生命のはじまり、火の襲来 第6章ー7
「……」
悲鳴はなかった。激痛という単語では生温いぐらいの、両腕を失った衝撃。痛みによって発狂するのを防ごうと、紅蓮の脳は痛みを遮断させようと信号を発していた。
そして、先刻瀕死にまで追い込んだ皆葉が、銃撃によって開けた穴を塞いで、立ち上がっている現実。それらが、紅蓮に言葉を吐き出させた。
「…………何を、した?」
紅蓮の脳裏には、今起きている現象の原因についての疑問が浮かんでいた。自分が実弾と魔術のフェイントを駆使して、皆葉に重傷を負わせたのだ。そして、自分は皆葉に触れられていない。魔術を使用した痕跡もない。しかし、今紅蓮は、右腕をもぎ取られてしまっている。
「僕の……カード――予備媒介は、僕の魔力を込めて、魔力のサブタンクとしたもの」
「……それが、どう関係している」
「魔力を宿した物体――血液。それが、僕のカードには込められている」
「だから、それがどう関係して……ッ!?」
言い掛けたところで、紅蓮は気がついた。彼の落とされた腕にある、赤い刃。役目を終えて徐々に崩れ落ちて、元の形へと戻りつつある。そう、その原料は、紅蓮が右腕から垂れ流し続けている物質と同じ物。すなわち――
「僕の、血だ。あんたに接近して、生命の力を流し込み、肉体を操作して叩く。当初の狙いはそれだったが、さすがに触れさせてはくれなかった。
だが、血液は、魔力を運搬するもの。当然、魔力を帯びている。そいつがあんたに付いていれば、あとは僕の指示があれば、変化させられる。あんたに撃たれる前に、そうプログラムしておいた」
1歩、皆葉は足を前に出す。それに応じて、紅蓮も引き下がる。皆葉の傷はある程度は塞がっているが、一気に詰められるほど、回復はしていないようだ。続く足が出てこない。
「なぜ、君は動ける。そのカードに込められた魔力は、微々たるもののはず。残り何枚あるかは知らないが、そこまで急速に治療できるはずが」
「これのおかげさ」
皆葉は左手を開いて見せる。そこにあるのは、神奈に渡した、律華から託された指輪。緑色に輝いている。
「神奈がこれに、代謝を高める魔術を施しておいてくれた。だから、ここまで回復できた。さあ、豪紅蓮」
足が自由に利かないことから殴打を諦め、皆葉は戦法を変えた。右手にカードの束を握る。連射ができるように、親指がフリーになっている。
「種明かしは終わりだ!」
親指で、カードを弾くように投げた。1投だけでは終わらず、続けて2投、3投とカードは続く。
「くそぉ!」
両手を失った今、紅蓮にカードを防ぐ手段はない――いや、あった。反射的に足を前に出し、未だ動けないでいる神奈を蹴り上げた。
「がぁ!」
「しまっ!」
軌道修正をしようにも、距離が詰まっていてできなかった。カードはすべて、神奈の背中に突き刺さる。魔力で強化されているため、表面を切り裂くに留まらず、カードの半分が隠れるぐらい、深々と柔肌に食らいついた。
「あああああああ!」
さらなる悲鳴が上がり、前のめりに神奈は倒れようとする。それに動揺して、皆葉の意識は、紅蓮から神奈に移ってしまった。それを好機とばかりに、紅蓮は脱兎の如く、逃走していく。




