生命のはじまり、火の襲来 第6章ー6
「そ……んな」
皆葉は信じられなかった。紅蓮は、弾丸を使い果たして、予備の弾倉を入れている最中だった。なのに、短機関銃は、弾もないのに火を吹いたのだ。その威力は、ただの銃弾のものではなかった。皆葉の腹には大きな穴がぽっかりと開いていて、倒れている神奈の姿が見えそうなぐらいだ。
「少年。君だけが、小細工をしていたわけじゃないぞ」
未だ弾倉は入れ替えていないのに、紅蓮は短機関銃の照準を皆葉に向けている。その右腕は、接近していたため、皆葉の血で濡れていた。
「君は、俺が魔術を不得意としている、と思ったのではないか? だから、こんな現代兵器に頼った攻撃ばかりしてきたと」
皆葉は応えない。露出しかけている臓物を押さえ込み、組織の再生と止血をするので精一杯だからだ。
「それは、半分くらいは合っている。だがな、決して魔術が使えないわけではない。俺自身の総魔力量は少ないからな。“水”のお嬢さんのようにバカスカ魔術を使うと、すぐにガス欠になってしまう。だから、節約していたのさ。それに、意表も突けるだろう?」
こんな風に。そう言わんばかりに、カチリ、と音がした。撃てないはずの短機関銃が、再度、文字通り炎を吹き出した。弾丸のように圧縮された炎の塊が、照準を合わせていた皆葉を襲う。
「くぅ!」
爆発が起きた。直前で、皆葉のカードが立ちふさがったが、炎の塊はカードに接触すると、カードの防御壁ごと皆葉を吹き飛ばした。倒れている神奈の手前に、寄り添うように皆葉は横たえる。
「良く防いだが、その状態じゃあもう無理だ。神霊結晶を出そうにも、怪我が酷くてイメージをする余裕はない。そして、残るは回復術式だが」
早足で、紅蓮は皆葉に近づく。
「唱える前に、終わりにしてやろう」
「ふざけるな」
短機関銃を構えようとした時だった。倒れていた神奈が跳ね起きて、皆葉を庇うように、立ち塞がった。以前対峙したときと同じような、漆黒の殺意を身に纏っている。
「貴様に、兄さんは殺させない!」
徒手空拳で殴りかかる神奈。その手には何も身につけられていない。だが、その拳打と蹴打は、速く重いものだった。一流の格闘家が放つような、緩急がつけられた、鋭く重い打撃だ。
「ほう。数日前より動きが良いじゃないか。少年の惨状を目の当たりにして、怒りが増したか?」
「うるさい! この!」
振り回せど、振り回せど、神奈の拳は当たらない。いくら速くても、紅蓮には神奈の狙いが容易に読み取れていた。真っ直ぐな殺意から、打撃の向かう先が手に取るように、先読みできてしまう。
「君との戦いも嫌いではないが、今は用件を済ませたいものでね」
神奈の拳が止まる。紅蓮の蹴りが、神奈の鳩尾を抉ったからだ。声にならない乾いた音を吐き出しながら、神奈は膝をついて悶絶する。
「しかし、妙だな。詳しくは見ていなかったが、君は少年から、魔術媒介を貰っていたのではなかったか? どうして魔術を使わない?」
前回とは異なり、紅蓮たちがいるのは屋外。それに、消し飛ばした工場の跡地だ。さらに結界まで張ってあるので、周囲のことに気を使う必要がない。にもかかわらず、終始神奈は、肉弾戦しか行ってこなかった。
「何か狙いがあるのか……いや、さっさと終わらせよう」
今度こそ、2人を始末する。短機関銃が、まずは皆葉に向けられた。
「さよならだよ、少年」
紅蓮の指が引き金にかかる。本来、実弾が込められておらず、魔術で攻撃するのだから、引き金を引く必要はない。だが、イメージのし易さという点から、紅蓮はその動作を入れていた。無駄ではあるが、大して時間のかかることでもない。ほんのちょっぴり、指に力を入れるだけだ。
だが、紅蓮には長く感じられた。指に力を入れようとしているが、やけに緩慢で鈍く感じる。いや、そもそも力が入っていなかった。なぜなら、
「血の……斬劇」
どこからか、声がしてきた。瞬間、紅蓮の腕から刃が出現する。
赤く、しかし微妙に緑色の混じった刃だ。紅蓮の腕の肘から先が、さらには短機関銃が、ズタズタに引き裂かれた。短機関銃は消滅して紅蓮の首元でドッグタグとなり、右腕は千切れ落ちていった。




