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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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33/50

33 招く手は黒い


 翌朝、ミラノスとの情報交換を終えて戻って来たアイヴィーから聞いた言葉に、クインティーナは思わず青ざめた。


 クインティーナが聖人と知り、殺害対象から外れた可能性。

 けれど聖人だからこそ、アイヴィーから殺人事件を知らされている……クインティーナにニリスの罪が知らされているのを、知っている可能性。

 ややこしい。


『で、旦那様にはバレているからここはもう開き直って、直接旦那様と話そうと思うの』


 その場合、クインティーナの協力が不可避なのだけれど……そう言ったアイヴィーの顔は、とても心配そうだった。

 クインティーナの顔色は、アイヴィーと同じくらい青ざめていた。

 つまり、死人と同じくらい青い。


『クインティーナ? ちょっと大丈夫? クインティーナァアー!?』


 朝食を届けに来た侍女にも心配されて、今日は寝台で横になる事になった。

 監禁生活で気疲れしたクインティーナを慮ったのか、若い侍女が控え室に下がる。思わず流れで、クインティーナはアイヴィーと交流する機会を得た。


「侯爵は、私が全部知っているとわかっていてあの態度だったのですか……?」

『それも怖いよね。意に介していないあたりがとっても』


 扱いは丁寧になったが、ニリスが今気にしているのは聖人の事実より亡き妻の現状だ。

 言い方はおかしいが、死後のアイヴィーがニリスをどう思っているのか。それを知りたがっている。


「正直にお伝えして、逆上しないとも思えませんが」

『まあ、ふざけるなって思っているしね』


 殺されたのだから当然だ。ここで温かな言葉が出てくると思う方がおかしい。進んで恨み言を聞きたいならもっとおかしい。


『旦那様が、一体私からなんて言われたいのかさっぱりわからないけれど……少しでも情報を聞き出して、ミラノスにパスできたらいいと思うの』

「……ミラノス様は、侯爵様と一緒にいる魂についてなにも仰らなかったのですか?」

『魂について? ミラノスも、そういうのは見たことがないって言っていたけれど?』

「……そうですか」

『どうかしたの?』


 顔色の悪いクインティーナは、寝返りを打って縮こまる。

 すっかり脅えているようだが、気にしているのがニリスではない。いや、ニリスも意味がわからなくて恐怖だが、クインティーナが脅えているのはもっと別のところだった。


『旦那様に取り憑いているの、そんなに怖い奴なの?』


 暫定、アイヴィー以外の前妻。

 髪の色も目の色も変わり果て、誰だかわからない女の魂。


 悍ましいほど邪悪な空気を纏っていたが、彷徨う魂とはそういうものだ。アイヴィーは見た目で驚いたが、クインティーナは見慣れているはず。


 思えば、あの魂がニリスから生えた瞬間、クインティーナはアイヴィーに「ダメ」といった。

 アイヴィーは、その理由が少し気になった。


 クインティーナは祈るように両手を組んで、胎児のように身体を丸めている。


「もしかしたらこれは、ミラノス様も知らないことかもしれません。ミラノス様は、外に出るのを嫌がっておられましたし……私だって、一度しか目にしたことがありません」

『何を?』

「魂が、魂を食べるところを」


 アイヴィーはぎょっとしてクインティーナを覗き込んだ。

 クインティーナはぎゅっと目を瞑って、まるで告解するかのように、切迫した様子で声を絞り出す。


「魂同士は、お互い見えていないように、干渉しません。ですが、ですが……! 中には、魂を食べる魂が、いるのです!」


 クインティーナが見たのは三年前。テレーザと出かけた先でのことだった。


 お気に入りの肉屋で値段交渉をするテレーザの横。そこには、いつも膝を抱えて鬱々としている魂がいた。

 魂は彷徨う。だが、肉体から解放されても尚、大地に縛られる魂は、じっとしていることが多い。肉屋の横にいたのは、そんな魂だった。


 いつもの光景だった。

 肉屋の裏手から、黒い影が伸びてくるまでは。


「一瞬のことで、私も詳細はわかりません。ですが肉屋の裏手から伸びてきた黒い影が、その魂に突き刺さったのは見えました。濁った悲鳴が聞こえて……魂の光を点滅させて、それは動かなくなって……肉屋の裏手に引きずられていったんです。その後、骨を砕くような音がして、別の魂が出てきました」


 それは、人の形をしていなかった。


 顔らしきものは一つなのに対し、複数の人間をぐちゃぐちゃに丸めたような身体をしていた。身体からは複数の手足が飛び出して、まるで毛髪のように揺れている。

 それは悍ましいほど強い輝きを放っていた。夜の闇に蠢くような、黒々とした輝き。

 日中に見るには闇が深すぎて、脂汗が噴き出て止まらない。


 それはテレーザの隣を通過し、クインティーナの背後をねっとり進んだ。

 背後から聞こえたのは、鬱々とした……先程まで座り込んでいた魂の声。


 あの瞬間、あの魂が、あの怪物の一部になったのだと――理解したクインティーナは吐き気を堪えきれず倒れた。


「魂を見て倒れたのは、あれがはじめてです。お嬢様は夏の病と勘違いなさっていましたが、それだけ悍ましい存在でした」

(ごめん。肉屋の存在が強くて危機感が伝わらない)


 深刻な表情のクインティーナに、アイヴィーも深刻な表情で応じた。ただし内容の悍ましさは肉屋でかき消された。

 肉屋に値段交渉する男爵令嬢ってなに。

 ただの我が儘お嬢様の印象が強かったテレーザに一気に会いたくなってしまう。


「私は、見えるだけで魂に詳しいわけではありません。ですが侯爵の背にいた魂は、あの時みた怪物によく似た悍ましさを感じました」


 あれは、魂を食った魂だ。


 そう思ったから、クインティーナはアイヴィーがニリスに近付くのを恐れている。

 近付けば、アイヴィーがあの魂に食われてしまうかもしれないから。


 震えるクインティーナを見つめ、アイヴィーはふわりと浮き上がった。腕を組み、視線を天井に向けて……思った以上に危険かもしれない存在に冷や汗を流す。


(もしかして、旦那様に取り憑いている霊――……歴代の妻全員の可能性、ある?)


 お前も仲間になるんだよぉ。


 なんて言葉が脳裏に浮かび、アイヴィーは自らをぎゅっと抱きしめた。



侍女がシリアスしている前で、肉屋と舌戦を繰り広げていたテレーザ男爵令嬢当時17歳。

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― 新着の感想 ―
お気に入りの肉屋で値段交渉するお嬢様www そんなお嬢様ならきっとちゃんとした良識の範囲での値段交渉してたんだろうな…… そして明かされた共食い霊の存在。アイヴィー、気をつけて!
ニリスに取り憑いてるのは、殺された妻たちのキメラってことですか? 妻の亡霊たちが食い合ってキメラ化してるのも偶然なのかな。とにかくニリスの意図がさっぱりわからないから、生者死者問わず、すべての事象が怪…
たしかに。 昼日中の肉屋の店先だと思うと、とんでもない見た目の化け物が、とんでもない音を発していたのに、どこかコミカル。 恐ろしさが麻痺してしまう、それこそが恐怖。 そして。 何も気づかず肉屋で値段…
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