生命のはじまり、火の襲来 第2章ー1
翌日。神皆葉は、いつも通りの時刻に起床し、いつも通りに朝食を食べ、学生寮を出た。
歩きながら、彼は一人ごちる。
「あれは、なんだったんだろうか」
自分の左胸を擦りながら、彼は思う。
昨夜、自分を襲った、緑色の髪をした少女。彼女の槍で貫かれた左胸。しかし、起きた直後に確認したが、一筋の傷跡すらない。部屋を確認したが、自分が逃げ回った痕跡もまた、なかった。
いつも通りではない現象に、皆葉は困惑する。普段とは違う出来事があったせいから、夢をみたのか。あるいは。
「おはよー、ミナ君」
思索に耽ていると、背後から声がしてきた。振り向くと、そこには生徒会長――水無月命がいた。
青い髪に青い瞳という、日本人離れした容姿。若干日焼けした肌が、健康的な美しさを醸し出している。
「おはようございます、会長」
「やだなー、メイでいいって言ったでしょ?」
「そういうわけにはいきませんよ。仮にも先輩にあたる人を呼び捨てするのは、僕にはちょっと無理です」
「もう、あなたは堅いんだから。先輩っていっても、私はあなたと同い年なんだから、敬語もいらないのに」
可愛らしく怒るメイ。皆葉と彼女との付き合いは、入学式の少し前から始まっている。
入学式の練習ということで、皆葉は何度か学校に呼び出されていた。その際には、主にメイから話を聞き、時には歓談等もしていた。話の中で、メイは一年先輩にはあたるが、一年前に飛び級で新緑高校に入学したということも皆葉は聞いている。
(確かに、この人は先輩っていうよりは、同い年の身近な人なんだよな。それに、妙に話しやすい)
彼女との会話は、皆葉にとって不思議なものだった。人付き合いの上手くない皆葉なのに、彼女とは自然と話が盛り上がる。付き合いは短いのに、慣れ親しんだ友達のような感覚だ。
そんなことを考えていると、メイが皆葉の表情を覗きこんできた。
「どうかした?」
「いえ、昨日変な夢を見たんで、それがちょっと気になっているだけですよ」
「変な夢? どんなの?」
「それが、女の人に、僕が殺される、というものでして」
その一言に、メイの表情が変わった。朗らかな笑みを浮かべていたのに、途端に深刻なものになる。
「殺される? ……あなた、身体に異変はない? 身体に変な模様ができているとか」
「模様? いえ、別にそんなものはないですよ」
「そっかー。ならいいよ。安心した」




