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ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第三章 ”自己”

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四章十六話 明るい撤収の声

《辺境者の歌》 四章 十六節

『明るい撤収の声は、残した荷の数を隠すために響く。』


 三郷弦は、帰還の号令を明るく出した。


「はい、撤収! 忘れ物確認して帰るぞー」


 山崎才我が銃を肩にかけ、軽く手を上げる。


「薬莢は拾った」


「偉い」


「羽黒なら褒めてくれる?」


 三郷は笑った形の口をすぐ戻し、並んだ背中を数え直した。


「あいつはまず数える」


 三郷は笑った。笑った後で、少し口の端が重くなった。羽黒なら、数える。


 薬莢。弾倉。残弾。


 負傷者。帰る人数。たぶん、面倒くさい顔で手帳を開く。


 そして、誰かにうまく伝わらない言い方をする。


 右がゼロとは言ってません、とか。


 今はたぶん戻った方がいいです、とか。


 そんな声が、今はない。


「三郷」


 佐々木が呼んだ。


「幸の腕、もう一度見せた方がいい」


 桐谷幸が眉を寄せる。


「平気」


「それ、今日三回目」


「数えなくていい」


「数える奴がいないから、俺が数えてる」


 その言葉で、三郷の笑みが一瞬止まった。


 佐々木も、自分で言ってから気づいたようだった。


 山崎が空気を変えるように、わざと大きく伸びをする。


「ま、でも今日も勝ったしな」


「勝った」


 桜華が短く言った。彼女の声は、いつもより低く、笑いの色が薄かった。


 三郷は隊列を見た。前、桜華。中央、桐谷と佐々木。


 後ろ、山崎。自分は少し横。強い。


 たぶん、とても強い。ただ、帰るための形ではない。戦うための形だ。


「並び、変えるか」


 自分で言って、少し驚いた。


 山崎が振り返る。


「え、今?」


「幸を真ん中。佐々木、右。才我、後ろ。桜華は前だけど、速度落として」


「急に細かい」


「俺もそう思う」


 三郷は笑った。


 笑ってから、ナックルダスターを握り直す。


 鉄の感触は、いつも通り冷たい。


「でも、今日はそれで帰る」


 桐谷が小さく息を吐いた。


「承くんみたい」


「やめろよ。俺、あんな細かくない」


「細かくなろうとしてる」


「うるさい」


 軽口を返した直後、桐谷の歩幅がまた狭くなった。


 帰り道、桐谷の歩幅が少しずつ落ちた。佐々木がそれに合わせる。山崎は後ろで薬莢袋を揺らしながら歩く。


 桜華は前で、いつもより少し遅く進む。誰も遅れを口にしなかった。


 門まで隊列は崩れなかった。三郷は人数を数え、五人目に自分を入れ忘れて、もう一度最初から数えた。


 王城の門が見えた。門の上には旗がある。勇者班の帰還を見て、兵が手を振った。


 三郷は明るく手を振り返した。ちゃんと笑えた。門をくぐる直前、桐谷が小さく言った。


「ねえ、承くん、今どこにいるんだろ」


 三郷はすぐに答えられず、門番へ帰還札を渡した。五人分。今度は自分も入っている。


「戻る場所くらい、見つけてるだろ」


 結局、そう言った。


 桐谷は少し笑った。


「だといいね」


 三郷も笑った。


 門の内側で、桐谷は右腕を庇いながら歩いた。三郷はまた並びを変えるか迷い、今度は言わなかった。


――――――――


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