47 予想は立てども
「うーむ、確か大事な書類はこの引き出しにまとめていたはず……」
「俺達に見られたら不味いと思うようなのは別の所にあるだろうから、俺は他を探すね」
「ああ、頼んだ。あ、その棚は母上の行動記録だ」
「え、この棚全部……?」
「全部だ」
「重い男ヤバ」
「お前もいつかこうなるんだ!! それはそうと解かんかー!」
センタスが逃げられないように簀巻きにして廊下に放置した息子達は、半壊した親の自室に乗り込み部屋を物色していた。
執務自体はミラノスが手伝うことの方が多いが、ここはセンタスの自室。執務室ではない。
けれど執務室で保管が難しい、秘密の多い書類などは、自室に保管されている。
今回の、テレーザの婚姻に関する詳細も、センタスの自室にまとめてあるだろうとミラノスは予想していた。
諸事情からミラノスはセンタスの自室に入り浸らないが、跡継ぎのオクトスは教育もあり何度か父の部屋を訪れていた。なので、ミラノスより物の配置には詳しい。
よって、重要書類などの保管場所も知っていたのだが、どうやらそこにはないようだ。
(王室と教会からの嘆願書は執務室にあったけど、嘆願書でペルデュラン男爵家は動かない。今までだったら、過去の扱いを盾にのらりくらりと承諾しなかったはず)
それが許されるのかと聞かれたら許されないが、元々仲が悪い。たとえ嫁入りが避けられなくてもごねにごねて男爵家の使用人を複数連れて行く許可をもぎ取るなりしたはずだ。
だというのに、テレーザは一人で嫁ぐ流れになっていた。
(そんな危険な嫁入りがさせられるかって、逃げるテレーザを兄さんと一緒に補助した訳だけど……そんな僅かな間で、クインティーナを嫁がせるのも無理がある)
まるで、何としてもその日に――結婚式のあの日に、間に合わせなければならない事情があるような。
(……他もそうだったのか、アイツに聞かないと)
四人目の花嫁アイヴィーも、周囲の圧力に負けて嫁いだ身だ。
(教会側が花嫁を逃がさない為に、無理のある日程にしているんだろうけど)
本来なら花嫁衣装に時間をかけるものだが、婚約が決まって数ヶ月で婚姻している。一人目と二人目はそれなりに時間を取ったようだが、三人目からは攫うように結婚式だ。
(かといって、本当に攫ったら捕まる。その辺りは侯爵家と相手の家でやりとりがあったはず。勿論男爵家だって、侯爵とやりとりしたはずだし。その書類が執務室では見当たらないから、父上の部屋にきっとある)
そこに、センタスがこんな暴挙に出た理由が書かれている、はずだ。
「ふん……探したところでもう遅い。あの娘はもう嫁いだのだ。もう侯爵家と運命を共にするしかない」
「運命を共に、か。父上はテレーザを嫁がせるつもりだったはず。最愛の娘を、そんな危険な場所にどうしてやれる? テレーザに二度と会えなかったかもしれないんだぞ」
「会えないもなにも、テレーザをどこにやったんだお前達。まさか王都の外か? 裏を掻いて領地に返したのか!?」
「今の父上には教えられないし会わせられない」
「ぐぬぅ……!」
オクトスとセンタスのやりとりが耳に入り、ミラノスは棚の引き出しを物色していた手を止めた。
センタスは、テレーザの行方を知らない。
クインティーナを身代わりに嫁がせた後も、何をするかわからないので伝えていない。
だから行方を気にするのは当然だが――。
(……父上、会えるつもりだったの?)
まるで、侯爵家に嫁いでいた方が、会う機会があったかのような言い方だ。
そもそもテレーザが逃げたのは、ライコア侯爵家に嫁殺しの噂があったからだ。
ほぼ確実な噂を前に生命の危機を覚え、逃亡した。無事では済まさないと感じたからこそ、オクトスもミラノスも協力した。
嫁いでいれば、あのテレーザだ。アイヴィーの早期退場記録を上回っていたかもしれない。
だというのに、センタスは会える気でいたのか。
(まさか父上には、テレーザが殺されない、確証があった?)
もしくは。
(侯爵と、何か契約をしていた?)
娘を生かすために。
そのために、侯爵と何か取引をしていたとしたら。
(テレーザの逃亡は、契約不履行に繋がる)
婚姻だけでも繋がるが、もしそれ以上に、覆せない何かがあったとしたら。
(無理矢理契約を遂行するために、クインティーナを嫁がせた?)
教会側からの圧力があったとて、元から仲が悪いのだ。今更彼らと険悪になった所で何も変わらない。
だからこれは、教会ではない。王家でもない。他に要因がある。
(と思うけど、ひっくり返してもそれらしい書状が見当たらない!)
気を抜けば母親の隠し撮り写真とか父親のストーカー記録などが発掘され、ミラノスの目は死んでいた。見たくない。両親(と言うか父親)の犯罪でしかない記録。
(もしかして証拠になるからって処分していないよね……していたら、それだけ危険な内容ってことになるんだけど。やめてよね、犯罪の片棒を担ぐの)
嫌そうに顔を歪めながら本棚を物色していたミラノスは、ふと視線を上げてぎくりと固まった。
本棚の裏から、ほのかに暗い光を纏った手が、生えていた。
――これが、ミラノスがセンタスの自室に近付かなかった理由。
父の部屋には、彷徨う魂がいた。
気付いたら消えているのがほとんどだけど、いつまでもいる奴もいる。




