生命のはじまり、火の襲来 第4章ー3
「さて、とりあえずは飯でも喰え」
騒動が収まり、四人は食卓についていた。配置は、皆葉が中央で、左右には麗とメイ、向かい側に律華が掛けている。テーブルは、和洋中問わず様々な料理で埋められていて、朝だというのに、重い献立だ。
皆葉と麗は、げっそりとした面もちで料理を見ている。
「どうした、喰わないのか? 円麗はともかく、メイに皆葉。お前らは、喰った方が良いぞ。散々魔力を使っただろ」
「それもそうですね。多少太るのが気になりますが、いただきましょう」
渋々、メイは食べ始める。始めの態度とは裏腹に、彼女の箸は着々と進んでいく。
「……先生。聞きたいことがあります」
「うん? どうした皆葉。飯の後じゃいけないのか?」
「聞きたいことはたくさんありますが、今おっしゃったのは、何ですか?」
「魔力を使ったから、喰えと?」
「そうです。一体全体、何のことですか?」
「ふむ……ああ、そうか。お前の意識は眠っていたから、知らないのも無理はないか」
そう言うと、律華は自分の盛りつけた分を速攻で平らげ、話し始める。
「では、話してやろうか。ああ、喰いながら聞いてもらって構わんぞ」
* *
律華は、端的に昨夜の出来事を話し始めた。
メイと豪紅蓮と名乗る男が命を賭けて戦い、それに皆葉たちは巻き込まれたこと。皆葉の中にいる彩破という人格が、紅蓮を撃退したこと。そして、
「傷ついた私とメイを、奴が治療してくれた。私は背中に重度の火傷を負ってたし、メイに至っては左腕が欠損してたからな。だいたい、そんなところか」
「左腕……」
言われて、皆葉は黙々と食事をするメイを見る。彼女は何事もなかったかのように、左腕で茶碗を持っている。
「彩破……奴は一体、何なんですか。突然、僕の身体を乗っ取って、勝手に使って」
「私に聞かれても困るぞ。いや、多少は相談に乗れるか。私とケースは異なるが、現象としては近い」
「先生?」
「ずばり言うとだな、皆葉。お前は、二重人格だ」
「二重……人格?」
「そう。昨夜、彩破がお前に残したものがあるから、見るといい」
律華は席を立ち、どこかへと歩いていく。
「たしか、そっちには書斎が」
「そうだよ、ミナ君。どうやら、思い出したみたいね」
「メイちゃん?」
振り向くと、メイは食事を終え、皆葉を見つめている。
「学校で再会したときは、すっかり忘れていたようだから、あえて言わなかったけど、今なら大丈夫みたいね。ねえ、ミナ君。あたしとあなたは、幼馴染みなの」
「幼馴染み……10年前、ちょうどこの診療所に、親子で来てた……そうだね?」
「ええ、そう。あの時、約束したよね。思い出したら、返事を聞かせてって」
「返事?」
「ほら、これ」
色気のある声で、メイは言う。彼女の両手が皆葉の顔に添えられ、2人の距離が、近づいていく。
「あの、メイちゃん」
「黙って」
逃げようとする皆葉だが、メイの眼差しから目をそらすことができない。そして、唇が重なりかけたところで、
「あー、もう! いい加減にして!」
今まで沈黙を続けていた麗が、テーブルを叩き、立ち上がった。
「あんたたち、朝っぱらから何やってんの!? 人が横で黙々と食べてるのに、人目をはばからずにそんなことして、いやらしい!」
「いや、僕は」
「あんたは黙ってて!」
皆葉を押しのけ、麗はメイと対峙する。
「ねえ、生徒会長サマ。生徒の模範となるべくお方が、こんなことしてて良いわけ?」
「こんなこととは?」
「人前でキスするとか、一緒のベッドで寝るとか!」
「別に、恋人同士ならば構わないでしょう」
「「恋人!?」」
聞き慣れない単語に、2人は叫ぶ。
「ちょっと、シン君。どういうこと!? この女とは、単なる幼馴染みなだけじゃないの!?」
「ああ、そのはずなんだけど……」
「けど、何!?」
「10年前、最後に会った時、その」
「キスをしたんですよ」
「はあ!?」
「聞こえませんでしたか? あたしと彼が、キスをしたというのです」
「な、な、な」
「その時、約束したんですよ。その時のことを思い出したら、返事をして欲しいと。それで、彼が思い出したようだから、返事を今聞いているのです。ご満足していただけましたか、円麗さん?」
「だからって、恋人同士だなんて。それに、この男の性格からして、あんたのことなんて、恋人だと思ってないわよ!」
その一言に、メイの表情が変わる。笑顔ではあるが、目が笑っていない。
「ほう? その心は?」
「こいつはね、はっきり言わなきゃ分からない、とんでもなく鈍い男なの! 私がアプローチしたって、全然その気にならない。昨日だって、ようやく切り出したのに、その先のことを理解しなかったし! だから、軽々しく恋人なんて、言うんじゃないわよ!」
指を突きつけ、麗はメイの言葉を否定した。
「……ご高説ありがとうございました。では、嫌でも分かる、それぐらいにやれば良い、ということですね。では」
おもむろに、メイの手が皆葉の服に触れる。素早くボタンを外し、素肌を露出させる。
「メ、メイちゃん?」
「あ、あ、あんた……! 何やってんのよ!」
女性陣の口喧嘩に介入できず、なすがままながらも、その行動の意味を問おうする皆葉。一方、麗は再び皆葉から彼女を引き剥がす。
「何って、セッ○スをしようとしているのですが。お互い、短い人生ですし、やりたいことをやって、ミナ君にも理解してもらおうと思って」
「こ、こ、この……ビッチ! そんなこと、私の目の前でやろうとするなんて……頭のネジが飛んでんじゃないの!?」
顔を真っ赤にしながら、麗はメイを指す。しかし、メイは侮蔑の言葉に怒るわけでもなく、
「まあ、それは否定しません。魔術師というものは、得てしてどこか異常な人が多いですからね。御多分に漏れず、あたしも当てはまるのでしょう」
「「魔術師?」」
今までの痴話喧嘩には似つかわしくない単語が麗の口から発せられ、2人は山彦のように繰り返す。
「ええ。あたしも律華先生も、それに当たります」
「おーい。何やら本題に入ろうとしているようだが、私は仲間外れか?」
名前を呼ばれた律華は、大量の本と大きめの封筒を抱えて、書斎から戻ってきた。
「遅かったですね、律華先生」
「ああ。彩破の奴が、やけに本を指定していきやがったもんで、持ってくるのに苦労させられた。さて、お前ら。続きは、別の部屋でやろうか」




