57 不揃いの輪
※7/27 7:00投稿分をうっかり投稿してしまいましたテヘペロ!!!!!
明日の投稿はお休みです!!!!!(これです)
――今にも儀式が始まりそうな地図。
恐らくだが、前世で言えばドラマや映画。マンガで誰もが一度は見たことがあるのではないだろうか。
一つ一つの事件に関連性がなくても、発生場所を日にち順に地図上で繋げると五芒星になるとか、複数の事件が発生してはじめて最後の目的地がわかるようになるとか――オカルト、サスペンス、ミステリーでは度々目にしたと思う。アイヴィー的には国内外関係なく、わりとよく見た気がする。
アイヴィーはそれを『今にも儀式が始まりそうな地図』と呼んだ――……正式名称とか知らない。あるのかもわからない。便利な検索エンジンもないので、確かめようがなかった。
謎解きで全てに意味があったのだと気付いたときは、ぞわっと鳥肌が立った。あれは気持ちのよい鳥肌だった。感動に近い感情だったからだろう。
しかし今、アイヴィーが感じているのは、感動ではない。
『うっわぁ……!』
正直、気持ち悪いと思った。
アイソメトリア国の王都を取り囲む不揃いの輪。不揃いでありながら、囲っていると理解できるほど密度の高い目印。
そこからは小さな虫が集団で中心に押し寄せていくような、悍ましさが感じられた。
どうしてそう思ったのかわからないが、気持ち悪かった。
『って、ちょっと待って……え、これ何を意味しているの?』
地図だけで見れば規則性はない。しかしわざわざ印をつけているという事は、何かあったのだ。
ペンタスが先程上げた名前は、ライコア家に嫁いだ前妻達の実家だ。地図を見れば、彼らが所有している領地にも印がついている。
そして、ライコア侯爵家が保有する領地。アイヴィーは寄子まで把握していないが、恐らくその分も含まれる数だ。
「失礼ですがライコア侯爵家は、もともとはさほど裕福でなかったと伺っています」
『待ってペンタスその話題は地雷!』
突然始まった地雷原でのタップダンスに、アイヴィーは悲鳴を上げた。どれくらい地雷かというと、先程までピクリとも表情の動かなかったニリスが、スッと目元を細めた。
ライコア家は昔、裕福ではなかった。それでも盛り上がったのは、姉が聖人だったからだ。
そしてニリスは聖人を姉と認識している。アイヴィーは聖人でないが聖人と思われている。つまりアイヴィーはニリスの姉と思われている。ややこしくて頭を掻き毟りたくなる現状。
そこに現れたアイヴィーの実弟。
その実弟からライコア家について、姉について言及されたら、どう反応するかわからない。
危険だ。
狂人の矛盾を突くのが一番危険だ。
「それでも長らく続く侯爵家には、複数の分家と寄子が存在した。先代の方々が散財できたのも、彼らの財源を極限まで搾り取った結果でしたね」
『ん――回避してる? ギリギリ回避してる!?』
ギリギリ姉の話は避けているかもしれないが、ギリギリすぎて怖い。
「散財する先代から代替わりをして、随分と回復した様子ですが……ここ数年、不作が続いているようですね」
『え、そうなの?』
なんだかギリギリ回避したっぽいな……と思いながらペンタスの話を聞く。
ここ数年と言っているが、恐らくアイヴィーが亡くなってからだろう。アイヴィーは侯爵家が不作だと聞いたことがない。
「なんでも、育った作物が黒ずんで枯死してしまっているとか。対策を練っているようですが、改善が見られないと伺っています」
「ええ、しかしこればかりは天候や気候の問題もあります。他領に協力頂き、麦を買い込むなどしていますが……」
「そうですね。農民達が飢えないよう、領主として立派だと思います。ですが」
ペンタスは地図の一点を指差した。
それはライコア家の領地で……確か、先代達が追いやられたとミラノスから聞いた土地だ。
「ここからはじまり、ぽつぽつと、不規則な流れで、同じ症状で作物が枯死しているんです」
そう言って一つ、一つと場所を指差す。
西も東も関係ない不規則な流れ。その領地から植物の病気が流行ったのだとしても、徐々に広がるはずのルートを辿らぬ不規則な発症。
「我が領地は、美食の街と呼ばれるほど料理もですが、作物も力を入れています。姉が生前残した肥料のノウハウもある。父は先んじて不作の原因とされる病について調べました。領地に被害があっては大きな打撃になりますから」
ペンタスの話しぶりからして、地図に載っている印は「原因不明の作物の病」が発症している場所のようだ。
だがそれにしたって、不規則な広がり方は不自然すぎる。病だとすれば、感染経路があるはずなのだ。気候の問題もあるので、なにもないのに飛び石のように広がるのはあり得ない。
まるで人為的に広がったかのようだ。
(――誰かが、意図した?)
王都を囲むように、不作を起こすのを?
「そこで、気付いたのです。この不作が、あなたに関わった者達の領地でしか起きていないことに」
『えっ』
「先代の元から始まり、分家に寄子。前妻達の領地に、使用人の出身地」
『えっ』
アイヴィーはもう一度地図を見た。
基本的に使用人は領地から連れてくるが、王都にある屋敷では王都で募集を取って採用した者もいる。
使用人がどの領地出身かなど、前妻としての期間が短かったアイヴィーは把握していない。唯一仲良くしてくれた二人の出身地も知らない。
確認したのは、ペルデュラン男爵家の領地。
(――印がある)
しかし、ヴィニカリスには印がない。
安堵する前にアイヴィーの脳裏に浮かんだのは、昨晩のニリスの言葉。
『ヴィニカリス……そう、彼らは残念だ。だが、あなたの育った土地を穢さずに済むならそれで良かったかもしれない』
(――輪に入れなくて残念だったとか、言う?)
利用できなくて残念だと、そう言ったのだろうか。
「ニリス侯爵」
ペンタスの声は重い。
「これは全て、あなたの指示ですね」
ニリスの赤い目が、煩わしそうにペンタスを一瞥した。
アイヴィー『可愛い弟が推理ものの探偵みたいな推理ショー始めてて気が気じゃなーい!!』




