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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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66/99

66 魂の行き場


 この世界では、魂の存在を誰もが信じている。


 見えないけれどいる存在。見えるのは聖人だけ。

 肉体の重さから解放された魂は天に昇り、そうでない魂は大地を彷徨う。

 よって、聖人の目に映るのは、大地を彷徨う醜悪な魂だけ。


 その中で、アイヴィーは規格外な存在だった。

 理性的だし、会話が通じるし、ピカピカ光るし、飛べる。この世界の魂のあり方を全否定するような、まさしく別格な魂だった。


 アイヴィーは言われたときは大袈裟なと思ったが、実際にこの世界の魂を見て考えを改めた。あれはほぼ悪霊。アイヴィーは自認、憑依霊。悪霊ではない。


(魂は大地に縛られている)


 魂がそうなのは、生前の記憶が関係あると、アイヴィーは思っている。


 アイヴィーが体を失った後も頭痛を覚えるのは、生前の記憶が呼び起こされるからだ。成仏できないのは、この世界と前世で考え方が異なるから。

 確実にそうとは言えないが、宗教は魂に根付くもの。どれ程の悪人でも、太陽の光を神の目と認識している。死んだ後どうなるかも、漠然と共通認識があった。


 だから、天に昇って成仏するのも、大地に縛られるのも、生前の宗教観から来ていると、アイヴィーは思っている。

 根付いた価値観から、成仏していない、大地を彷徨う魂は、飛べない。


(と、思っていたけれど……憑依霊は、その限りじゃなさそう)


 すいすいと天井すれすれを飛びながら、アイヴィーは思考を巡らせた。


(憑依しているんだから、そこが視点になるんだ。憑依物が、憑依霊にとっての大地になる。だから旦那様に取り憑くあの霊の場合、旦那様が二階にいたら一階を飛び回れる。行動範囲は限られているだろうけれど、地下で元気いっぱいだったのは大地の下にいたから)


 むしろ、天井から吊られた振り子になっていたかもしれない。


(私を追いかけてきたのは、まあ捕食目的だろうけれど……今まで私が襲われなかったのは、ずっと飛んでいたからって事かな?)


 そう考えれば、今まで何事もなかったのに納得できる。


(……いや、でも、私旦那様の枕元に三日三晩立ったしな……)


 眠るニリスの頭上で、怨念を吐き散らかした事がある。

 その距離でも、襲われることはなかった。


(あのときと今と、何か違う? ちょっとわからないな……)


 一体何がきっかけだったのかと、アイヴィーは頭を抱えた。


 思えば、本日のアイヴィーは散々だった。


 マイナとフルスを探しに行ったのに見つけることができず、成長した弟を見ることができたと思ったら弟は命の危機。かと思えば自身すら命の危機。

 今まで何事もなかったから油断した。まさか天井から大口を開けて降ってくるとは思わなかった。


(って、私もう死んでいるんだけれどね――――!)


 この場合、なんと言い表すべきだろうか。魂消滅の危機?


(でも、食べられた魂がどうなったのかわからないからなぁ)


 吸収されるのか、消化されるのか、痛みは感じるのか、結果として消滅するのか、融合するのか。

 いやな想像しかできないので、絶対食べられたくない。


(クインティーナにあれだけ大丈夫って言ったんだから、気を付けないと)


 アイヴィーが食べられないかと不安がっていたのは、クインティーナだ。


(さてこれからどうしよう……クインティーナを助けたいけれど、ペンタスを無視はできない)


 かといって、クインティーナに頼んでペンタスを助けるのも危険だ。

 そもそもニリスはアイヴィーを聖人(姉)と認識している。そのアイヴィーの実弟がペンタスだ。

 狂った彼の感性がどう認識しているのか不明だが、良い認識ではないだろう。問答無用で使用人に殴らせているし、存在自体が受け入れられないかもしれない。

 そんなペンタスを、聖人(姉)のクインティーナが助けようとする。


 ニリスではなく、ペンタスを。


(地雷の予感しかしない)


 ニリスは、家族(家族)より使命を選んだ姉に、思うところがある。

 そうとわかっていて、アイヴィーはクインティーナの所に行くしかない。

 何故ならアイヴィーの声を聞けるのはクインティーナだけで、アイヴィーがペンタスの危機を訴えられるのも、彼女しかいないからだ。


『あーあーあーもぉ! 本当に無力だよ!』


 死んでしまった人間は、生きている人間に何もできない。

 何もできないのだ。


 それでも足掻いてしまうのは、霊を見聞きする聖人がそこにいるから。

 救いを求めて、アイヴィーはクインティーナの元へ向かった。


『って、無理させられるわけないじゃ――――んっ!?』

「!?」


 しかし到着した頃には良心の呵責に耐えきれず、アイヴィーはクインティーナの膝元にスライディング土下座を決めていた。


どっちも助けたいのに何にもできない。

なぜなら死んでいるから。

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