第12話 修行の日々が始まる?
「カイ、あの家に何か思い入れとかはあるのかしら?」
外はもう薄暗くなっており、夕日のせい空がオレンジがかっていた。
冒険者ギルドから外に出てくるなり、ステフは俺にそう聞いてきた。
「あの家? 俺の寝床のことか? あれは廃墟に勝手に住み着いているだけだし特にそんな思い入れみたいなもんもねぇよ」
「じゃあ問題無いわね。今日から宿屋に泊まりなさい。あんなところで寝ていたら疲れが取れずに修行に響くわ」
「そうは言ってもだな……」
俺も好きであんなところで寝ている訳ではない。
可能ならちゃんと休める場所で寝たいし美味い物を食いたい。
だが金が無い。
これだけはどうしようもないんだよな。
「お金の心配ならしなくていいわよ、何のために今日ワイバーン討伐に行ってきたと思ってるのよ?」
「お、おぉ……な、なら……!」
「三食お腹いっぱい食べられるしお風呂にだって入れるわ!」
「一生着いて行きます! ステフ師匠!!」
俺はスラム暮らしを脱することになった。
宿屋のベッドは身体がそのまま沈んで溶けてしまいそうなほどフカフカで、初めて入った風呂は身体の汚れと疲れが洗い流されるような感覚だった。
そして何より俺は、生まれて初めて腹一杯になった。
肉もパンも野菜も出てくる食べ物全てに感動した。
今まで食べてきたどんな物よりも美味しかった。いや、カビかけの硬いパンや残飯としか比べようが無いためそれはそうなのだが……。
あんなに濃い味で温かい食べ物は今まで食べたことがなく、食べられるだけ食べておこうと口の中に詰め込んでいたのだが、「明日からも食べられるんだから程々にしなさい」と、止められてしまった。
こうして俺のこれまでの人生で最も濃い1日は終わりを迎えた。
明日からはいよいよ修行だ。
朝早くからになるらしいので早めに寝ることにした。
修行を始めてから早くも今日で1ヶ月が経過した。
修行の内容は初日から変わらない。まずは基礎を固めるそうだ。
俺の1日は日が昇る少し前から始まる。
この時間に起きることにも慣れてきた俺は、ベッドから降りて大きく伸びをした。
そして宿屋の裏庭の井戸で顔を洗い、日課の瞑想をステフが起きてくるまで行なう。
瞑想にも慣れたもので、最初は全神経を集中しなくてはならなかったが、今は周囲の様子を窺えるくらいにはなった。
裏庭で瞑想をしていると背後から誰かの足音が聞こえてきた。
「カイ、おはよう。ご飯にしましょうか」
俺たちはいつものように、宿屋の食堂で朝食を食べた。
今日はパンとスープとスクランブルエッグ、ソーセージといったメニューだ。
お腹一杯に食べたいところだが、この後の修行に影響するので軽めにしている。
朝食を食べた後は少し休憩した後、ステフとの修行が始まる。
まずはランニングからだ。
これには決まった距離は無く、体力の限界までずっと走らされる。
「ほら、スピードが落ちてる! 気合い入れなさい!」
バシンッと俺の背中が叩かれる。
ちなみにステフも俺と並走して走っている。
ステフは額に汗が滲んでいるものの、息を全く切らすことなく楽々と俺に着いてきている。
「はぁ、はぁ……もう……だめ…………」
俺は息が持たず、足にも限界が訪れてその場でバタリと仰向けに倒れた。
「うん、昨日よりも走れているわね! お疲れ様」
そう言ってステフは俺に水の入った水筒を手渡してくれた。
「はぁ、はぁ……ありがとう」
俺は肩で息をしながらステフに礼を言う。
しばらく休憩を挟んだ後に次の修行が始まる。
次の修行は、木剣を使った模擬戦である。魔法の使用は無しの純粋な剣の腕のみでの模擬戦だ。
ただし、ステフは素手で俺の攻撃を躱すだけで一切反撃はしてこない。
一撃でもかすりさえすれば俺の勝ち、ということになっているのだが……。
「この前から言っているでしょ。目線で次の狙いが丸わかりよ!」
1ヶ月間毎日こうして模擬戦をしているのだがまだ1回も攻撃を当てることができないでいた。
ステフは魔法使いのくせに身体能力が高い。
高いとは言っても魔力を使っていない素のステフは目に見えない速さで動くわけではない。
それなのにまるで攻撃を当てることができない。
何か魔法でも使ってるかのように、俺の行動が全て読まれているかのように攻撃を躱される。
「動きが単調になってきてる! これじゃあ目をつぶっていても避けられるわ!」
ステフが言うには、目線や足の運び方などで俺の次の動きを予測しているらしい。
それを聞いて、めちゃくちゃに目線を動かし、足をバタバタとばたつかせて予測を困難にさせようと試みたが何でも無いかのようにいなされた。
そして15時より少し前、夕方になる前には模擬戦が終わり、そこからは素振りやステフと型の確認など自主練を行い、俺の1日は終わる。
「ふー、今日もステフに攻撃を当てられなかったなぁ。でも日々成長していることを実感できているし、明日も頑張ろう!」
俺はこうしていずれ師匠をも超えられるようにと剣の鍛錬に日々精を出すのであった……。
「……って何でだよ!? 何で剣の道に進み始めてるんだよ!?」
俺は1ヶ月にも及ぶ長い長いノリツッコミをした。
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