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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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18 成仏の概念


 そもそも、魂が天へ昇るという宗教観がアイヴィーに合わない。


 前世の記憶があるアイヴィーにとって、青空の向こう側は宇宙だ。昇ったところで神は居ないし、広がるのは無限の銀河。

 幽体でそこまで行けるのかも謎だ。いけたとしても、一人銀河の暗闇に放り出されたら病む自信がある。話し相手がいないのとはベクトルの違う孤独がそこにある。


(前世で小さい頃に聞いた、亡くなった人はお星様になるんだよ~ってのも一時的な誤魔化しだしなぁ)


 悲しいかな。前世の知識が、成仏までの過程を否定する。

 侯爵家の敷地内から出られないというのもあるが、そもそも天に昇ったところで……というのがアイヴィーの感想だ。

 アイヴィーには成仏する為に何をすればいいのかわからなかった。


 しかし、アイソメトリア国では魂は天へ昇るのが通説。

 アイヴィーは、とことんこの世界の宗教観を無視していた。


(いや、幽霊としてのあり方? そもそもあり方に規定はあるの? なんて聞けないし、説明もできないしなぁ~!)


 大変困った。


 一方、ミラノスは聖人だ。当然のようにアイヴィー以外の幽霊も目にしてきた。

 それらが宗教観通りの大地に縛られた彷徨う魂だったので、規格外のアイヴィーがとても怪しく映るのだろう。

 クインティーナの為に協力し合う必要があるが、疑わしい相手ならその限りではない。それこそ聖人のように伝言役(メッセンジャー)になれるのがアイヴィーしかいないのだから、信用できるかどうかは重大な問題だ。


(よく考えなくても、私が他所者だしね!)


 クインティーナとペルデュラン兄弟は旧知の仲。そこに割って入るのがアイヴィーだ。

 彼らからすれば、味方と信じて良いか迷う存在だろう。


(クインティーナは素直に信じてくれたけれど、あれも窮地だから信じるしかないって状態だし)


 それにしたって素直に受け入れられたが、クインティーナはアイヴィーの特異性を全く気にしていない。もしかしたら極限状態だから気付いていないのかもしれない。

 ならばまずは、冷静にアイヴィーを見極めようとするミラノスに応えるべきだ。


『確かに私は飛べるけれど、天に届くまでは飛べないの』


 といっても、わからない事だらけのアイヴィーにできるのは、偽らない事くらいだ。


『なんで光るのかとか、理性的なのかとかは、自分じゃわからないわ。自分以外の幽霊って見た事がないし、違う理由もわからないから、あなたの質問には答えられない』


 アイヴィーには、本当にわからない。

 前世の記憶があっても、生前の記憶や理性があっても、死後どうして生前と同じように振る舞えるのかなどわからない。


(明確に理由があるのかも不明だな。全部前世の記憶があるからとか――実は異世界産の魂だからこっちと適応していない~とかだとしても、解明しようがないもの)


 それこそアイヴィーでは知り得ない事だらけだ。

 そう言ってぷかぷか浮かぶアイヴィーに、ミラノスは相変わらず嫌そうな顔をする。


 胡散臭い。


 それを表情で語られて、アイヴィーは思わず笑った。


『あなたって本当に素直!』


 破顔するアイヴィーにミラノスはきょとんと目を丸くする。

 その表情も隠す素振りのない感情の現れで、アイヴィーはおかしくてたまらなくなった。


『ペルデュラン男爵家の人間って皆そうなの? 嫡男のオクトスも真っ直ぐすぎるし、侍女のクインティーナも素直だし』


 クインティーナを無理矢理嫁がせた男爵が素直とは思えないが、逃げた長女は素直そうだ。潔さを感じる。

 ミラノスには「なに言ってんだこいつ」という顔をされたけれど、アイヴィーの中でペルデュラン男爵家周辺の人間は素直な印象で固まった。もしくは善人。(男爵除く)


『まあとにかく、クインティーナの敵になる気はないから安心してよ。旦那様の暴挙は四人目(ここ)で終わらせなくちゃでしょ?』


 五人目(クインティーナ)を逃がすのと、ニリスの所業を告発するのとでは種類が違う。だが今まで停滞していた何かが動き出すのは確かだ。


『それに旦那様が捕まれば、私も天へ昇れると思う』


 アイヴィーの未練と言えば、きっとそれだろうから。


「……まあ、無念だったろうからあり得ない話でもないかな。色々おかしいけど、天に昇りたいんだよね?」

『(成仏したいのかという意味なら)勿論!』

「じゃあひとまず頼らせて貰うよ。色々おかしいけど……」

『そんなに重ねる事なくない?』


 そんなにおかしいだろうか。

 おかしいんだろうな。


「とにかく、俺達があんたに頼みたいのはクインティーナの安全確保だよ。あんたの死因が偽装されている事から、侯爵だけじゃなくて侯爵家ぐるみの犯行に違いないから」


 相変わらず嫌そうな顔をしながら、ミラノスがアイヴィーを見上げる。

 人と目を合わせるのが嫌と言いながら、ミラノスはアイヴィーをしっかり見上げた。目付きが悪いので、見ているだけなのにまるで睨んでいるようだ。


 多分、睨んでいないのに睨んでいると言われるのも嫌なのだろう。じっと見つめていると目力が怖いと言われた事のあるアイヴィーは共感から頷いた。勿論話も聞いていたので、そちらの意味でも頷いている。


「聞いての通り事故死が多かったから、不用意に近付いてくる使用人に注意して。前例のある階段、水場の近くは特に注意。無理に近付いてくるようなのがいたら、すぐクインティーナに伝えて」

『わかったわ』


 伝える事しかできないので、元気よく警報器の役割を果たさねば。


「あとは……もし侯爵家に魂が潜んでいたら、話しかけなくて良いから何を言っているかだけ確認して」

『話しかけなくて良いの? 本人からの証言なら証拠も集めやすそうだけれど』

「あのさ、何回も言うけどあんたみたいな魂見た事ないんだからね。どいつもこいつも鍋に焦げ付いた汚れみたいに地面にへばりついて呻くばっかりだよ。会話なんてとてもじゃないけどできそうにないから。俯いたら視線が合いそうになるから顔を上げると生きている人間と目が合うから視線のやり場に困るし。ほんとに苦行」

『たとえが庶民的だなぁ……』


 という事は、初対面で浮いていたアイヴィーはクインティーナからするとあり得ない登場だったのか。

 でもってミラノスからすれば、霊を見るのと人と視線を合わせるのが同じくらいの苦行らしい。なんとなく、前世の陰キャの波動を感じるのは気の所為じゃないはずだ。

 ……この世界的に言えば、実家ではなく教会に引きこもる立場なのに。


『……聖人が二人揃いも揃って教会へ行かずにいるなんて、教えに従順な信徒達は思いもしないでしょうね。ところであなたが聖人だってクインティーナは気付いていなかったみたいだけれど、もしかしてオクトスしか知らない事実だったりする? 男爵って実は何も知らなかったりする?』

「……クインティーナはちょっと抜けているから気付かなかっただけで、気心の知れている人なら皆知ってるよ。俺が教会に連れて行かれないまま過ごせるのは、そもそもペルデュラン男爵家に来るのが教会に非協力的な人達だから黙ってくれてるわけだし」

『今なんか重要な情報落とさなかった?』


 つつけば溢れる情報に、アイヴィーは思わず宇宙を背負った。



ミラノスはアイヴィーを信用していなかったので、言っていない事たくさんある。

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