96 センタスの『証言』
「何してんの!?」
「ペルデュラン男爵!?」
「父上……!?」
「ひゃわわわわわ」
突然の暴挙に、思わず全員立ち上がる。しかしセンタスは顔を上げず、額を床に擦り付けながら腹から声を出した。
「全て私が一人で決めて行動したことだ。息子達に責はない。大変申し訳ない」
「父上、その内容を話して欲しいのだ。そして場合によっては、謝罪程度では済まされない事態になっている」
立ち上がってセンタスの傍まで進んだオクトスが、センタスの前で膝を着く。
「ライコア侯爵家は崩壊した。教会も王城も状況がわからない。毒の煙が晴れるまで、誰も近寄れないからだ。忠義のために身を挺し、亡くなった者も少なくないはず」
毒の煙などは予想外なのでセンタスの所為とは言えないが、毒を知っていてニリスに加担していたのなら、それ相応の罰を受けねばならない。
「俺達が知っているのは、侯爵が語った内容だけだ。聖人を尊ぶべき思想と、手段と、流れた人々の行き先。死の病もどきがもたらす影響を、ペルデュラン男爵家で抱え込む予定だったと。そうすることでかつての聖人が受けた汚名を晴らす予定だったということだけだ」
「……そうだ。間違いない」
「この地を新たな国の礎として、聖人であるミラノスを新たな象徴にする事も?」
「ああ」
「なんでそんなの了承したのさ……」
肯定が帰ってきて、ミラノスは頭を抱えてソファに沈んだ。
聖人の単語に護衛がぎょっとミラノスを見たが、反応する暇も余裕もない。
「過去の汚名なんて、どうでもよかったじゃないか。国の上層部に対して怒りを覚えはしても、そんな昔の汚名、たくさんの命を犠牲にしてまで晴らすべきだった?」
ミラノスが引っかかっているのはそこだ。
いずれ祖先の汚名を晴らしたいとは思う。が、それは多くを犠牲にしてまで成し遂げるべきだったのか。
「無理があると、もちろんわかっていた。だが、あの狂人から領地を守るためには、そうするしかなかった」
「……何があったの」
「侯爵は、私が聖人を尊び、協力すると疑ってもいなかった。だからテレーザの嫁入りの話が出たとき、是非協力してくれと話を持ちかけてきた」
『どういう繋がりかと思ったら、嫁入り話の方が先だったかぁ……』
つまり、教会によってお膳立てされた縁だ。
五人目の嫁の情報を手に入れたニリスがかつての偽物と罵られた聖人の生家と知り、行動を起こしたのだろう。
「侯爵は毒の話をしていた。どんな毒で、どんな効果があって、それを使って何をしようとしているのかも」
むしろ最初から共犯者扱いされて、センタスはとても焦った。
殺人鬼の可能性はあったが、まさか国家反逆を企てているとは思っていなかっただろうから、それも仕方がない。殺人鬼とは思っていただろうけれど。
「毒の内容を赤裸々に語った後、彼は……教会の目を欺くため、予定通りの嫁入りがされなければ、その毒を領地に撒くと宣言した」
『しっかり脅してるじゃないの旦那様――っ!!』
アイヴィーは頭を抱えて叫んだ。
勝手に語っておいて、それはない。
ニリスは同志のように語っていたが、内容は脅迫だった。
「だから……使用人の私を、養女として嫁がせたのですね」
花嫁は、人質だった。
そしてその人質が予定通り嫁がないなら、契約は不履行となる。
センタスは領地に毒を撒かれないように、逃げた娘の代わりにクインティーナを嫁がせた。養女として、男爵家の娘と主張して。
「そうだ。人質として扱うなら、侯爵の悪い噂も該当しないと思い……むしろ、侯爵の計画が少しでも進めば、教会が『元聖人を輩出した家の娘』としてテレーザを無理矢理、聖人として祀り上げる可能性もあった。それを避けるため、侯爵家に嫁ぐのは安全の為でもあった」
「なんでそうなるかな……全然安全じゃないでしょ」
『聖人って厳格な審査があるはずなのに、生贄扱いの時は判定が甘くなるのなんなの? 腐敗なの? 腐っているから甘いの?』
ニリスに対して聖人の血筋を守れと、何があっても嫁を送り続けた教会だ。聖人の系譜を辿り、テレーザに行き着く可能性は……ないとも言えないのが辛いところだ。
ただ、それはかなりこじつけだし、聖人としてのあり方を全否定している。
「ミラノスは、すぐに領地へ避難させるつもりだった……だがテレーザを逃がし、使用人を助けるため奔走しはじめ、それどころではなくなった。もっと早くお前達を引き離すべきだった……」
『そうじゃないでしょ。まずは息子達に報連相して?』
呆れ顔のアイヴィーがしっかり突っ込む。ミラノスも同意見だった。
むしろ領地に送られたら、ニリスの望む新世界の神に近付く一歩のようでとてもいやだった。
「……信じがたいな」
しかし話を聞いたペンタスは、厳しくセンタスの発言を撥ね除けた。
アイヴィー『男爵に会ったらとりあえずぶん殴りたいと思ってはいたんだけど……!』




