生命のはじまり、火の襲来 第6章ー5
その時、水無月命は結界間際の所で車から降り、天に舞い上がっていく爆炎を見ていた。いや、戦いの始まりから今に至るまで、そのすべてを見届けていた。
「ミナ……君」
爆炎が収束していく様を見ながら、メイは声を上げずに泣いていた。ただただ、涙をボロボロ流していた。
「大丈夫だ、メイ」
メイの肩に手を置き、無表情で律華は言う。
「私の弟子は、あれぐらいで死にはしない」
「本当……ですか?」
「ああ、問題ない。奴が独自に構築した道具もあるし――ほれ、見てみろ」
律華が指さす。その先には、跡形もなくなった工場跡地がある。いや、それだけではなかった……。
* *
勝った。工場の爆破に成功した瞬間――工場の外で爆炎を見ている紅蓮は、そう確信していた。神霊石の反応はあるが、それは微弱なものになっており、皆葉は死んでいないにしても、相当衰弱していることが推測される。
まさか、ここまで完璧に遂行できるとは――と、同時に驚いてもいた。紅蓮の戦術はこうだ。
まず、重火器で攻撃する。当然、魔術師――特に神の道化相手に、単なる対戦車ロケットが通用するなど、紅蓮は思っていない。狙いは、自身の魔力を節約しながらの、皆葉たちの魔力の消耗だ。最後の一手を防げないように、原資たる魔力を奪う。
次に、攪乱と体力の消耗だ。走り回ることで狙いを察知されないようにし、同時に体力を奪う。紅蓮の体力も消費されるが、長年兵士として戦ってきたので、支障はない。
最後に、逃げ込んだと見せかけて、罠に填める。皆葉に“生命”を使った探査法を教えたのも、安心させてから、これにかけるためだ。しかし、普通に火薬などを使っていては、簡単に、狙いが閉じこめての爆破だと察知されてしまう。
そこで紅蓮は、小麦粉を使うことにした。部下に命じて、工場に大量の小麦粉を搬入させておくことで、小麦粉を使った爆発――粉塵爆発を図った。微細な粒子となった粉塵は、着火すると爆発性の気体を作りだし、そして次々に他の粒子に熱を伝播させ、爆発する。単純に小麦粉だけだと、皆葉が粉塵爆発に気づいたかもしれないので、他の食料品を紛れ込ませることで、カモフラージュさせた。
かくして、狙い通りに爆破ができた。四方を囲まれての爆発ならば、仮に防げるとしても、防御に費やす魔力は計り知れない。一方、紅蓮の魔力は9割以上残っていて、万が一抵抗があっても、対応は容易。そして、弱った所を叩けば、左腕のハンディがあっても、紅蓮に分があるのは自明の理だ。
ゆっくりと、紅蓮は工場跡地に近づく。瀕死になった皆葉と神奈が、そこに倒れて――――――
「なん……だと?」
いた。そこには、30枚ものトランプのカードと、それが形成する大きな青い膜。そして、それに包まれた、皆葉と神奈が倒れている。神奈を庇ったのだろう、皆葉が神奈を覆い被さるようにしていて、背中からは相当量の出血がある。だが、致命傷というほどではない。火傷も見受けられるが、精々が身体の表面を多少焼いた程度だ。青い膜が、先刻の大爆発の威力を軽減させていたのだ。
そして、皆葉は徐々にだが、立ち上がりつつある。
「なぜ……だあ!」
紅蓮は疑問の声を上げつつ、短機関銃の弾丸を放つ。いくつもの拳銃用弾丸が、皆葉を襲う。
だが、それは青い膜に阻まれ、運動を止める。すべての弾丸を防ぎきると、青い膜が消え、カードは灰となって散っていった。
「……ようやく、追いつめたぞ……」
皆葉の全身が“生命”の魔力に包まれていく。その手にはトランプの束が握られていて、何枚かのカードが緑色に輝き、皆葉の傷を癒していく。それに反比例するように、カードが消滅していった。
「豪、ぐれええええんん!」
治療が完了するや否や、弾丸のように皆葉は突撃する。同時にカードが前方に投げられ、カードは先導するような形で飛翔していく。安否を見るために紅蓮は近づいており、数メートル近づければ、もはや手が届きそうだ。
「このおおおおお!」
負けじと、短機関銃で応戦する紅蓮。しかし、対戦車ロケットとは異なり、皆葉を怯ませるほどの威力はない。先行するカードが防御壁を展開して、すべての弾丸を通さない。そして、
「く……!」
短機関銃の発砲が止んだ。弾が切れたのだ。慌てて空弾倉を放棄し、予備の弾倉を込めようとするが、片手のため覚束ない。
「もらった!」
もう障害はない。そう確信した皆葉は、カードをポケットにしまい、握り拳を作る。あとは殴るだけ。そうすれば、勝利は目前だ。
「あああああ!」
右拳を放った。あとコンマ数秒もすれば、紅蓮の顔面を捉える。弾を換えている紅蓮には、防御する暇はない。しかし、
「……」
突然、紅蓮の動きが止まった。まだ新しい弾倉が装填されていないのに、その銃口を皆葉に向ける。そして、
「……がはあ!」
鮮血が吹き出た。口から、霧のように血が吹き出る。さらには、腹からも、皆葉は大量の血液を垂れ流していた。




