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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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78/100

78 前世で得た毒物知識


(――それって、ヒ素じゃない?)


 侯爵家が虫除けとして配っている農薬は毒薬と話すペンタスの声を聞きながら、アイヴィーは前世の記憶から該当する毒薬を弾き出していた。


 ヒ素。

 ミステリーではお馴染みの、病気に見せかけて毒殺する時に犯人が使用する毒薬だ。


 ヒ素は、鉱物から採れる毒物だ。基本的に地殻中にあるし水にも含まれているらしい。それらは健康に害のない微量中も微量だが、ミステリーに出てくるのは確実に健康に害のある毒だ。


 ヒ素がミステリーでよく登場するのは、ヒ素中毒による殺害が、病気に見せかけて可能だから――だと思う。


 衰弱死だと思えば殺人だった、と言う展開にもってこいの毒なのだ。アイヴィーはそう思っている。

 そしてヒ素中毒の症状に、皮膚症状……色素沈着がある。

 肌に黒い斑点のような物ができる、黒死病(ペスト)を思わせる症状だ。

 それが本当に病気なら思い付かなかったが、虫除けの言葉が出てきて脳裏に浮かんだのはヒ素だった。


 なぜなら、ヒ素は虫除けの農薬として使用されていたからだ。


 ならば……今世でも、ヒ素に似た毒薬が使われたのではないか? とアイヴィーは思い至った。


 なんでこんなに毒に詳しいのかって?

 全部ミステリー小説からの知識である。


(でもってもしかして、フルスが持っていた毒ってそれだったりする――!?)


 ライコア侯爵家の所有する毒の話が出て、ライコア侯爵家勤めのフルスが持っていた毒が無関係とは思えない。


(でもって誰か病気とみせかけて、毒殺されてたりする――!?)


 ちなみにアイヴィーは違う。

 ヒ素の怖いところは中毒症状だ。急性中毒の場合死に至るが、アイヴィーはワインを一口飲んだだけ。その程度で血を吐いて死ぬような症状は出ない。


 本当に、じわじわと死に追いやる毒だ。

 ただし、出回っているのがアイヴィーの知っているヒ素ではなく、別の物ならあり得る。


 症状はとても似ている。しかしここは異世界。

 剣はあるが魔法はない。聖人による奇跡は信じられているが、あれだって結局起こすのは神だ。奇跡も魔法もありはしない。


 だから前世と同じ条件のヒ素毒が出回っているのだと――ミラノスが落っこちる数秒前まで、そう思っていた。


(あえりなくな――――い!?)


 広がるのは鍾乳洞。

 海も近くない、岩肌でもない、鍾乳洞ができあがる条件から外れた地下に、白い岩の氷柱が所狭しと生えている。


(マジあえりなくな――――い!?)


 鍾乳洞は大昔のサンゴや貝が酸性の雨などで削れてできる。その正体は清らかな水とカルシウムだ。決してこんな、全体で毒だぜ! と叫んでいるような場所は違う。


(でも見た目まんま鍾乳洞じゃな――――い!?)


 前世で世界中の絶景を画面越しに見ていたアイヴィーと違い、ミラノスは手の届く範囲の景色しか知らない。地下の空洞に目を奪われていたし、何も知らなければ確かに絶景だ……これが全て毒とわからなければ。


 冷静に解説しながら、アイヴィーは内心、盛大に焦っていた。

 ぶっちゃけ、アイヴィーの知るヒ素と似た性質なら、呼吸からでも有害なのだ。


(今のところミラノスに体調の変化はない……けど、これだけの量は長居したら中毒症状を発症してもおかしくない。急性中毒にでもなったら命が危ない。でもって王都の人間も少なからず、この水路から毒を摂取しているはず)


 毒が届いていないと言ったが、あれは嘘だ。


 この距離で届かないわけがない。確実に、王都中の人間が微量の毒を摂取し続けている。

 幸いというか本当に微量なのか、まだ健康被害を訴える住民はいないようだが……ミラノスが懸念するように、直接毒物を水路に放り込めば王都は壊滅する。


(それが、旦那様の狙い?)


 ――アイヴィーもペンタスが持って来た地図を見たので、どうしてそう思ったのか察することができる。


 王都を死の病と思わしき症状の患者で囲い、王都でも同じ症状が出始めれば……住民はどこにも逃げられない。

 あの不揃いな輪は、そのまま。王都を囲む死の包囲網なのだ。


(ならば、なぜ?)


 どうやっては、ペンタスが解明した。きっとミラノスもわかっている。

 誰が、もわかっている。侯爵の手の者が、ライコア侯爵家の関係者がやった。

 残るのは、なぜ――動機だ。


(旦那様は狂っているから、まともな動機はないかもしれない。教会に対する復讐? 王家に対しての復讐? 国全体を巻き込んだ反逆? ――それに、侯爵家の人間が協力的なのはなぜ?)


 そう、協力的なのだ。古参であればあるほど、自ら進んで足元を赤く染める。

 ペンタスへの対応もそうだし、ニリスの話では、妻が亡くなっても進んで介入した。そう命じなくても、彼らは証拠を隠滅した。


(まるで……理性がぶっ壊れた狂人みたいに)


 そんなの一人いたら充分だ。むしろ一人いるのもお断り。


(そんなのたくさんいるわけないじゃない。薬中の集まりだとでも……)


 そこまで考えて、アイヴィーは毒の地下から空を見上げた。

 真上にあるのは、多分侯爵家。


 ――この毒の影響は、本当にヒ素と同じ症状だけだろうか。


(侯爵家に滞在すればするほど、地下の毒素を吸収して……精神が崩壊するとかないよねぇ!?)


 アイヴィーが実にヤバイ思いつきをしたのと、上空からクインティーナ達が落下してきたのはほぼ同時だった。


アイヴィーは前世のエンタメで頭がいっぱい。

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― 新着の感想 ―
大変深刻な状況なのに、あとがきのアイヴィーのおかげで笑ってしまいます。 アイヴィーだいすき!
まだアイヴィーの予想状態だけど、毒性あるうえ鍾乳洞化して精神も病むとか嫌な異世界マジック(現世人からすると手品や魔法のように見える不思議)だな異世界ヒ素鍾乳洞(仮)!
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