生命のはじまり、火の襲来 第4章ー1
そこは、小さな診療所だった。2人の医者が夫婦で経営しており、事務員はおらず、受付は夫婦が交代で担っていた。だが、患者は毎日山のように押し寄せてくる。『神の手』と呼ばれる名医がいると評判で、ここに来る患者は大概が難病、しかしほとんどの人が完治できた。
ある日、1組の親子がそこを訪れた。母親が難病で、父親が付き添いで来ている。その1人娘は、両親が医者と話していて退屈なので、診療所にいる医者の1人息子と遊んでいた。
定期的にその親子は訪れ、2人の子供はどんどん親しくなっていった。ある日、こんなやりとりがあった。
「ねえ、ミナ君。ミナ君の夢は、何?」
「僕の夢……かあ。そうだね、お父さんのような、すごいお医者さんになること、かな」
「そっかー。良い夢だね」
「メイちゃんは、どんな夢?」
「あたしは……」
「メイちゃん?」
「ううん、何でもない。あたしの夢は、君と似てるかな。お父さんのように、すごい人になること」
「すごい人……どんな人?」
「ごめんね。他の人には、言っちゃいけないの。でも、あたしにはもう1つ、夢があるんだ」
「どんなの?」
「それは」
少女は、少年の唇にそっと、自分の唇を重ねた。
「……メイちゃん?」
「こういうこと。ミナ君は鈍感だけど、もう少し大人になったら、きっと分かると思う。その時に、まだあたしのことを覚えてたら、返事を聞かせて?」
頬を赤らめて、少女は告げた。
「メイー。帰るぞー」
少女の両親が、診察室から出てきた。少女は両親に連れられ、帰って行く。
その後、母親は完治して、少女が診療所に来ることは、二度となかった。




