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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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54/100

54 鮮やかな星の花


 ここで残念なお知らせ。

 ――ミラノスとマイナの話し合いに、アイヴィーは参加できない。


『だって範囲外! お外に行けない!』


 アイヴィーは使用人の棟を飛びながら叫んだ。

 当たり前のように、廊下を行き交う使用人達で、アイヴィーの声が届く者はいない。


『それに行動範囲また変わったし! クインティーナの手元にペンダントがある流れは気持ち悪いけど、結果的に僥倖! そう思うしかないわ!』


 やけくそ気味に叫びながら、空を泳ぐ。

 連日の情報過多で、アイヴィーも頭が痛くなっていた。生身ではないが、精神的に生前の痛みを思い出している。死んで痛みとさよならしたはずなのに、脳内再生余裕で頭が痛い。こんな再現力欲しくなかった。


 ストレス発散に、一人カラオケで叫ぶみたいに声を出していく。

 アイヴィーの声を聞く人が居ないので、突然叫んでもおかしな目で見られることはない。

 だがクインティーナやミラノスの前でも叫ぶので、実際人目は気にしていない。むしろ反応されるのが嬉しい。


 それはさておき。

 昨夜も情報が混戦していた。


 ニリスの狂気、教会の闇、聖人の因習。そしてマイナとフルスの思いがけない行動。


『不審者と手を組もうなんて、二年前のあの子達なら絶対あり得なかったのに』


 この二年で一体何があったのか、アイヴィーは交流のあった二人が心配でならなかった。

 昨夜のこともあり、使用人と同じ時刻に目が覚めるクインティーナに事情を説明し、今日のアイヴィーはマイナたちの様子を見に来ている。


 本来ならクインティーナの周辺を気にするべきだが、現在のクインティーナは籠の鳥。昨夜の話を信じるならば、閉じ込めている側に敵意はない。あるのは狂気のみだ。

 つまり、クインティーナはある意味、この侯爵家で一番安全な場所にいる。


『一番危険な立場だったはずなのにね』


 なんとも皮肉なことだ。


 アイヴィーはひょいっと壁を通り抜け、まずはフルスの様子を伺いに厨房へとやって来た。

 厨房はいつ見ても騒がしい。アイヴィーが過ごしたヴィニカリス伯爵家も、中々の熱気だった。

 あれはアイヴィーが前世の知識という名の新作レシピ(燃料)をを投下していた所為もある。


『さて、フルスはどこに……あれ?』


 きょろりと厨房を見渡して、首を傾げる。

 どこにもフルスの姿がなかった。

 健康優良児で、大真面目で、仕事に熱心なフルスがどこにもいない。


『んんー? 昨夜の夜更かし、朝に響いた?』


 起きられないのではと心配したが、まさか本当に起きられなかったのだろうか。


(幽霊ってこういうとき不便よね。誰かに聞くこともできないんだから)


 不便な点はたくさんあるが、一番はやはり他人と交流できないことだ。


(まあ、壁をすり抜けてどこにでも入れるのは利点だけど)


 ひょいひょいと壁を通り抜け、使用人の居住へと進む。念のためマイナも見に行ったが、いつもの洗濯場にいなかった。どうやら兄妹揃って姿が見えない。

 ちょっといやな予感がしたが、ひょいっとフルスの部屋を覗き込む。


 誰もいなかった。


『ん――――っ』


 いやな予感を覚えつつ、部屋を物色する。

 四人部屋だが、料理人は朝が早いので同室は料理人だ。そのためか、個人スペースにおかれている物はほぼ同じ。どこがフルスのスペースだかわからない。

 しかし、極端に片付いている場所もない。


(本格的に不審者側の味方になって仕事を辞めたとか、そんな事はなさそう)


 部屋も綺麗に片付いているが、四人部屋だ。それぞれ気を遣って掃除をしているのか、目立って汚れている部分もない。


(料理人同士だから、衛生管理がしっかりしている、のかな?)


 しかし職場にも自室にもいないとなれば、どこにいるのだろう。偶然席を外しているタイミングだったのだろうか。


(もしかしてマイナの方で何かあったのかも?)


