日記43 決着! ①
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
フライムートの眼球が、ウルリッヒに向かって飛び交った。
そんな恐怖とも言える光景と、自分の心の内を見透かされる相当な違和感をウルリッヒは抱きながら、ヴァレリアとフライムートを相手取っていた。
警戒するべき武器を両手に構えているヴァレリアに、自然と視線が誘導される。思考がそちらに割かれる。
嘗て敗北した時、その一端となった一撃を繰り出す、プロイエッティレ・ミトラリャトリーチェの"全高密度魔力発射"が、ウルリッヒにとっては一種のトラウマとなっている。
ウルリッヒにとって、敗北は初めてでは無い。だが、ヴァレリウスによって魔法を授かった時から、彼に二度と敗北は重ねられなかった。ただ唯一、ヴァレリア達の戦闘以外は。
印象深く、忌々しくも残っている辛酸の記憶。それが何度も、彼の脳裏にちらつき、燻り、頑固に絡み付き離れない。
だからこそ、先程からヴァレリアにばかり意識を割かれる。フライムートこそ、この状況で最も警戒しなければならないと言うのに、過去の失敗がそれを妨げてしまう。
ヴァレリアは知る由も無いが、その全ての感情はフライムートに筒抜けであった。
そこが、付け入る隙になる。
フライムートはもう出し惜しみをしないことを決め、空を飛ぶ眼球の一つをヴァレリアの視線の先に移動させた。
ヴァレリアの視線とその眼球の視線が交じったその瞬間、ヴァレリアの頭の中に自分とは別の思考が混じった。
その思考は、これからの作戦を囁いていた。
本来ならば、自分では無い思考が頭の中に流れ込むと言う最悪の違和感。一瞬でも体は硬直する物だ。しかしヴァレリアは、一切の感情を手放し、予想外のことに両手で構えた武器すらも投げ捨てたのだ。
ウルリッヒを前に、まさかの行動。前の戦いでの敗北が原因の不安から、戦場で最も重要な集中力が欠如しているウルリッヒは、その理由を探ることにばかり気を取られてしまった。
しまった、一秒の十分の三か、四、その短い時間の直後に、ウルリッヒの脳内にその言葉が浮かんだ。
本能的とも言えるその一言。そしてそれは、その一撃が、ウルリッヒを襲った。
ヴァレリアが軽く跳躍すると、彼女の背後に潜んでいたフライムートの魔法の眼球が彼女の足元を通り抜け、更にウルリッヒの足下で急上昇を始めた。
予想外、不可避の一撃が、ウルリッヒの顎下に激突した。飛んで来る眼球はウルリッヒの顎下に直撃し、またウルリッヒの意識がちらりと白くなった。
そこからは、徹底的なまでの連撃。ヴァレリアとフライムートの連撃であった。
本当なら、ヴァレリアは今すぐ一歩離れ、"全高密度魔力発射"を放つ準備を行いたい所だ。だが、ウルリッヒの意識がどれだけの時間、無くなっているのか、どれだけの時間が経てばウルリッヒが復活するのか、この点が不明瞭な以上、下手に溜めの長い攻撃を企めば、そこを狙われる可能性もある。
そしてその不安が的中したのか、ウルリッヒはすぐに意識を取り戻した。
ウルリッヒは何十にも集まった人の腕の三分の一をヴァレリアに、三分の一をフライムートに、三分の一をフライムートの魔法の眼球達にそれぞれ向けた。
その瞬間、それの全てが突然ウルリッヒから遠く離れる様に吹き飛ばされた。
しかしその寸前、ヴァレリアは擬似的四次元袋からお手製の手榴弾を取り出し、それをウルリッヒに投げ付けた。
爆発する、それが熱であろうが、水であろうが何であろうが、明らかな敵意の塊。
自分の敵は殆ど吹き飛んだ。これから敗北に繋がるとすれば、これだけだろう。ウルリッヒは槍を握りながらも自分の黒く屈強な腕を手榴弾に向けた。
彼の魔法は、爆風を抑え込む為に使われた。しかし更に予想外、その手榴弾は破裂こそした物の、爆風は発さなかった。それどころか何も放たれず、ただ中から小さな小さな魔石の球体が転がっただけだ。
だが、その魔石を中心に自分の体を吸い込む力が渦巻いた。
