が何を考えているかは分からないけど、とりあえず職員室を調べるとしますか)
18時30分。職員室の前に着くと、神奈は職員室の扉に手を当てる。
(兄さんから教わったとおり、魔力を使いすぎないように)
慎重に魔力を練り上げていく神奈。彼女の手から、”生命”の魔力が扉に流れていく。
(——中にいるのは、1人だけ)
扉を通して、職員室全体の状況が知らされてくる。生命反応は1人のみ。しかし、
(どんな人がいるか分からない。でも、NINJAの関係者だというなら、端末を覗けば何か分かるかも)
思い立つと、神奈は職員室の前から離れる。
18時40分。神奈はまず、Aクラスの教室に来た。
(この校舎は屋上を含めて8階建。さすがに全部の場所でやる余裕はないけど、いくつかの場所を分散させてやれば時間は稼げる)
ポケットに手を伸ばし、獲物を取り出す。その手に握られるのは、皆葉と同じトランプだった。
(手持ちのトランプは、魔力ありとなしが1束ずつ。無駄遣いはできないけど、上手くやれば)
魔力が込められているカードが1つ、天井にある火災報知器に向けて投擲される。
続けて神奈は、校舎内の教室や理科室等の火災報知器がある部屋を周り、計8カ所にトランプを仕掛け終えた。
19時10分。トランプを仕掛けおえると、神奈は再び職員室のある1階に戻ってきた。
(さあ、あとはどれだけ反応してくれるか)
神奈は目をつむり、念じる。すると、
じりりりりり!
どこかの階の火災報知器が鳴り始めた。
数秒後には、職員室にいる人物が出てきて、どこかへとかけていく。その人物は、赤い短髪の男だった。
(ッ!)
男の姿を捉えると、瞬時に神奈の心臓が鼓動を早め始めた。
その男は豪紅蓮。数日前、神奈を拉致し、そして皆葉と激闘を繰り広げた元“神の道化”。
紅蓮の姿を見て神奈は恐怖を覚えるが、意を決して職員室に入っていく。
職員室に入ると、30台を越える机が並んでいた。何も情報がなければ、紅蓮の机を探すのは相当時間がかかっただろうが、神奈には情報があった。
(入る前に確認した時、あの男は確か)
扉越しに確認した生命反応から、紅蓮がいた大まかな場所は分かった。その範囲を探ると、ちょうど1台だけ、パソコンの電源が入っている机があった。
神奈は紅蓮のものと思しき机の前に行き、椅子にかける。
(直前までパソコンをいじっていたなら、この中に情報が)
早速キーボードに触れるが、
(やっぱり、ロックがかかっているか。でも)
神奈の手に”生命”の輝きが灯る。パソコンは緑色の魔力に包まれ、ロック画面には自然とパスワードが打ち込まれていく。
(——解除完了。さあ、何がある?)
ロックが解除されると、画面に現れたのは何かの時系列上の出来事をまとめたような、いわば作戦進行状況のようなデータが現れた。
データにはいくつかの項目——シートがあり、神奈は「対象」のシートを開く。
始めの方に視線を移すと、
『対象S、同伴者Mと供に、商業区にモノレールで移動。
玩具屋でトランプを1束購入。
ミリタリーショップでエアガン2丁、マガジン15個、ホルスター2個を購入』
次の箇所には、
『対象S、同伴者Mと供に、カラオケに移動。フリータイムで部屋を取り、前払いで料金を支払って個室に入る』
(これは、兄さんと麗さんの行動をまとめたものって訳ね)
時間ごとの二人の行動が、事細かく記録されている。さらに、「作戦状況」を開くと、
『狙撃班2名、カラオケ付近のビルにて待機中。対象がビルから出てき次第、狙撃可能。
工作班10名、警察に偽情報を流布し、民間人の排除完了。カラオケ付近の建物に潜伏中。狙撃後、近距離から銃撃可能
予備班18名、商業区から新緑高校へのルート上に待機中。狙撃班及び工作班が作戦に失敗した場合、対象への攻撃予定』
(ここまでの規模で動いていたなんて)
画面に映し出される情報に、神奈は驚愕する。
たった二人の人間を殺害するために、総勢30名の人間が動いている。「作戦状況」には、彼らの装備についても記されており、ロケットランチャー等の重装備があることを示唆している。
(とりあえず、敵の動きと装備は分かったから、これを二人に知らせれば・・・・・・うん?)
データには、もう一つシートがあった。それには、「備考」とある。
神奈は「備考」のシートを開くと、そこには・・・・・・
『副対象S、新緑高校にて行動中。生徒が下校後、特務隊員Gが対応予定』
神奈の行動記録が残されていた。
(マズい!)
神奈はあわてて立ち上がり、その場を離れようとするが、
「少し遅かったな」
背後から男の声が聞こえた瞬間、神奈の後頭部に、銃口が突きつけられた。




