《間話》レオン・マクファーレンとの出会い
これはカイが冒険者ギルドの依頼を本格的に受け始めたばかりの出来事である。
ステフに魔法の修行をつけてもらい始めてから1ヶ月が経った。
魔法の修行は剣の修行とはまた別の辛さがあった。
剣の修行が肉体的な疲れに対して、魔法の修行は精神的な疲れとでも言うのだろうか、ステフは鼻歌まじり複数の魔法を同時に使用するが、アレは俺から見ればとんでもないことであった。
1つの魔法を使うだけでも神経を擦り減らすのに、それをいくつも使うステフは本当に同じ人間か?
いや、アイツはエルフだったな。エルフは誰もがステフみたいな奴なのかな。
俺はそんなことを考えながら冒険者ギルドの依頼が貼られている掲示板の前にいる。
ステフが『依頼を受けて実戦で試してみなさい。ついでに冒険者の友達もできるといいわね』と言うのでやってきたのだった。
俺は現在FランクなのでEランクまでの依頼を受けることができる。
本来格上のランクの依頼はパーティでないと受けられないらしいがステフの名前を出したりニックさんに頼めば大丈夫だろうとのこと。
俺がどの依頼にしようか悩んでいると後ろから肩を叩かれた。
「おい」
振り向くとそこには俺が顔を上げなければならないほどの身長をしたツンツンの赤髪が特徴的な男が立っていた。
俺が少し小柄なこともあるだろうがそれにしても普通の人よりはでかいし体格もゴツい。
背中にはその男の身長ほどの大盾を背負っているのが見えた。
……もしかしてこれが噂の新人いびりというやつか?
ここでこの人に気に入られればこれからの冒険者活動も安泰、機嫌を損ねれば今後この冒険者ギルドに入ることすらできなくなるかもしれない。
俺はその男の方に振り向き、背筋をピンと伸ばしてハキハキとした声で返事をした。
「はい! 何でしょうか?」
「見かけない顔の者が長い時間掲示板の前に立っていたのでな、新人かと思い声をかけた。わからないことがあれば教えてやろう」
え? もしかしてただのいい人……なのか?
見た目とは裏腹に特に高圧的でもない態度……よかった、ただの親切な人だったようだ。
「ありがとうございます。俺の名前はカイといいます」
「名乗り遅れたな。俺はBランク冒険者のレオン・マクファーレンだ」
……マクファーレン?
「マクファーレンというのは……」
「あぁ、俺はこの街、キーストリアを含むマクファーレン領の領主、ウィリアム・マクファーレン侯爵の次男、レオン・マクファーレンだ」
そうだったか、やっぱり貴族だったか。
「なんでお貴族様がこんなとこにいるんだよ? 平民が命かけて必死こいて金稼いでるのを見て笑いに来てんのか? あぁん? お貴族様は暇で楽しそうでいいですね〜!」
俺は貴族が嫌いだ。何もせず平民から搾り取った税金でぬくぬくと生活をしているんだからな。
その事実が頭に血を上らせ、俺はいつもより挑発的な態度をとる。
「…………何だと? 貴様、もう一度言ってみろ」
「あぁ何度でも言ってやらぁ! 平民が必死こいて働いた金を毟り取って、貴族はその金で汗ひとつかかずにおいしい思いができていいですね〜!」
「き、貴様ッ!! 訂正しろ! その貴族をバカにした発言を今すぐに訂正しろ!!」
レオン・マクファーレンは俺の胸ぐらを掴んでくる。
「誰が訂正するかよッ!!」
俺もコイツの胸ぐらを掴んでやる。
すると周囲が騒がしくなり始めた。
「いいぞ〜! やれやれ〜!!」
「はっはっは! 今日ギルドに来て正解だったな!」
「おいクソガキ! もっと言ってやれー!!」
「おいレオン、舐められてっぞ! 先輩冒険者の威厳を見せつけてやれ!」
周りから野次が飛んでくるがそんなものは関係ない。
俺はただ黙ってムカつく奴の顔を殴ってやるだけだ。
「ぐはっ……!」
「ふん、お貴族様の醜い顔もこれでちったぁ見れるようになったんじゃあねぇか?」
今度は俺が奴に顔を殴られる。
「ぐほっ……!」
一発殴られただけなのに頭がクラクラしてくる。
「……今なら許してやる。これまでの発言を撤回しろ」
「寝言は寝てから言いやがれクソ野郎!」
ギルドにいる冒険者達は俺達を囲んで更に盛り上がっている。
それから俺達は殴る蹴るの応酬を繰り返した。
相手の攻撃をガードしたり躱したりなどしない、意地の張り合いみたいになっていた。
「はぁ、はぁ……。貴族の癖して中々根性あるじゃねぇか……」
「はぁ、はぁ……。貴様もちっさい癖にそこそこパワーがあるじゃないか」
俺達は互いに息が整うのを待った。
「……そろそろ再開するか。おい、そろそろキツいんじゃねぇか? 鼻水垂らして必死に頭下げるってならこの辺で許してやってもいいぜ?」
「ふん、抜かせ。貴様の方こそ先の発言を全て取り消して謝罪するというのならば受け入れてやろう」
俺はその言葉を鼻で笑って一蹴してやった。
そして俺達の殴り合いが再開しようとしたその時、冒険者ギルドの建物全体が揺れるような大声が響き渡った。
「なぁにをしておる!!!! このバカタレ共がッッ!!!!!!」
俺達は共にニックさんに脳天へ一撃を貰い、ノックダウンした。
その後、ニックさんが仲介して、俺とレオンは和解した。
レオンは俺のスラムでの生活の話を聞き、涙ぐみながら貴族の責任だと頭を下げてくれた。
俺は貴族のことを税で私服を肥やす醜い奴だと勘違いしていた、そう感じ謝罪をした。
「カイの思っている通りの、自分達の保身のことしか考えない貴族も確かにいる。いや、大半はそうであろう。だが少なくとも俺は、マクファーレン侯爵家の人間は、貴族は民の為に尽くすものだと考えている。覚えておいてくれ」
これがきっかけで俺とレオンは友人となり、時たま一緒の依頼を受けたりするようになった。
今回の罰として俺とレオンがしばらくギルドの雑用係としてタダ働きをしたのはまた別の話である。
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