こうなれば、爆風を抑える為に使った魔法が仇となった。爆風を抑えると言うことはつまり、手榴弾を中心に、その中心に向かう力が働くと言うことだ。
これはウルリッヒの判断ミスでしか無い。爆風を抑えるだけなら、爆発の瞬間に力の向きを変えるだけで問題無かったのだ。だが、予想外の連続で冷静さを欠いてしまったウルリッヒから産まれた、致命的なミス。
そしてそれを逃がす程、この場に優しい人物はいない。
現れた魔石に引き込まれ、バランスを崩したウルリッヒの頭に、フライムートの鞭の先端が激突した。
万全な威力とはいかず、頭蓋骨を砕くまではいかなかったが、ウルリッヒの片方の目やその顔を大きく傷付けるのには成功した。
更に迎撃する為に、ヴァレリアは腕の魔法を発動させ、プロイエッティレ・ミトラリャトリーチェを手元に引き寄せた。
一瞬、ウルリッヒの背筋が凍った。あれが、"全高密度魔力発射"が来るのかと警戒し、全ての人の腕をヴァレリアに向けてしまった。
また、ウルリッヒはミスを犯した。
視線すらヴァレリアに集中し、突然視界の中に乱入して来たフライムートの魔法の眼球から目を逸らすのが遅れてしまった。
ウルリッヒの視線と、その眼球の視線が交わった。
入り込んだ思考は、身の毛もよだつ程の怨嗟の感情だった。またウルリッヒは、一瞬動きが止まった。
更にその瞬間、ウルリッヒの背後から剣が胸にまで突き抜けた。一体誰の剣だ、そう思うよりも先に、その剣は無慈悲に振り下ろされた。
幸いにも、その剣はウルリッヒの腹の筋肉で堰き止められ、動きが止まった。だが、致命傷となっているのは確か。
「だ、誰、が……ァ!!」
ウルリッヒは力を振り絞り、背後に顔を回すと、そこにはしたり顔のシロークがいた。
「騎士らしくは無いけど、まあ良いさ。君達を止める為なら、僕のプライドなんてちっぽけな物だしね」
シロークは剣を引き抜き、ウルリッヒを思い切り蹴った。
流石にシロークも体力の限界なのか、それ以上追撃をすることは無く、しかし最低限の脅しと勝敗をはっきりさせる為に、倒れたウルリッヒの首筋に剣の刃を押し当てた。
「これは僕の勝利じゃ無い。ヴァレリアとフライムートの作戦勝ちさ。さて、どうする? このまま大人しく捕まってくれれば、殺しはしない。これですぐに死なないんだから、きっともう少しは生きられるんだろう? それだけの時間があれば、まあそれを治せる人も来るだろう」
「巫山戯るな……!」
ウルリッヒは歯軋りをしながらシロークを睨み付けた。
「貴様に誇りがある様に、我にも誇りがあるのだ! 亜人の誇りがな! ならば殺せ!! 殺せェ!!」
「……断る」
「貴様ァ! 貴様ッ、人間が……クソカスがァ!!」
「裁かれると良い。君の大嫌いな人間達に」
こうして、ウルリッヒの戦いは終わった。
「さて、フォリアの方に行かないと。……うん、体は大丈夫――」
――フォリアは、紫の炎を纏いながら翼を大きく羽撃かせ、魔法兵器の周りを大きく囲う結界に蹴りを繰り出した。
しかし、その渾身の蹴りでも罅の一つも入らない。フォリアは、未だ魔法兵器までの道を塞ぐ結界に阻まれていた。
「チッ……これ、思った以上に厄介ね」
たった一人で啖呵を切り、魔法兵器の破壊に赴いたのは良い物を、ここまで頑強な結界だとは予想外だった。
結界魔法は本来、その大きさに比例して強度も落ちる。勿論魔法術式や魔力量によってそれは変動するが、まさか解放兵団にその何方も充分に用意出来る程、完成された組織だとは思わなかった。
フォリアの周囲には、既に徹底的な統制で、堅実な包囲を完成しつつある部隊が周囲を囲っていた。
空中の包囲は、右や左に浮遊魔法や翼を持ち空を飛べる種族が、上には調教された魔物の背に乗っている人達が、下には迎撃されたフォリアを更に迎え撃つ人物達で埋め尽くされていた。
しかし、フォリアはその全てを無視し、ただ全力で魔法兵器から距離を取る様に、他の追随を許さない圧倒的な速度で空を飛んだ。
誰も追い付けない速度のフォリアが、数百m離れた地点で、その速度のまま方向を反転させた。
