生命のはじまり、火の襲来 第6章ー10
一瞬の隙を突き、豪紅蓮は逃走に成功した。脇目も振らず、ただただ、皆葉から離れることに専念した。
そうして、10分ほど走ったところで、紅蓮は駆け足を止めた。深呼吸して、1つの呪文を唱える。
「回復術式!」
忽ち、失った両腕と、他の大小様々な傷が治っていく。かすり傷1つすらの欠損も見受けられなくなる。
「さて、どうするか」
“生命”を相手にする場合、接近することは危険。触れられると、肉体の操作をされ、自分の意思では何もできなくされる危険まで含む、恐ろしい属性。さらに、魔術師の血液までも利用できる以上、格闘戦だけでなく、近距離での撃ち合いも避けるべき。そう、紅蓮は考える。
ならば、どうするか。紅蓮の装備は、リボルバー拳銃が1丁と、拳銃用弾丸の予備弾倉が数個で、対戦車ロケットはすべて使い切った。狙撃銃も、魔術媒介を使えば構成できなくはないが、狙撃銃に対応した弾丸はない。魔術で狙撃銃を使って攻撃するとしても、距離が離れると、それに応じて威力が減衰していってしまうので、やはり最適ではない。
「使うしか……ないか」
紅蓮は迷彩服をはだけさせて、自分のメモリを見る。残りは、2つ。猶予はほとんどない。ここから通常の戦闘をしても、決定打を与えることができない。逃げ回られて時間がなくなる可能性が高い。そうである以上、最後の手段を選ぶしか、紅蓮には術がない。
「神霊結晶!」
紅蓮のメモリが1つ、消える。残る赤い記号は、『Ⅰ』。
そして、最強の火力を宿した武具が、紅蓮の両手に現れる。左手には、既に長弓となっている盾。右手には、籠手。しかも、紅蓮の魔術媒介――ドッグタグは、胸にそのままぶら下がっている。すなわち、これは完全結晶。神霊石の力を限界まで引き出すことのできる状態。後がない以上、すべてを賭けて皆葉を倒す決意が、そこに現れている。
「さて、少年は……」
ドッグタグを双眼鏡に変化させ、右手に掴んでみる。適当に見渡すと、500メートルほど離れたところに、皆葉の姿があった。その手には、緑色の槍が握られており、髪も腰まで伸びた、緑色のものになっている。全身の傷も癒えていた。
「そうか。君も、勝負に出たというわけか」
互いに奥の手を出し、準備は整った。最後の一撃を放つべく、紅蓮は構える。
左手の長弓を横に向け、そこに右手の籠手をかざす。すると、弓は炎に包まれ、姿を変える。炎を纏う、巨大な不死鳥へと。
「こいつが俺の全力だ。受け取れ、少年!」
両翼を大きく羽ばたかせ、不死鳥は遠く離れた皆葉へと飛翔していった。




