生命のはじまり、火の襲来 第2章ー2
皆葉とメイは、そのまま学校へと入っていき、校舎の中で別れた。メイとの会話で気分転換できたのか、皆葉は軽い足取りで教室に到着した。
荷物を机の中に入れ、竜教師が来るのを待っていると、隣の席に麗の姿が現れた。
「やあ、シン君。昨日はごちそうさま」
「それはどうも、円さん。随分と食べていたようだが、大丈夫か? それほど高カロリーな物を入れたつもりはないが、あれだけ食べると、太るぞ?」
その一言を聞いて、麗は一瞬、凍り付く。だがすぐに、声に若干の怒気を含ませて、皆葉を窘める。
「君、そういうことは、女の子に対して言わない方が良いよ? 女の怒りは怖いよ?」
「それは知ってる。女は怖い、非常に怖い。だが、怒って君が離れてくれるなら、気が楽になるからいいさ」
嘆息して、皆葉は言う。しかし、麗は意に介さない。
「やれやれ。相変わらずね。そんなにも離れて欲しいなら」
麗は席を立つ。そして、
「これならどう?」
皆葉の腕に抱きついた。豊満な胸が、皆葉の腕で形を変え、まとわりつく。
「な、な、な……」
想定外の切り返しに皆葉は驚く。腕にあたる柔らかい感触に、一般的な男子ならば喜びを抱くだろうが、皆葉にはそんな余裕はなかった。
「何をするだー!」
立ち上がり、後退りしながら皆葉は叫ぶ。困惑して、言葉がどこかの方言のようになってしまった。
「君、どこの出身? どこの田舎者って感じよ」
「この市じゃわい! 田舎者で悪かったな! それこそ何だ、今の行動は!」
「何って、君が離れて欲しいって言うから、逆に引っ付いてあげたまでだけど?」
「君の頭はネジが外れているのか! 何で逆のことをやるんだ!」
「だって――面白いから」
「面白い……だと?」
「ええ。君の反応が非常に面白いから、こんなことするの」
ウインクする麗。いたずらが成功した子供のような素振りだが、どこか可愛らしさが感じられる。
「き、き、君っていう人は……」
返す言葉に詰まる皆葉。どうにかして麗を窘めようと言葉を考えるが、それが出てくる前に、こんな声が聞こえてきた。
「おい、そこの中二病野郎! うるせえぞ!」
皆葉が振り返ると、そこには制服をだらしなく着崩した男がいた。さらに数人、男の手下のようなのが4人、周りにいる。
「てめえ、いい加減にしろよな! さっきから散々いちゃつきやがって。何が、僕に構うな、だ!」
「そうだそうだ。眼帯着けて偉そうにしやがって! 何気取ってやがんだ、ああん!?」
二人を取り囲むように、男たちが近づいてくる。
「ちょっとあんたたち! 騒いでたのは私なんだから、私に」
麗が抗議しようとするが、皆葉はそれを遮る。
「ああ、失礼した。何がそんなに腹立たしいのかは知らないけど、迷惑をかけたのなら謝ろう。すまない」
軽くお辞儀をして謝罪する皆葉。しかし、その行動が逆に男たちに油を注ぐことになるとは、彼には理解できていなかった。
「その態度がいらつくつってんだよ! ちょっと面貸せや!」
「……分かった」
男たちに先導されるまま、皆葉は彼らについて行く。
「シン君!」
「心配は無用だよ」
手を振って、皆葉は男たちと教室を後にした。