彼女の体の周りには、更に紫の炎が巻き上がり、そこに黒く穢れた炎も混じれば、彼女の姿は人と言うより竜に見えた。
誰も寄せ付けない速さ、その速さは炎と威力へと変わり、フォリアの左脚に集まった。
その勢いのまま、フォリアの蹴りは魔法兵器を囲う結界に直撃した。死者の魂すら燃え尽くす真っ黒な闇の炎、そして永遠に消えることの無い紫の炎。蹴りの直撃した点には、それが一点に集まったのだ。
正真正銘、フォリアの全力の一撃。これで破壊出来なければ、この場ではもうカルロッタ以外破壊は不可能だろう。
「どんだけ硬いのよこれッ……!!」
その結界は、破壊出来なかった。
唯一、ぴしりと亀裂が走っただけだが、それは精々フォリアの足の大きさ程度。これでは崩壊にまでは足りない。
それどころか結界の向こう側から何か光の粒子が結界の傷にふわふわと飛んで来たかと思えば、引っ付いたと同時にその結界の罅は綺麗に塞がった。
一撃で、これ以上の威力で結界に攻撃しなければ破壊は不可能。フォリアは破壊では無く解析による分解を試みたが、如何せん彼女は感覚派。魔法を使い際には小難しい理屈よりも自分の直感で魔力を操る。
解析と言うこと自体、フォリアにとって大の苦手な項目なのだ。
ならばどうする。カルロッタを待つか。
それが一番確実だ。カルロッタがあんな程度の男に負けるはずが無い。あの程度の実力なら、苦戦もしないだろう。しかしどうにも、様子を見る限り時間は掛かりそうだ。
事態は一刻を争う。カルロッタの決着を待ち、結界を破壊することに期待するよりも、あらかじめ結界は破壊しておき、更なる耐久力を誇る可能性がある魔法兵器の破壊を頼む方が良い。
結局フォリアは、結界の破壊に専念するしか無いのだ。
しかし、手詰まり。だが見えた物もある。
結界の内側には、もう一つの結界が見えた。一瞬感じた魔力の流れから推察するに、その内側に更にもう一つ、結界があるのだろう。
それぞれの結界が、それぞれの強度を強めているのだと思われる。もし傷が入れば、互いに魔力を交わし、その箇所を再生させるのだろう。
ここまでは分かった。後は如何に、それを破壊するのか。
その短な時間の熟考と言う矛盾の海にフォリアが落ちる直前、雪の原の向こう側から、ここにあるはずの無い壁が迫って来た。
青く透き通った巨大な壁、それはここにあるのは明らかに違和感である、大量の水であった。河、湖、それだけでは到底足りない程の水量。この水の量を持って来るには、海でも直接引っ張って来なければ到底あり得ない、水の壁が解放兵団のこの拠点に迫って来た。
そして迫り来る水の壁の頂点、そこには一隻の船があった。木造の帆船であったが、その船体は鉄によって補強、強化されており、船首は特に頑強に作られており力強い印象を受ける。
その船のマストの一番前には、何とこの冷たい雪山で、半裸の男性が力強く立っていた。恐らくその船の船長であろうその男性は、片手で自分の背を超える大きな旗を自慢する様に靡かせていた。
その男性は大きく口を開き、何処までも届きそうな大きな声で叫んだ。
「英雄ソーマ・トリイの命により、"ラグナル・エーリヴァーガル"が大義と仁義を持って助太刀申す!! 悪逆非道の限りを尽くす貴様等解放兵団よ!! 今なら――」
言葉を続けようと息を吸ったラグナルは、突然大きく体を震わせたかと思えば、流石にこの寒さに堪えたのか大きなくしゃみをした。
すると、同じく船に乗っていた船員の一人が叫んだ。
「だっから言ったろ船長! 寒いから上着ろ!」
「ばっきゃろう!! 海の戦士がこんな寒さに……ぶぇっくしょい!!」
「はよ服着ろボケェッ!! 死にてぇのか!!」
ラグナルは鼻から垂れてきた鼻水を拭い、旗を大きく振り翳した。それに応えるかの様に、その船を乗せる巨大な波は更に苛烈な動きを見せたのだ。
「さぁ野郎共!! 荒波と嵐は俺が出してやる! 荒れ狂う海にばっか惹かれるイカレ野郎共!! 海賊の意地と強さってもんを見せてやろうぜぇ!!」
