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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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73 姉の面影


 クインティーナが初めて見たアイヴィーの弟は、アイヴィーによく似ていた。


 大きく違うのは、髪質だろうか。

 ダークグリーンのうねった髪のアイヴィーと違い、ペンタスはピンクブロンドのストレート。肩まである髪は、頭部を殴られた所為もあって乱れている。


 しかしダークグリーンの猫目はそっくりで、その目は不信と警戒で尖っていた。


「お前達……侯爵の手の者ではないな?」


 オクトスが昏倒させた男を見ながら、ペンタスが疑惑に満ちた顔で問う。

 ひげ面の男は、独房の見張りだろう。それにしては奥の方にいたが、オクトスに昏倒させられてぎゅっと縛られている。目が覚めて騒がれると困るので、しっかり猿轡もしていた。相変わらず、判断が速い。

 見張り相手にここまでしているのを見て、侯爵家の人間と思う方がおかしい。

 だからといって味方とも思っていないのだろう、警戒して鉄格子に近付こうとしない。


『あ~あのねペンタス。大丈夫よ怪しいけれど。敵じゃないよ怪しいけれど。というか怪しくても何でもいいから、ひとまず利用してここから出よう? 使えるものは使ってこ?』


 そんな弟を宥めるように、アイヴィーが心配そうに寄り添っている。

 聞こえていないとわかっていても進言するのは癖だろうか。その内容はあけすけすぎてどんな顔をしたら良いのかわからなくなる。ミラノスも嫌そうな顔をしていた。


 場違いながら、クインティーナの脳裏を威嚇する仔猫と宥める親猫が過った。現実にいるとしたら恐らく逆だ。


「俺たちは、ペルデュラン男爵家の者だ。縁あって、あなたをここから助けたい」


 勢いで助けねばと前のめりだったクインティーナは、対面してなんと言えば良いのかわからなくなっていた。

 だがここは判断の速い男、オクトスが鉄格子の前に膝を突いてペンタスに声を掛けた。独房の端にひげ面の男を放り投げ、その男から奪った鍵を掲げている。


(あ、そうでした。鉄格子の鍵……!)


 こればっかりはクインティーナには入手不可能だったので、怪我の手当のみを考えていた。見張りがいたならそれも怪しかったが、鍵があるなら脱出ができる。

 あっさり鍵穴に差し込んだオクトスを見て、ペンタスの目が丸くなった。


(あ、アイヴィーさんにそっくり)


 驚いた猫のような顔がとても似ていた。


「ペルデュラン男爵家……五人目の妻の家か。侯爵家と手を組んだと思っていたが」

「少なくとも我々は、侯爵の行いをよしとしていない」


 核心を突くペンタスの言葉に、クインティーナが戸惑いを浮かべる。

 しかしオクトスとミラノスは、否定も肯定もしなかった。ただ、自分達は違うとだけ言った。


(どういう事でしょう)


 ことの詳細は、クインティーナに伝わっていなかった。ミラノスとアイヴィーの間で、クインティーナに伝える情報は規制されている。

 未確定な情報が多く、確信を持って伝えられなかったからだ。


 鉄格子が開き、中から覚束無い足取りのペンタスが出てくる。

 頭部から流れる血の量を見て、クインティーナは青ざめた。思った以上に出血していた。


「て、手当を。止血をしましょう」

「いや、いい。血は止まっている」

「いけませんこのままでは。傷口を晒したままでは危険です。保護させてください」

『私が許すからやっちゃって! この子ってば無理ばかりして!』

「はい、失礼します!」

「!? おい、いらないって言って――」

『昔から自己判断でいらないって言う! 昔一生懸命私の後ろを付いてきてすっころんで足をグギって手当拒否って骨折だった事忘れてないからね!?』


 本人には聞こえていない、ちょっと恥ずかしい過去が暴露されてしまっている。

 クインティーナは微笑ましい気持ちになりながら、何故か大人しくなったペンタスの頭部を手当てした。いざとなったら裁縫道具で応急処置を覚悟していたが、出血は本人の申告通り止まっている。布をあてて、包帯を巻くだけに留めた。


「お待たせしました。後は侯爵家を出てからしっかり手当を、」

「そのペンダント、どこで手に入れた」

「はわ」


 手当を終えてほっとしたところをじろっと睨まれて、クインティーナは間抜けな声を上げた。


「そのペンダントは、俺が姉に渡したものだ。何故あなたが持っている」


 ついさっきも同じ事を聞かれた。

 マイナもペンタスも、ペンダントを見ただけで誰の持ち物かわかるらしい。自分が渡したモノなら覚えているかもしれないが、確信を持って言えるのはすごい。


(アイヴィーさん、とても慕われていたのですね……!)


 慕われていたというか、やけに重たい感情をむけられている。

 二人の間でハラハラしているアイヴィーは、やっぱりお別れがよくなかったんだろうか……と首を傾げていた。呑気だった。


「これは、侯爵様に渡されたのですが、アイヴィーさんの物なので、お借りしているだけです」


 そこまで言って、ハッとした。

 マイナに伝えたことを思い出したのだ。


「あの、こちらアイヴィーさんの遺品になりますので、弟様がお持ちになった方が」

「待って」


 言いながらペンダントをはずそうとしたクインティーナの腕を、ミラノスが止める。


「それは後にして。今はクインティーナが持ってて。じゃないと障りがあるでしょ」

「え、あっ」


 指摘されて、クインティーナは自分が先走ったのを自覚した。顔を上げれば、アイヴィーが苦笑しているのが見える。

 アイヴィーは、このペンダントを中心に移動する。


 つまり、彼女の力を借りている現在……ペンタスに遺品として渡せば、アイヴィーと連携が取れなくなる。


(や、やってしまいました!)


 とっても訝しげなペンタスに、クインティーナは青い顔で黙るしかなかった。


憑依霊という存在に馴染みのない弊害。

未だに魂が物に縛られる、というのがよくわかっていない。

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