14 まさかの新事実
光ったのはペンダントだった。
稲妻のように感じたのは間違っていなかったようで、ペンダントを持っていたノインは「痛い!」と叫んでペンダントを手放した。取り落とすのではなく、距離をとるように投げ捨てる。
力強く、放物線ではなく直線に投げられたペンダントは狭い部屋を横断し――小さな窓から部屋の外に飛び出した。
『――ちょぉおおおっ!? なんでそうなる!?』
ギャアギャア悲鳴を上げている三人を置いて、アイヴィーは慌てて壁を通り抜け外に出た。
『うわーどうしようどこ飛んでったの? ペンダントちゃんやーい! どーこでーすかーぁあああ!?』
すっかり先程の怒りが引っ込んで、ぐるぐる回転するアイヴィー。
使用人の生活スペースは屋敷の端だ。屋敷を囲む塀のすぐ近くに面していて、窓の外はそう広くない。
なので、ペンダントはすぐに見付かった。
『あったー! 落ちてた! よかった! 見付からなかったらどうしようかと……ああー!?』
地面に転がるペンダントを見付けたアイヴィーが安堵する間もなく、空から飛来した黒い影がペンダントをかっ攫った。
『オイこらー!!』
烏だった。
(光り物だけど! 確かに光り物だったけれど!!)
烏は大空を旋回し、侯爵家の厨房近くに並ぶ木の一つに降り立った。
慌てて追いかけて覗いてみれば、鳥の巣にコレクションされた光り物と一緒にペンダントが鎮座している。
(困ったー!!)
大変な事になった。
『え、どうしよう。どうやってこれを旦那様の部屋の引き出しに戻せば……? 戻せないよね? だって私触れないし。クインティーナに伝えてもあの子は動けないし。動けても木の上だし。お願いできる子も居ないし。そもそもどこの引き出しに入っていたとか知らないし。え、このままペンダント行方不明?』
つまりノインが窃盗してそのまま紛失。
(詰んだ)
アイヴィーではなくノインが詰んだ。
もしかしたら彼女が五人目の被害者かもしれない。
(あ、犯罪者だから被害者ではない……?)
ノインに関しては自業自得なので、庇う気はない。
でもそれは、ノインが裁かれるならの話だ。
『あいつらがマイナに罪を擦ったらどうしよう』
というか恐らく、そうするだろう。
何せ窃盗品が手元から紛失してしまったのだ。マイナの部屋に仕込む事も、気付かれる前に返却する事もできない。
いつ気付かれて、いつ犯人捜しが始まるか怯える日々だ。
(ここで自分から話題にして自爆するなら三下過ぎるけれど……旦那様がいつ紛失に気付くか、よね。というか殺した相手の遺品を所持しているって何? 怖いのだけれど)
殺害した相手の所持品を収集する性癖か?
だとしたら一気に印象が変わる。
『これは、旦那様の部屋に私以外の女物が潜んでいるか調べないと!』
三日三晩枕元に立ったときは、部屋の中を見たが引き出しの奥まで見ていなかった。頭を突っ込めばポケットの中身も確認できるアイヴィーだ。引き出しなら余裕で確認できる。
ペンダントの移動は諦め、ひとまず確認だと飛び出したアイヴィーだが、予想外の妨害に遭った。
『だ、旦那様の部屋に入れない……!』
見えない壁に阻まれた。
『どうして急に? さっきまで移動できたのに!』
ニリスの居る執務室。その近くにある私室へ移動していたアイヴィーは、見えない壁に阻まれて進めなくなっていた。
進もうとすると、静電気のように青白い稲妻が走る。
気付かず移動していたアイヴィーは一度バチンッと弾かれた。痛かった。
『これ、侯爵家の周りを囲う壁と同じ……?』
塀から外に出ようとすれば、見えない壁に阻まれた。何も知らなかった当初は勢いよく飛び出そうとして弾き飛ばされた。
『まさか移動範囲が急に狭くなった? え、嘘でしょどうして?』
慌てて見えない壁に沿って移動する。迷路の壁に手を突いて進むように、ぱちぱち静電気を感じながら進んだ。
検証の結果、ニリスの生活する範囲にいけなくなっていた。ニリスの私室や執務室、書斎の並ぶ仕事ゾーンに立ち入れない。問題ないのはクインティーナの生活する、娯楽室などがある日常スペース。
そして、使用人側の塀の向こう側。
『どうして!?』
今まで一歩も塀の外に出られなかったのにあっさり塀を突き抜けた瞬間、アイヴィーは宇宙を背負った。
使用人側の、業者とやりとりする門付近から三百メートルほど進む事ができた。
『どうして……?』
何故急に行動範囲が変わったのか。
ふらふら侯爵家に戻って来たアイヴィーは、簡単な見張りもできなくなった事実に衝撃を受けていた。侯爵家が庭状態だったのに、強制的に進入不可領域ができるなんて。
『まさか私が旦那様の部屋を漁ろうとしたから? でも今までだって、漁ってはいなかったけれど調べはしていたし……三日三晩貼り付いていたし、何か他に理由が……』
ふわふわ浮きながら考える。数分前に入れた場所に入れなくなった理由。この短い期間で、どんな変化があったかを。
唸りながら顔を上げたアイヴィーの視界の端で、木々の間からキラリと太陽の光が反射した。
烏の巣に鎮座する、アイヴィーのペンダント。
アイヴィーの遺品。
アイヴィーの。
『……え、あれ? もしかして、そういう?』
じっくり考えてある事を悟り、アイヴィーは盛大に戸惑った。
幽霊初心者のアイヴィー。
実は殺害現場に縛られた地縛霊ではなく、遺品に取り憑いた、憑依霊だったらしい。
突然の疾走感。