彼の咆哮とも言える大きな声に、船員達は沸き立ち、この荒波を乗りこなそうと勇気を奮い立たせた。
荒波は雑多な解放兵団の兵士を悉く飲み込んでいき、その渦の底へと引き摺り込んでいった。
フォリアはその圧倒的な力に、あの力なら結界を破壊出来るのでは無いかと、少しの期待を込めてその船に向かって飛んだ。
ラグナルは少々の警戒を見せ、船を自身の魔法の荒波で囲った。
しかし、フォリアはその荒波を自らの炎を纏った蹴りで蒸発させ、無理矢理船の上へ乗船した。
ラグナルは多少の驚愕を見せたが、すぐに持ち直し、フォリアに面と向かって叫んだ。
「おい女ァ! キャプテンの許可無く船に乗り込むとは良い度胸じゃねぇか! 一応聞いておくぜ! 敵か!? 味方か?!」
「味方よ。ギルドの仲間」
「嘘つけ悪人面!」
元より無かった様な短かなタイムリミットが差し迫る。フォリアは切羽詰まったのか、それとも単純にラグナルの声が頭の中でキンキンと響いて耳障りだったのか、彼の頬を思い切り叩いた。
元よりカルロッタ達以外の人間に容赦が無かったフォリアだが、流石にこれは、後から反省の意を頭の中に浮かべた。口にはしていないのだが。
ラグナルは呆気に取られた表情の直後、すぐに怒りを見せた。拳を握りそれを全力で振るってやろうかと思った。
「……流石に殴るのはダメだな」
冷静でいようとしたのか、彼はようやく話を聞く態度を取り始めた。
「それで、何をして欲しいんだ。わざわざ乗り込みに来たってことは、この船に用があるんだろ」
「簡潔に言うわよ。あの結界、壊せる?」
フォリアが指差した方をラグナルは凝視すると、そこには嫌でも目立つ魔法兵器が聳え立っている。
そこから発せられる魔力は、その凝縮された力が放たれれば数多の命が散ることを嫌でも痛感出来る程仰々しい。
ラグナルは詳しい事情も知らないまま、ただソーマの指示によりこの場に訪れた。「現地の同士と合流し、解放兵団を壊滅しろ。もし不測の事態があれば俺の指示は待たなくて良い。派手に暴れろ」との命令。
ラグナルは詳しい事情をフォリアから聞かず、しかし仲間だと言うならそれを疑いもしない器量が彼にはあった。
「敵の拠点に真正面から突っ込むんだ。勝算が無けりゃ動きたくない。こっちも船員の命握ってるんでな」
「結界は三重になってる。内側の結界の強度を一番外側の結界に移して、内側の結界は外側の結界を自動で修復する様に魔力を流してる」
「つまり、外側さえ破壊すれば結界の強度は三分の一、いや、理屈で考えるのなら半分程度になる。だが一枚破壊するのが困難。こう言うことだな」
「外側の結界さえ破壊してくれれば、後は私の力で何とでもなる。出来る?」
「強度はどれくらいだ」
「……恐らく、都市の防衛結界の二倍以上」
「成程……厳しいな。しかも確実に敵陣に突っ込むことになる」
「……出来ないならそれでも良い。そこまで期待はしてないし」
しかし、ラグナルが出来ないとなると、フォリアの打つ手は無くなったことになる。
「何勘違いしてんだ」
ラグナルは笑みを浮かべ左手の拳を空高く突き上げた。
「やってやろうじゃねぇか! あのバカでかい兵器を確実に止められるならなァ!」
そのままラグナルは船員達に顔を向け、何時もの様に叫んだ。
「野郎共! 大砲も爆弾もありったけ持って来い! それと"船首衝角・魔級竜角"を起動! これからこの船は、てめぇらの大好きな突撃をする!! 速度最大! 振り落とされんじゃねぇぞ!!」
この船の船首の一部の装甲に真っ直ぐな線が走ったかと思えば、その装甲が二つに別れ、穴が開いた。
そこから巨大な矛の様な白い角が姿を表した。
これからこの船は突撃する。その為の衝角の代わりが、この白い角なのだ。硬度は勿論問題無く、それは僅かに熱を帯びているのか赤く染まり始めた。
そう言った直後、この船を乗せる大量の水が一瞬の内に消えたかと思えば、船の背後から先程よりも勢い良く押し出す津波が現れた。
