水の咆哮 第1章-2
新緑高校から歩いて5分程度のところに、モノレールの駅がある。これは、4つの区域の主要施設を通るものであり、様々な人が利用する利便性の高いものだ。
時刻は放課後ということもあり、利用客の大半が学生だ。その中に、神皆葉の姿もあった。
(あと6時間と30分か)
腕時計を見て、皆葉は若干の不安を覚える。17時30分――約束の時刻まで、残りわずかであるということに。
彼が目指している場所は商業区。紅蓮との戦いで物資を使い果たしたので、その調達が目的だ。
先日、円麗と商業区に行った際は、寮からの移動であったため、バスを利用した。しかし、今回は学校からの移動ということで、皆葉はモノレールに乗っている。
モノレールに揺られること15分。目的地である商業区——ショッピングモールが乱立する地域で、皆葉は降りた。
皆葉が最初に向かったのは、雑貨屋。そこで物色を始める。
(トランプ、トランプ……)
目的の物を探し、戸棚を物色していく。
(トランプ、トランプ……あった)
目的とするトランプが見つかる。安物は多数あるが、彼が欲するのはそこそこ値段のはる上等な物。最後の1個だけが残っていた。
トランプがあることに安堵して手を伸ばそうとする皆葉。だが、皆葉より先に横からトランプに手が伸び、皆葉の手は空を切る。
「お探しのものはこれね」
皆葉の隣には、円麗の姿があった。
「麗さん?」
「あとは何を買うの?」
麗は皆葉にトランプを手渡す。
「なんでここに……ここでは、これだけだ」
質問をしようとするが、それをやめて皆葉はレジへと行く。
皆葉が次に向かったのは、ミリタリーショップだった。
「ここでは、何を買うの?」
「……これだ」
皆葉が店内を物色し、目的の物を示す。それは、エアガンだった。
「エアガン? そんなおもちゃが役に立つの?」
「おもちゃでも、使い方次第さ。試したいことがあるんだ」
エアガンに加え、ホルスター等のオプション品を買い、二人は次の店へ行く。
ミリタリーショップの次はドラッグストアに行き、最後に着いたのが、5階建のビル。それは、
「カラオケね……君はずいぶん余裕なんだね」
皆葉の目的地に着いた時、麗はつぶやいた。
「トランプにエアガン、それから栄養ドリンクやお菓子を仕入れた後は、カラオケで遊ぶの?」
「僕が、そういう人間に見える?」
「見えないから、聞いてるんだけど」
「当然、遊ぶのが目的じゃない。いい加減聞こうと思うが、なぜ麗さんが僕に着いてくる?」
「いいじゃない。別に、私がいたからって困らないでしょ? それと、学校では話ができなかったから、あなたに色々聞きたいこともあるのよ」
「そう……なら、着いてくるといい。話なら中で聞くから」
二人は自動ドアの先にある受付に行き、前払いで部屋をとる。
案内されたのは、3階の部屋だった。中に入ると、二人は向かいあう用にソファにかけた。皆葉は買ってきたトランプと、ある物を取り出す。
「注射器?」
「ああ。僕のちょっとした小細工のために必要なんだ。それで、聞きたいことを言ってくれ。僕は作業をしながら応えるから」
注射器に加え、圧迫用のひもと消毒器を取り出す。皆葉は左腕を縛り、注射器で血を抜いていく。
「何やってるの?」
「もう少しで分かる」
血液の入った注射器を、トランプの上に持って行く。そして、一滴、血液を垂らす。
「うん?」
麗は疑問を持つ。血液の付着したトランプは、赤く染まることなく、元の色のままだ。
「僕の魔力を、トランプに移しているんだ。
僕が主に使う魔術は”生命”。その特徴は、魔力使用量が他の属性より多い。だから、事前に魔力を備えたサブタンクを用意しておくことで、戦術に幅を持たせたい。魔力は時間経過で回復するから、時間に余裕がある時はこうしておくと、僕のできることが多くなる」
話ながら、皆葉は同じ作業を繰り返していく。
「ふーん。でも、他の魔術師でも、同じことができるんじゃないの?」
「なら、麗さん。やってみるといい」
皆葉はトランプと注射器を手渡す。
「えーと、私も自分の血を抜くの?」
「いや、衛生上それはダメだ。僕の血を、同じように垂らしてみるといい」
「そう。なら試してみるわ」
麗が皆葉と同じように、トランプに血液を垂らす。
「うん?」
トランプは、血液によって赤く染まっていく。
「どういうこと?」
「つまり、単に血液を垂らすだけじゃあ、他の物に魔力を固着できないということ。僕のような”生命”の神の道化か、”生命”を得意とする魔術師でなければ、こういった芸当はできないということ」
「なるほど。なら、あの女はできないってことね」
「あの女?」
「水無月メイ」
「ああ、多分ね。で、他に聞きたいことは?」
麗から注射器とトランプを受け取り、皆葉は作業を再開する。
「そうね……学校では豪紅蓮に関して話を聞いたけど、肝心なことを聞くのを忘れてたわ」
「皆葉君。君は私のことを、どう思ってるの?」
「ッ!?」
皆葉の手が止まる。
「そんなに驚くこと?」
「驚いたんじゃない……わからないんだ」
「わからない?」
「ああ。さっき学校で聞かれた時も、僕には答えが出なかった。君と初めて会った時から、ずっと考えているけど、まだ答えが出ない」
「なるほど。それは、生徒会長と妹モドキについても?」
「ああ。メイちゃんのことは思い出してから好意は持ってるけど、それは幼少期の記憶からだと思う。神奈についても、今まで一緒に過ごしてきたから好意がある。けど、君については、よくわからないんだ」
「……そう」
麗の手が、皆葉の手に触れる。
「私に触れられて、何か思うところはある?」
「……少し心拍数が上がってる」
「はあ……まあいいよ。君がそんななのは、今までの環境のせいだとは思うから、今すぐに答えを出せとは言わない。とりあえずその反応を見れただけでも、今日の収穫はあったかな」
麗の手が離れる。
「さあ、作業を続けて。あんまり時間がないんでしょ?」
「ああ……うん?」
時間がない。確かに、今日の深夜0時に、メイとの対決が待っている。だが、どうして
「君が、それを知っている?」
「兄さんを大好きな、かわいいかわいい妹モドキから聞いたから」
「神奈が?」
麗は語る。