 アイヴィーは躊躇なく壁に頭を突っ込んだ。


 ――似たり寄ったりの個人スペースの一角。一つの写真立てが伏せられているのに、気付かずに。






『い、いないんだけど……』


 フルスはマイナの部屋にもいなかった。

 マイナも部屋にいなかった。

 行き違った可能性を考慮して、侯爵家を飛び回ったが、二人の姿を確認することができなかった。


『昨日の今日で? 何処に行ったの? 荷物は置いてあったし、夜逃げではないよね!?』


 恐らくだがフルスの荷物も、マイナの荷物も部屋に残っていた。


『絶望的に遭遇しないだけ!? どっち!?』


 侯爵家は広いので、タイミングが合わないだけの可能性もある。

 しかし侯爵家を歩き回るマイナならともかく、料理人のフルスは厨房から動かない。だというのに姿が見えない。


『もしかして二人揃って外にいる? 仕事中に!? もしかして二人揃って休んだの!?』


 休みを取って、堂々と外に出たのだろうか。

 今夜、指定した店でミラノス達と顔合わせをする二人だ。夜に抜け出すのではなく、昼に出て帰りは遅いと連絡しておいた方が自然だ。

 だが、社会人が当日に休みを取るのはとてもリスキー。

 しかも兄妹同時に、だ。


『使用人に決まったオフの日ってないからな……予定を調整して休みをもらうのが一般的で、体調不良でやむを得ないとかじゃない限り、当日に休むのってできなかったはず……』


 大体の職場はそうだろう。

 だが、こんなに都合よく休みを取っているだろうか。


『誰かに確認すれば一発なのに、声を掛けられないって本当に不便!』


 マイナやフルスの同僚に問いかければ解決する謎だというのに、アイヴィーには確認方法がない。

 昨夜のこともあり、動向を知りたかったというのに謎が深まった。


『……侍女長の所に出勤簿的なのないかな』


 頭を抱えていたアイヴィーだが、ふと思い立って侍女長の居る部屋へと移動する。


 使用人を統括する役目を持つ侍女長は、小さいが専用の部屋を持っていた。これは執事長も同様で、資料室に近い扱いとなっている。

 夫人は侍女長や執事がまとめた物を確認して家政の指示を出すが、侯爵家では実質、夫人はいない。クインティーナとニリスは結婚しているが、夫人としての実権は宙に浮いたままだ。

 クインティーナを聖人として、姉として認識しているニリスなら、妻に与える実権をクインティーナに渡すことは今後もないだろう。


 侍女長の部屋に向かう最中、アイヴィーは屋敷がやけに騒がしくなったのに気付いた。


(なにかあった?)


 もしや予想外に、クインティーナに危険が迫ったか。アイヴィーは方向を変えた。

 騒がしい方向に向かえば、そこは玄関ホールだった。


(もしかして客人? 私の記憶違いでなければ、今まで侯爵家を訪ねてきた人とかいなかったけれど……)


 ちなみに生前も死後も、どちらも含めてだ。

 珍しいなと姿を確認しに行ったアイヴィーは、その姿を見て目を見開いた。


 ――肩まであるピンクブロンドの髪。ダークグリーンの猫目に細い顎。ぎゅっと眉間に皺を寄せた、仏頂面の青年。


『ペンタス?』


 アイヴィーの弟が、そこにいた。


ペンダントを渡す手が震えていたの、知っているよ。

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― 新着の感想 ―
「この二年で一体何があったのか」じゃねえわよ原因が…… 自我があるせいなのか自己評価が低いのか分からないけど、アイヴィーさん自分の死の影響を軽く見てますよね。 弟くん逃げて超逃げて!
>死んで痛みとさよならしたはずなのに、脳内再生余裕で頭が痛い。こんな再現力欲しくなかった。 この畳み掛ける感じ、こうさんらしくて好きです。
弟くん……だめだよ、こんな所に来たらダメだ、逃げて>< 弟までも、は悲しすぎるーーー! いやあ、、、展開がすごいです。
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