生命のはじまり、火の襲来 第6章ー4
追跡をしながら、皆葉は違和感を覚えていた。
紅蓮は、ロケット弾で攻撃してはくるが、そこには殺意が感じられなかった。強力な火器ではあるが、皆葉の魔術で防御できない程ではない。それは、最初の1射で紅蓮も認識しているはずなのに、同じ攻撃を繰り返して、逃げ続けている。
皆葉の認識としては、相手は歴戦の兵士。さらに、“火”の神の道化。それ故に、皆葉が防ぎきれない程の物量・火力で押し切ってくると思っていた。しかし、接近させてくれないことは想定通りだったが、戦闘開始直後から終始走り回ることになるとは、夢にも思っていなかった。
「罠……か?」
他にも気がついたことがある。追跡する途中、紅蓮が放棄したらしき、対戦車ロケットがいくつも見つかった。どうやら、1射ごとの使い捨てのようだが、魔術を使った痕跡が僅かに見られた。命中を補助するため、ロケットに生命を与えたのだ。本来ならば誘導しないロケット弾でも、魔術によってそれを補うことができる。だが、“火”や“天”の力を使えば、火力を上げることも可能。なのに、それをしていなかった。
そして、紅蓮は逃げまどいながらも、どこか目的地を設定しているようだった。二手に分かれた皆葉だが、気がつけば、反時計回りに結界内を走り回されている。仕舞いには、結界の最北東にある工場に紅蓮は逃げ込み、皆葉は神奈と合流して、その前に立っている。
「はあ、はあ……兄さん、ようやく追いつめましたね」
息を切らせながらも、笑顔で神奈は話しかけてくる。
「ふー……本当に、そう思うか?」
同じように、息を切らせる皆葉。
これまでの戦いぶりからして、とてもではないが、皆葉は追いつめたとは思えなかった。自分たちは魔力と体力を使ったのに、敵はほぼ、体力だけしか消費していない。逆に、自分たちが追いつめられているように思えてならない。
「兄さんは不安かもしれませんが――私の感覚だと、あの男と、食料品がたくさんあるぐらいですが」
神奈は工場の壁に触れて、“生命”の力を使った。その所見を語る。
「だが……僕たちには思いも寄らない罠があるかもしれない。だとしたら、“生命”の力を使っても、判断はできないかもしれない」
「どうせ、休憩に寄ったんですよ。だったら、ここがチャンスです。それに、何があっても、私が兄さんを守ります」
胸を叩いて、頼もしさを見せる神奈。堂々と入り口の扉を開いて、中に入っていく。
「……仕方がないか」
先を行く神奈に遅れないよう、急いで皆葉も工場へ突入する。
工場の中は、業務用の大きめな袋でいっぱいだった。潰れた工場を、倉庫として利用しているのだろう。
神奈の探査が正しければ、食料品が大量に入っているということだが、皆葉にはしっくり来ない点があった。
(……モノが偏っている)
袋をいくつかナイフで開いてみると、缶詰や飲料水などもあったが、小麦粉が大量に発見された。おそらく、その大半が小麦粉なのだろう。だが、小麦粉が貯蔵してある倉庫で休憩をとる必要が、どこにあるのか。敵のいない工場なら他にいくつでもある。そこにある食料を拝借するにしても、調理の手間がかかる小麦粉がある倉庫を選ぶ理由はない。
「……逃げるぞ!」
大量の小麦粉――それにピンと来た皆葉は、先行する神奈の手を取り、入ってきた入り口へと戻ろうとする。しかし、
「遅い!」
先に入ったはずなのに、入り口には、紅蓮が立っていた。どこかに隠れていたのだろう。その隻腕には、これまでと違って軽量な、短機関銃が握られている。
紅蓮は、短機関銃を四方八方に発射する。弾丸が皆葉を襲うが、辛うじて回避することができた。しかし、紅蓮の狙いは、皆葉ではなかった。
「マズい!」
紅蓮の行動から、予測した戦術が確かであることを確信する皆葉。だが、前方では紅蓮が銃を乱射していて、接近することはできない。そして、全方向にバラマかれた銃弾が、小麦粉の入っている袋を破り、工場内に小麦粉が散乱していく。
「じゃあな」
最後に、紅蓮は扉から外に出て、手榴弾を工場に放り、扉を閉めた。手榴弾が起爆するまで5秒の猶予しかない。皆葉たちは脱出しようとするが、散乱した小麦粉に視界を奪われ、思うように進めない。そして、
「——――――!!」
破裂した。間を置くことなく、粉塵となった小麦粉が起爆する。皆葉たちを、これまでの対戦車ロケットとは比べようもない、膨大な熱量と爆風が襲った。
工場は、木っ端微塵に吹き飛び、見る影も無い有様となった。




