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第17話 ステフとデート その3


 完全に日が暮れた街の中を俺とステフは2人並んで歩いている。


「それで本日最後にカイはどんなところに連れて行ってくれるの?」


 酒に酔って少し頬を赤らめているステフは俺にそう聞いてくる。

 

「さあ? どこだろうな、当ててみてくれ」

 

「うーん、そうね……。この先に特に何かあった記憶はないけれど。強いて言うならスラムがあるくらい、かしら」


「正解だ」


 するとステフが少しだけ怪訝そうな顔をした。


「スラムなんかに行って何をするのよ?」


「まぁまぁ、いいからいいから」


 俺はステフの背中を押してスラムへと歩かせる。

 しばらくスラムを歩いているとつーんとするような臭いが届いた。


「ほら、着いたぞ」


「ここって……」


 俺たちが今いる場所はスラムのゴミ捨て場だ。


「1年前のちょうどこれくらいの時間だ。ここで俺はお前を拾った。あの時は驚いた、死体だと思って通り過ぎようとした奴から呻き声が聞こえてきたんだからな」


「そう……。意識が朦朧としていて覚えていなかったけれどここで私は倒れていたのね。カイ、ありがとう。私を助けてくれて」


 礼を言うのはこっちのほうだ。

 ステフは俺にそれ以上の物を与えてくれた、それは命よりも大事な生きる希望だ。

 このまま毎日変わらないで漠然と野垂れ死ぬまで生き続けるんだろうなと思っていた俺を弟子にしてくれてここまで色々なことを教えてくれたのがステフだ。

 そしてこれからもステフは俺に色々と与えてくれるだろう。

 どう恩を返していいのかわからないが俺にできることはとにかく一人前の魔法使いになることだけだ。


 ふと俺は疑問に思ったことを口に出そうとした。

 いや、この1年間何度も聞こうとしたことだ。

 『なぜステフはこんなところで倒れていたんだろう』

 ステフはとんでもなく強い魔法使いでS級冒険者である。

 そんなステフが飢えてこんなところで倒れているなんてあり得るのだろうか。

 出会った初日に楽々とワイバーンを討伐し、とんでもない額を1日で稼いだのだ。

 普通に考えればあり得ない話だ。

 金がないなら適当な依頼を受けて稼げばいいし、冒険者ギルドでS級冒険者だと明かせば色々と融通してもらえただろう。

 じゃあ何であの時ステフはこんなところで倒れていた?


 俺は今回もそれを聞かなかった。

 出会った日にそれを聞いてはぐらかされたし、話したくない何かがあるのだろうと思った。


 

 そしてボロボロで隙間風が吹き放題の俺の元寝床までやってきた。

 立て付けの悪すぎるドアを開け、魔法で明かりを確保して中に入る。

 中に誰も住み着いていないことは事前に確認済みだ。


「ここは相変わらず、だな」


 中には薄い藁のベッドとちょっとした衝撃で足が折れてしまいそうなローテーブルだけがある。

 なんとも粗末な環境だったが当時の俺にとっては雨風が凌げて快適な空間だった。


「そうね。あの時は言えなかったけど壁と天井があるだけ外よりはマシって程度のボロさよ」


 うん、まぁその通りすぎて特に何も言うことはない。


 少しの沈黙の後、俺は話を切り出した。


「ステフ、1年前に弟子にしてくれたこと、スラムの生活から引き上げてくれたこと、そして今日まで色んなことを教えてくれこと、感謝している。これは日頃の感謝の気持ち……というには粗末な物だとは思うがよかったら受け取ってくれ」


 俺はある物をステフに手渡した。


「これは?」


「俺が魔法で銀を造形したペンダントだ。形は少し歪だが魔法陣をイメージして五芒星を作ってみた」


 ステフは俺が手渡したペンダントをじっと見つめているだけで俺の言葉に何も返してこない。


「あー、いや、あまり出来は良くないからな。気に入らなければ着けなくてもいいし処分してくれても構わない。でも捨てるなら俺の見えないところでして欲しいなーって、ははは……」


 俺の言葉にステフは目を見開き、笑って答えた。


「何言ってるのよ。黙っていたのはカイが作ったペンダントをしっかりと見たかっただけよ。超絶天才美少女魔法使いの私が身に着けるに相応しい素敵なデザインね、気に入ったわ」


 そう言ってステフは俺にそのペンダントを手渡してきた。


「ん?」


 俺に返すってことはやっぱり気に入らないってことか?


「ふふ、女性にこういう物を贈るときには直接身に着けてあげるのよ」


「そういうものなのか」


「ええ、そういうものよ」


 俺はステフの正面から首に手を回してペンダントを着けようとする。

 すると必然的に俺の顔がステフに近づいてしまう。

 いつもより艶っぽく感じられるステフに俺は動揺してしまい、上手くペンダントを着けることができない。

 その事実が更に俺を焦らせて手元がおぼつかなくなる。


「カイ」


「ひゃ、ひゃい!?」


 急に近くから聞こえてきた声に、声を上擦らせてしまった。


「何に焦ってるのか知らないけれど、アクセサリーを着けないカイが手間取るのは当然のことよ? 焦らなくたっていいわ」


 ステフの声は不思議なことにいつも俺を落ち着かせてくれる。

 何か魔法でも使ってるんじゃないのかと思うほどだが、魔力は全く感じられないので素でそういう声なんだろう。


 俺はさっきまで手間取っていたのが嘘かのように、スムーズに着けることができた。


「それで、何か言うことがあるんじゃないの?」


「ああ、これからもよろしく頼むぜ、ステフ師匠」


「こちらこそ……って違うわよ。ペンダントよく似合ってるねって言うところよ、全くもう……」



 俺とステフは一緒に笑い合い、その日が終わった。

 これからもステフの弟子として頑張ろうと心に誓った。


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