速度は優にドラゴンの飛行速度を超える。しかし船員達は既に慣れているのか、初めて体験するフォリアと比べて涼しい顔で帆を張っていた。
「お前、名前は」
ラグナルはフォリアにそう聞いた。
「フォリア」
「そうか、フォリア。恐らくこの船でも、流石にそんなカッチカチの結界の破壊は不可能。精々でっかい罅が走る程度だろう。だが、罅割れた箇所を狙うなら話は別だ。こう言う硬い結界って言うのは、どっかが壊れれば、連鎖的に罅が走り、勝手に割れる。半分程度の強度なら、そのまま突っ切って破壊も出来るだろう。だが、俺はその後完全な無防備。かなり無茶して持って来たこの船も地面に落ちるだろう。俺が言いたいこと、分かるよな」
「……最初に私が結界に攻撃し、それで生まれた小さな罅目掛けて突撃する。そう言う作戦ね」
「ああ、だがタイミングが大事だ。お前が早ければ修復されるし、お前が遅ければそのままこの船の船首にぺちゃんこだ。タイミングがぴったりでも、お前がこの船の突撃を避けられないかも知れない。ああ、それともう一つあったな。威力が足りなければ、俺達はあの硬い結界に打つかって、この船ごとぐっちゃぐちゃになる。何にせよお前が重要だ。しくじるなよ」
「誰に言ってるの」
フォリアは背中から伸びる黒い片翼を羽撃かせ、紫の炎を辺りに散らした。
背中から発せられる大きな炎は、彼女の体を押し出す推進剤となり、全身を巡る炎は彼女の力になる。
「私は、こんな所じゃ死なないのよ。私の死に場所は、あの子の隣だけ」
フォリアは走り出し、船から飛び降りた。一度黒い翼を羽撃かせれば、一気に紫の炎は後方に吹き出し、彼女の体を強く、強く加速させた。
敵の殆どは雑兵。少し強い兵がいても、然程問題は無い。しかし、一つ誤算があるとすれば、フォリアは見誤っていたことがある。
解放兵団の、結束の強さを。
フォリアの進行方向に、吸血鬼やら、空を飛べる亜人やら、魔人やらが集まっていた。数にして僅か十二名。きっとそこまで強くは無いだろう。
その十二名は自分が持ち得る最大の防御を見せ、フォリアの進行方向に立ち塞がった。
本来なら相手にせず、避けるのが良い。だが避ければ、その分だけタイミングが遅れる。それどころか速度も落ち、結界に罅を入れる威力すら保証出来ない。
だからと言ってこのまま十二人を蹴散らし、前へ進んでも速度は落ちる。
そして何より、もうそれを迷う時間が無い。フォリアの速度はその選択を許さない程に、加速し切っていたのだ。
フォリアの体は、十二名に触れた途端に爆裂し、その十二名を紫の炎で打ち砕き前へ進み続けた。
どうしようも無かった。避けることも出来なかった。自分の身を呈してまで、その肉盾で進行を止めるとは思わなかった。
更に、それを真似した一人、また一人とフォリアの前に立ちはだかる。もう迷え無いフォリアは、前進を続け、敵の体を爆散させて突っ切っていた。
フォリアの速度は一段階落ちてしまい、しかし結界はもうすぐ。再度最大加速まで到達するには距離が足りない。
それを見たラグナルは、すぐに船員に告げた。
「誰でも良い! あいつに砲弾を打ち込め!」
その指示を聞いた船員は、迷う暇も無く砲塔をフォリアに向け、砲弾を発射させた。
ラグナルの目論見では、砲弾で更にフォリアを強く押し、加速させる算段だった。しかし、砲弾の速度でフォリアを押しても、恐らくギリギリ足りない。
もう一押し、何かあれば。もう一度フォリアを狙うか、しかしそれをする為の時間が足りない。
そう思った矢先、地上から何かが打ち上がった。
いや、打ち上がったのでは無い。飛び上がったのだ。それは人だ、人間だ。
飛び上がったのは、シロークであった。まだ万全な状態では無い彼女は、せめて役に立てる様に、誰かのサポートに奔走していたのだ。
そして、何とか間に合った。ラグナルの意図が全て伝わった訳では無いが、彼女は隣を通り過ぎようとしている砲弾に目を向けた。
そして、超人的な速度と力で、その砲弾を力の限り蹴り飛ばしたのだ。
「いけぇ! フォリア! ぶっ壊しちゃえェ!!」
