生命のはじまり、火の襲来 第4章ー2
とぅるるる。携帯電話の着信音が鳴り響く。
「う……ん……」
神皆葉は、ゆっくりと身体を起こす。
「どこだ……?」
鳥の囀りが朝の到来を告げているが、日光が窓から入っていないのか、部屋の中は真っ暗だ。携帯電話を手探りで探るが、中々手に取れない。
「……おや?」
何か、奇妙な感触が、皆葉の手に伝わってきた。柔らかく、押すと適度な弾力で、押し返してくる。
「これは一体……?」
何度か感触を確かめてみるが、該当する物は、皆葉の記憶にはない――いや、ここ数日で、直接ではないものの、触れた覚えがある。それはたしか……考えが錯綜していると、その持ち主の声が、聞こえてきた。
「あん……」
「……!」
見ると、そこには裸で眠る、水無月命の姿があった。
「な、な、何でメイちゃんが!?」
皆葉は慌てて手を離そうとした。その時、
「もう、だれー? うるさくて寝てられないんだけどー」
パジャマ姿の円麗が、扉を開けて入ってきた。
「……」
「……」
沈黙する皆葉と麗。携帯電話は、2人に構わず主である皆葉を呼び続ける。
「あ、あの……これ、は……」
皆葉は弁解しようとするが、麗は無表情のまま、携帯電話を取った。
「……あの妹か」
発信者を確認すると、麗は笑顔で応対を始める。
「もしもしー。神奈ちゃん? そう、私。あのねー、お兄さんが、知らない女と裸で寝てるんだけど、どうする? 相手? 私より多少は劣るけど、中々スタイルは良いみたい。私たちの学校の、生徒会長。ああ、知ってたの。ま、同じ学校だから不思議じゃないか。うん、場所? 私も彼に連れてこられたからよくは分からないけど、どこかの診療所みたい。え、それで分かった? そっか、これから用事を済ませて大至急直行するわけね。なら、写真でもとっておくわ。それじゃ」
通話を終えると、麗は自分のスマートフォンを取り出し、2人を撮影しだす。
「あ、あの……円さん。何をしてるので?」
「見て分からない? 浮気現場を写真に納めてるの」
無表情のまま、麗は返事をする。
「浮気現場? そもそも僕は誰かと付き合ってるわけじゃないし。それに、僕は何かしたわけじゃ」
「じゃあ、いつまで揉んでるの?」
「あ……」
言われて、皆葉は気がついた。離そうとしたはずなのに、手は名残惜しいのか、触り続けていた。その感覚か、それとも2人のやりとりからか、メイはゆっくりと目を開けた。
「……ミナ君」
「あの、メイちゃん。これは……」
「ちょっと、シン君。『メイちゃん』って、何?」
金髪が、逆立っているように見えるぐらいに、麗は感情を露わにする。一方、
「ミナ君……思い出したの?」
ほんのりと頬を赤らめ、嬉しそうにメイは皆葉を見る。
「あの……その……」
どちらから返答すれば良いのか、皆葉は困惑する。精々が妹と話すぐらいしか女性と接する機会がなかった彼にとって、他人である同級生、しかも2人の女子と修羅場のような場面に遭遇することは、未知の世界に入るに等しかった。
「よう、青少年たちよ。朝から楽しそうだな」
騒ぎを聞きつけたのか、竜律華が入ってきた。微妙な空気を変えてくれた救世主のもとへ、皆葉は慌てて駆け寄る。
「せ、先生。何とかしてもらえないでしょうか?」
「どうした、皆葉。お前が他人に助けを求めるなんて、珍しいな」
「僕にとって、まったくわけの分からない状況だからです!」
「そうか。だが皆葉よ。相手が教師とはいえ、少なくとも服は来て置いた方が良いんじゃないか?」
律華が、制服を差し出してきた。
「え?」
言われて自分の身体を見ると、たしかに、何も身につけていない。
「それとも、私を口説きたいのか? だったら、いきなり素っ裸で迫られても、困るぞ?」
「わああああああ!」
律華から制服を奪い取り、皆葉は部屋を後にした。




