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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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107/112

107 根本的に違うモノ


(嘘やん)


 腐った部分が剥がれ落ちたら、つるりと綺麗な青が現れた。

 まるで曇天の空、分厚い雲の裂け目から覗く青空のような青い目。

 晴れた空から落ちる雨は、まるで天気雨。アイヴィーの脳裏を狐の嫁入りが過った。

 というのも、綺麗になったのは目元だけ。それの形は相変わらず引き延ばされたように細長く、性別も今ひとつわからないままだ。


 しかしアイヴィーの直感は、目元から女性と判断した。

 多分、恐らくきっと。


(……というか今何が起こったの? なんでいきなり泣いて、腐ったみたいになっていた部分が剥がれ落ちたの? でもって剥がれ落ちたのどこ行った?)


 ボロボロ落ちた淀んだ何かは地面に吸い込まれて消えてしまった。

 不意に、アイヴィーが掴んだままだった細長い指が、くっと曲がる。

 恐らくだが、手を握る動作だった。


『オマエ……お前、違う。私達と、根本的に違う』

『ちょ、待てよ』


 さすがのアイヴィーも今回はふざけたわけではないが、咄嗟に言葉が突っかかってしまった。皆さんかつての名作をご存じですか。アイヴィーはネタとしての台詞しか知らない。


 なんて現実逃避はいけない。アイヴィーは思わずぎゅっと相手の指を握りしめ、深呼吸をした。


『突然しゃべりが流暢になってない?』

『それはお前が、私に蓄積された穢れを、洗い流したから』

『あれって穢れなの!? 私何もしてないけれど!?』


 ちょいっと触っただけである。そして今も握り続けているが、これ以上黒い部分は剥がれそうにない。

 アイヴィーと手を繋いだ指先を見て、青い目が切なげに細められる。


『お前は何も知らないのだね。穢れが一つもないなんて、まるで生まれたての子供みたいだ』

『ええ……確かに死後二年経ってから幽霊を自覚した、幽霊数ヶ月の新米だけど……』

『……死後二年……? お前が?』


 青い目が見開かれ、アイヴィーを凝視する。グッと首が伸ばされて、額がくっつきそうな距離まで近付いた。


『二年……それも、最近自覚したと?』

『気付いたら死んでから二年経っていたの。それからまだ三ヶ月くらいかな?』


 そう、クインティーナが嫁いでくる数ヶ月前に幽霊として目覚めたので、アイヴィーの幽霊生活は左程長くない。だから知らないことだらけだし、自分が憑依霊であることも知らなかった。


 これは憑依先のペンダントがアイヴィーの近付けないニリスの私室で大事にしまわれていたことも原因だ。

 今となっては、ニリスにぞわぞわしていたのか、悪霊にぞわぞわしていたのかわからない。


『そうだね、お前は、なんだかふわふわしているし……きっと、そういうこともある』

『確かに浮いているけれども』

『そういうことではないよ……いや、それもあるのか? お前は、ずっとそうだ』

『そう、って?』

『とても、軽い』


 アイヴィーは首を傾げた。

 初対面で軽いとディスられる程、自分の言動は軽いのだろうかと。


 アイヴィーの猫目を覗き込むように見下ろす青い瞳は、そんな彼女の思考を読んだように目を細めた。


『お前はね、軽いよ。世界に対して、環境に対して、人に対して、自分に対して、とても軽い。ふわふわしていて、肉体と魂が、魂と世界の重さが、まったく釣り合っていない』

『んー??』


 やっぱりディスられているのだろうか。アイヴィーはどう反応すべきか迷った。


『情はあるのに、独り善がりだ。惹き付ける癖に、省みない。それなのに相手をまず受け入れる。お前なりの愛で包み込む』


 そう言って、長い指がさらに折れ曲がる。くるりとアイヴィーの手が一本の指で包まれて、輪に手を通しているような気分になった。


『愛に包まれたモノはお前に惹かれるのに……受け入れる癖に手を取らないお前に溺れていく。溺れる相手をお前は見ない。そういうものだと納得して見ているだけだ』

『ちょっとよくわかりませんね……?』


 アイヴィーは本気で首を傾げた。

 だってそんな、無垢な悪女のような所業をしているつもりはない。


『お前が何か、わからない。でも、私達と根本的に違う。ズレが大きくて、それを知っているから、お前は私達と違う』


 伸びた首が、徐々に戻る。定位置のようにすみっこで位置調整する様子に、アイヴィーは問い返した。


『じゃあ、あなたは何?』


 アイヴィーに伸ばしている以外の手足を縮こめて、隅に鎮座する魂は、すんなりと答えた。


『私は、かつてペルデュラン男爵家に生まれ、偽物と呼ばれたモノ』


 その言葉に、アイヴィーは目を見開く。


『天に昇れなかった、役立たずの聖人だ』


 そう言った魂の青い目に、ゆらりと黒い陰りが滲んだ気がした。



ちょっと短めですが区切りが良いのでここで。


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― 新着の感想 ―
聖人さん(仮)、ほんのちょっと見て触れただけでアイヴィーさんの事めっちゃ理解してるじゃん…… ズレが無ければアイヴィーさんは無垢な悪女では無かったんだろうか、と思ってみたものの、軽くないアイヴィーさん…
ちょっ、、、もしかして、今まで殺されて……もとい、聖人として天へ上げられた人たちって、あのおねーさんも含めて、、、天へ上がってなくて幽霊になってる可能性ーーー!? そうか、そもそも、現世の教会が定義す…
ちょ 何を言い出すんだと引っかかったら、アイヴィーも盛大につっかえてました。 私もミームとしてしか存じ上げません。リアルタイムで観れてたはずだけど。 アイヴィーは、軽いんじゃなくて軽やかなんだよ。 …
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