更に勢いを乗せた砲弾はフォリアの背に激突した。砲弾は一瞬でフォリアの熱量に赤熱し溶けてしまったが、その加速エネルギーは確かに受け取った。
彼女の速度は、既に音すら抜き去った。
結界の壁が迫って来た。しかし、タイミングが速すぎる。それでもフォリアは、足を大きく曲げ、蹴りの体勢に入った。
「壊れろ!! 私の、カルロッタの邪魔をするなァ!!」
フォリアの蹴りが、結界に衝突した。
発せられた熱量、光量、その全てが規格外。彼女はたった一人で、戦略的魔法兵器を匹敵したのだ。
その威力はフォリアの想像を超え、前の一撃よりも、より大きな罅を残した。
そして、その光景を見たラグナルは大きく笑った。
「良いねぇあの女! 惚れ惚れするねぇ! それじゃあ、応えてやらなきゃ、男じゃねぇよなァ!!」
ラグナルが両手を前へ突き出すと、その船の背後からより強力な風が吹き荒れた。
ラグナル自身、船の加速の為に風を吹かすことは良くある。だが、それは必ず一方向、そして追い風。追い風になってしまうのは、風の魔法を最大限の威力を発揮出来るのがそれだからだ。
しかし、帆船にとって一番理想的な加速を見せるのは横風。だが、横から吹かせれば細かな魔力操作が他の冒険者と比べて少々苦手なラグナルの魔法は、威力が大きく減ってしまう。
横風に吹かせば、この船の速度は大きく落ちてしまう。だがそれでも、更に加速しなければ結界の罅が再生してしまう。
「やってみせなきゃただの人! だが俺は、俺はァ! 海の男だァァッ!!」
ラグナルは、考え抜いた末に追い風を止め、船の隣に竜巻を作り出した。
しかも、進路上に何本も、巨大な竜巻を作り出した。
「力が足りねぇなら、もっと沢山作れば良いってこったぁ!!」
竜巻の渦は船の横から、そして後ろから風を送った。その加速のエネルギーを残したまま次の竜巻を通り、更に加速、それを何重も繰り返し、結界まで迫った。
「ぶっ刺されェ!! 竜角!!」
その船の衝角は、見事に結界の罅に突き刺さった。間一髪、ギリギリのタイミング。
フォリアはと言うと、それが突き刺さる瞬間に衝角の上に身を置き、難を逃れていた。そのままの勢いで衝角が収納されていた船内に転がってしまったが、その中でフォリアは高笑いしていた。
「やるじゃ無いあの上裸!」
そしてラグナルは、まだ波と風を止めない。
「まだまだァ! このまま突っ込んでやるぜェ!」
一つ目の結界には大きく罅が走り、硝子の様に砕け散った。まだ速度が残っている船は前進を続け、二つ目の結界に衝角が突き刺さり、これもまた容易く破壊した。
だが、三つ目になると速度と威力が足らず、その場で衝角がぽっきりと折れてしまった。
「ならこのまま体当たりだァ!」
ラグナルの言葉通り、船員達は船の減速なんて野暮なことはせず、このまま船が壊れることを覚悟で結界に突撃した。
大質量の体当たりは、正に圧巻。一つ、二つ目の結界の破壊も合わさって、力強い空気が押し寄せた。
しかし、その船体での体当たりは、結界を破壊するまではいかなかった。だが、所詮強度が更に下がった結界。
フォリアは、飛び出した。
フォリアは両手をぴたりと結界に合わせると、その掌に黒い炎がちらついた。
「その船が燃えても構わないわね!」
「ああ、好きにぶっ放せ!!」
フォリアの黒い炎は、ルテーアを混ぜ込んだ彼女の特別性。地獄から引き寄せたかの様な、悪霊の炎。
「"獄炎"」
結界は、破壊された。
辺り一面を埋め尽くす黒い炎は、たった小さな小火だけでも生命を焼き尽くし、それが何秒と燃えるだけで空気が燃える程の威力を誇る。
ようやく、全ての結界は破壊され、魔力兵器への道が顕になった。
しかし、発射まで残り三十秒にまで差し迫っていた。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
ラグナルは割と好きなキャラです。出す気は無かったんですけどね。
いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




