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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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36 聖人のならわし


 ライコア侯爵家は、けして裕福な家ではなかった。

 気位だけが高く、無能な侯爵。虚栄心に満ちた、着飾るばかりの夫人。先祖代々繋いできた侯爵家の品位は、ここで潰えるものと思われた。


 しかし神の采配とは不思議なもので、そんな二人から生まれた娘は『聖人』だった。


 それがニリスの姉、プリマ・ライコア侯爵令嬢。

 十歳で聖人と認定された、金の髪に青い目の人形のように愛らしい少女だった。


 聖人を輩出した家には恩恵がある。ライコア侯爵家は多くの免除が許され、資金が与えられた。社会的地位が向上し、今まで落ち目を見ていた侯爵家は一目置かれるようになった。

 降って湧いた幸運に興奮した両親がハッスルした結果、生まれたのがニリスである。

 めでたいことが続いたが、彼らは頭もめでたかった。

 元が階級に相応しくない人間達だったので、すぐ聖人の生家として相応しくない言動を取りだしたのだ。


 教会に対して自分達は神に近しいのだからもっと資金援助をすべきと訴え、信者達にはもっと敬うよう呼びかけた。聖人が誕生したのは自分達の功績なのだから、もっと崇め奉るべきだと訴え続けた。


 もっと。もっと。もっと。


 彼らの欲望に際限はなかった。


 そんな彼らが、聖人の親だからと尊敬されるはずもない。


 聖人の親族として相応しくないと、彼らは領地の端へと追いやられた。散々文句を叫んでいたが、分家が協力して領地に閉じ込めた。

 それからも何度か聞くに堪えない要求を繰り返していたが、今では言い返す言葉もない。起き上がるのも難しい状態だ。


 そして残されたのは、赤子のニリス。

 正真正銘侯爵家の跡継ぎであり、聖人プリマの弟。

 ライコア侯爵家の分家含め、周囲の人間達は、ニリスが両親のようにならぬよう、細心の注意を払って育てた。

 その結果、聖人の姉と過ごすのが信仰心を育てるのに有用だと考えられ、ニリスは幼少期を教会で過ごした。


『確かに私が嫁いだ時から居なかったけれど!!』


 話の途中だがアイヴィーが頭を抱えて叫んだ。

 ニリスが訥々と如何に親が愚かで気持ち悪かったか。教会に如何に助けられたかを語っている最中だが、ニリスに見えない聞こえないアイヴィーはお構いなしだ。


『ライコア侯爵家ってばやけに教会と癒着しているって思っていたけれど、思いっきり介入されているじゃない!! しかも周囲がそれをよしとしちゃっている!? 王家と教会の距離も近いけどそれより近くない!? 教会が聖人の生家を乗っ取っているじゃない!! 今全然従わないのは反抗期なの? 策略だったりするの?』


 教会と前ライコア侯爵が密接で現ライコア侯爵(ニリス)が反抗的だと思っていたが、そのニリスもどっぷり教会に洗脳されていてもわからない位密接だ。

 教会としては、ライコア侯爵家は聖人の生家として、手の内に収めておきたかったのだろう。まさしく今このように。


「十歳差の姉は、私にとって姉であり、母でもあった」


 荒ぶるアイヴィーが見えていないので淡々と話し続けるニリス。

 クインティーナは大変気が散ったが、ニリスの話に引き込まれるのも恐ろしく、視線はあっちこっちへ彷徨っていた。


「だが、私は、姉の顔を見たことがなかった」


 物心つく前から傍にいた姉だが、それでも姉の顔を見たことがなかった。

 それは聖人のしきたりが関係していた。


 聖人は、そうとわかった日から、俗世から切り離される。

 俗世の穢れで神聖さを失わぬよう、目隠しをするのが習わしだった。


 だから、ニリスはプリマが目隠しをしている顔しか見たことがない。


 周囲を信者に守られて、微笑む姉。

 いずれ来たるときのため、人々の悩みに耳を傾け続ける姉。

 幼いニリスの手を、疑いもせず握る姉。


「わたしの可愛いニリス」


 白い手で、ふわふわしたニリスの頬を揉みながら笑うプリマは、ニリスにとって唯一の家族だった。


「決まりは守らないといけないけれど、お前の顔を見られないのが心残りだわ」

「わたしも、姉上のお顔が見られなくてヤです」

「うふふ。でも沢山おしゃべりして、沢山お前を知ることは許されているの。ニリスには世界がどう見えているかしら。わたしに教えてちょうだい」

「わかりました!」

「沢山教えてね。わたしは、神様にこの世界のこと、沢山お話しなくてはならないのだから」


 聖人としてのお役目を誇りに思い、人の話を聞くのが好きな人だった。


「沢山知りたいわ。世界のことも、民のことも、お前のことも」


 悩みを聞いて、神に届ける。

 自身の祈りは神に届いていると信じ、いつも空に祈りを捧げていた。

 目元は見えない。それでも笑っているのがわかる、優しい人だった。

 顔がわからなくても、ニリスを一等大事に扱ってくれた。


 だからニリスは、寂しくても我慢できた。侯爵家の跡取りとして勉強もした。周囲が望むように、聖人の親族に相応しい優秀な侯爵になる為に。


 そう励んでいたニリスが姉の顔を見られたのは、一度きり。


 今から20年前。

 大雨による氾濫で、アイソメトリア国の大部分が被害を受ける水害が発生。

 聖人による、神への陳情が行われるその時に見た――死に顔だけ。


 雨の日に微笑みながら死んだ姉の顔を、ニリスは今も忘れていない。



教会による介入が、聖人の生家だからと許されているねじ曲がった価値観。

語っている最中に聞こえていないからって叫びまくるアイヴィー。

殺人動機についてはこれから触れます。

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― 新着の感想 ―
何が性質悪いってやらせる方もやらされる方もそれが善意だと疑ってなぃっぽいのがね。ニリスに憑いてるのがお姉さん?ガワだけ本人な別物なのか、あるいは蟲毒の法をやったせいでバグった存在なのか気になる・・・て…
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