《間話》人を殺すということ
とある修行の日の帰り道
俺とステフは、いつもと同じ森の中の広場で修行を終えて、暗がりのキーストリアの街の宿屋までの道を歩いていた。
しかしいつものように軽口を交わすような雰囲気はなく、非常に気まずい空気が2人の間に流れている。
原因は間違いなく俺にある。
俺は何があったのかもう1度思い出してみることにした。
――――――――――――――――
俺とステフは森の中の広場での修行を終えて、森の中の街道を通って帰路についていた。
たわいのない会話をしながら街道を進んでいると、ステフが足を止めた。
「すぐそこの陰に6人潜んでいるわ、盗賊ね。気がつくのが遅れたわ」
ステフがそう言った直後、目の前に6人の汗くさそうな毛むくじゃらの男達が横に広がって俺達の前に立ち塞がった。
そしてリーダー格のような男が一歩前へ出てきた。
「こーんな人気の無い森の中でガキと女の2人とは不用心だなぁ? グヘヘへ、その女と金目のもん全部置いてって貰おうか?」
下品な笑みとともに盗賊のリーダーがそう言う。
「お断りよ。あなた達、今ならキーストリアの門兵に突き出すだけで済ませてあげるわよ?」
「へっ、素直じゃねぇお前らが悪いんだぜ? てめぇらやっちまえ!!」
盗賊たちが襲いかかってきた。
「カイは手前の1人とやりなさい、残りは私が受け持つわ」
するとステフは腰の剣を抜いて盗賊の方へと飛び出した。
ステフの方は気にする必要はないなと思い、俺は剣を抜いて盗賊のリーダーと1対1で相対した。
修行のせいで俺の魔力はほとんど空っぽだから魔法を使うことはできないが、相手の雰囲気で何となく実力を測ることができ、大丈夫そうだと思った。
「グヘヘへ、あんなひ弱そうな女に5人も相手させるなんて酷じゃねぇか?」
「そんなことねぇよ」
「ぐはっ……」
ステフが相手をしている盗賊の1人の声だ。
「ちっ……。さっさとテメェを片付けて加勢しなきゃならねぇようだ」
盗賊のリーダーはそう言うと剣を持った腕を振り上げながら俺に向かって走ってきた。
俺は振り下ろされた剣を半身になって避けると、俺は脇腹めがけて横薙ぎに剣を振るった。
「ぐふっ……ちくしょうが……」
盗賊のリーダーがそう言って倒れた。
普段から化け物じみた動きのステフを相手に剣を振るっている俺からすれば盗賊なんか取るに足らないといったところだった。
倒れた盗賊のリーダーに背を向けてステフの方を見てみると、5人の盗賊が地面に伏していた。
「おおステフ、そっちも終わったみたいだな!」
ステフは俺の声に反応してこちらを見る。
「ええ、カイのほうも……ってカイ! 後ろっ! 危ない!!」
「後ろ?」
俺が振り返るとさっき倒したはずの盗賊のリーダーが殺意を持った目で俺を睨みつけ、今にも剣を振り下ろそうとしている。
「クソがァァァ!! 死ねぇぇぇぇえええ!!!」
俺は剣を横に構え受け止めようとしたのだが、殺気に当てられてか身体がこわばって動かなかった。
もしかすると人にこんな殺気をを向けられるのは初めてだったかもしれない。
俺は振り下ろされている剣を見て何もできずにいた。もうダメかもと思った直後、流れる金色の髪が俺の視界に入った。
そしてガチャリと剣の落ちる音がしてドサっと盗賊のリーダーの身体が倒れた。
よく見てみると首から先がなく、そこから止めどなく血が溢れ出している。
少し離れた所には本来その首についていた頭が落ちており、虚ろな目が開いたままであった。
「ひぃ……」
人が死んだ所は生まれて初めて見た。
いや、死体自体はスラムで何度も見たことがあったが死の瞬間を目にしたのは初めてだった。
「……カイ、大丈夫かしら?」
俺の心配をしてくれたステフの綺麗な顔と髪は返り血で赤黒く汚れていた。
ステフの目は殺気立っているというか冷たい目をしていて、思わず俺はビクッとしてしまった。
「あ、ああ平気だ。ありがとう」
ステフはまだ生きている5人の盗賊に治癒魔法で応急処置を行なって魔力で作った縄で縛り上げていた。
それが終わると盗賊の死体を火魔法で燃やし尽くして灰にした。
俺は気持ち悪くて、吐き気を何とか抑えながらその光景を見ていた。
作業を終えたステフはそんな俺に話しかけてきた。
「カイ、盗賊みたいに人を襲ってくる奴なんていくらでもいるのよ? 人を殺す覚悟が無ければこの世界を自由に旅なんてできないわ。進んで人殺しを肯定するわけじゃないけれど私はカイを守るためなら盗賊の命なんて取るに足らないわよ」
「そんなこと言われても俺は……」
「じゃあカイは仮にさっきみたいに私が殺されそうになったときに相手を殺してでも助けようとはしてくれないのかしら?」
俺は即答できなかった。
さっきも殺す気でこられた一撃に俺は怯んでしまった。
俺に人を殺すという意識がそもそもなかったからだ。
そして今改めて人を殺せるかと問われてもわからない。
仮にステフを助けるためとはいえ躊躇してしまうかもしれない。
そういう思いがあって俺は答えられなかった。
「……そう。じゃあ帰りましょうか」
縛り上げた5人の盗賊を引っ張って俺達はキーストリアまで帰った。
ステフの悲しげに見えた瞳は俺の気のせいではなかったはずだ。
――――――――――――――――
うん、改めて思い出してもこれは俺が悪いな。
ああしてステフが俺を助けてくれたっていうのに……謝ろう。
「あー、その、ステフ、そのだな…………」
「さっきはごめんなさい」
「え?」
俺が謝罪の言葉を述べようとする前にステフにそう言われて俺は理解が追いつかなかった。
「怖い思いをしたカイに人を殺す覚悟を持てだの私のために人を殺せるかなんて聞いちゃってごめんなさい」
「いや、俺のほうこそごめん。さっきはビビって答えられなかったけど――」
俺の言葉の途中でステフは俺の唇に指を当てていたずらっぽく笑みを浮かべた。
「ふふ、そもそも超絶天才美少女魔法使いの私がそんな危機的状況に陥ることなんてないのだから考える必要はないわ」
「まぁそれもそうだな」
もしもステフに何かあったら人を殺すことも厭わない、とは言えないけど全力を尽くすさ。
まぁ、そんなことがもしもあったらだが。
これは俺が人を殺すということについて深く考えさせられる出来事であった。
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続いていた間話はこれで終わりで次回から本編に入る予定です。




