生命のはじまり、火の襲来 第6章ー9
神奈の姿が小さくなるのを身ながら、皆葉は呟く。
「ありがとう、神奈」
その時、皆葉は自分がどんなことを考えているのか理解できなかった。何に感謝したのか。だが、理由はどうでも良かった。自信を持って、最後の博打に出られた。
「集中、集中……!」
イメージする。自分の脳を。
律華に頼んで、特訓の一環として、皆葉は病院で様々な人間を見てきた。生命の訓練として、軽傷の患者から重篤患者まで。果てには死体まで。様々な人間を見てきた。
今、その経験を基に、皆葉はイメージする。自分の脳を。1つとして認識できるくらい、神経を繋げていく。
――――脳の神経バイパスが増設されてきた。それにつれて、皆葉の視界にはうっすらとした影が見え始めている。緑色の髪をした、無機質な女の姿が。
だが、実体があるわけではなく、あくまでも『神皆葉』にのみ見える、彼に宿った神霊だ。加速度的に彼女の像が明確に映し出されていくが、同時に、
『ようやく、気づいたか』
もう1人の『神皆葉』が、皆葉の意識に介入を始めていた。
「……彩破」
『これで私様は、この不自由な生活を終えられるというわけだ』
「お前は、自由がほしいのか?」
『愚問だな。主人格のお前が存在するために、私はたまにしか身体を使えない。皮肉なもんだな。肉体の主導権はお前にあるというのに、神霊石の使用権は私にあるなんてな。
だが、それもこれで終わりだ。お前がこうしてくれたお陰で、これからは、私様が正真正銘、この身体の主となる』
「……そうか」
微笑を浮かべて呟く皆葉。癪に障ったのか、彩破は怒気を込めて問う。
『何がおかしい?』
「いや、羨ましいと思ってね。僕には、お前の様な明確な欲求がなかった。――違うな。自分で押し殺してきた。でも、今は違う」
皆葉の脳裏に浮かぶのは、1人の少女。何かとつけて皆葉に構い、時には叱り、時には励ましてくれた、お節介な少女。
『待ってるから。帰ってくるって、信じてるから!』
あの時微かに聞こえた彼女の声。彼女と再び会うため、皆葉は突き進む。先の見えない道を。“火”の神の道化だけではない、己が自身の存在を賭けた、非常に困難な、闘いの道を。
「神……霊、けっしょおおおおおおおお!」




