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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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104/112

104 魂の記憶は留まらない


(これは夢)


 ……青い炎が燃える。異臭を嗅ぎ取った瞬間、肺が苦しくなり藻掻くように地面に倒れた。すぐ傍にいた男性も口を、喉を押さえて倒れ込む。


 最初は小さな火だった。ボヤ騒ぎですぐ消せる程度の火。けれど部屋を満たす煙が、廊下に漏れていく煙が、一人、また一人と命を刈り取っていく。


 火はどんどん範囲を広げていった。青ではなく赤い炎が広がってゆく。しかし不幸なことに、その部屋にはまだ青い炎の原料が眠っていた。


 彼らのいた執事長室。そこには地下から採取した毒が、振り分けるために小分けにされていた。


(これは夢)


 その毒に、赤い炎が引火して、青く染まる。


 青い炎から白い煙が立ち上り、侯爵家は火に気付く前に、煙で死者を増やしていく。


 侯爵家の使用人達は、火が屋敷を包む頃には、煙で誰もが動けなくなっていた。


 煙に含まれる毒素で、逃げる間もなく死んでいく。


 気付けば、その煙に体が巻き上げられていた。


 地上から足が離れる恐怖に必死に藻掻いた。藻掻いて藻掻いて……煙の向こう側に、光を見る。


(これは、夢)


 光だった。

 必死に手を伸ばした。

 その光の名を私は知っていた。


(これ、は)


 ア(・)タ(・)シ(・)は(・)、(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。


『アイヴィー様……!』


 光が、アイヴィーが手を伸ばしてくれる。アタシの手を取ろうと近付いてくる。だけど……届かないとわかっていた。

 それでも手を伸ばし続ける。届かないとわかっていても、手を伸ばし続けた。


 届かないとわかっていた。

 だってアタシは、マ(・)イ(・)ナ(・)は、


 ――ヒトゴロシダカラ――


 ごうっと風が強くなり、マイナの魂は天へと吹き上げられる。


 煙に乗って天高く舞い上がり、マイナは悲鳴を上げた。

 だってわかっている。煙に巻き上げられた魂達は、自分がどうなるのか本能で知っていた。自分の罪を知っている魂達は、そうなるとわかっていた。


 煙に乗って高く飛んだ魂は……煙が薄れた瞬間、地面へと真っ逆さまに落ちていく。


 悲鳴が上がる。

 悲鳴を上げる。

 煙に乗ったときは軽かった魂は、煙から外れた途端に重量を増して地面へと墜落していく。


 怖い。

 嫌だ。

 大地は怖い。

 大地は無だ。


 全てを呑み込む、大地は怖い……!


 風圧で、肉が削げ落ちていく気がした。魂なのに、肉体があるかのように重かった。その肉がバラバラにちぎれていくのに、重さは増して行くばかりだった。


 罪深き魂達が大地に叩き付けられる。

 肉体などないはずなのに、肉体が損傷する激しい痛みが魂を突き抜ける。

 骨が曲がり、体がひしゃげ、生前の面影などどこにもなくっていた。


『アァア……ヴヴヴ……!』


 唸り声を上げて、大地を這いずる。煙に乗って飛ばされた魂達は、まったく知らない場所にいた。

 いいや、地面しか見えないから、どこにいるのかわからない。

 近いのか遠いのか、それさえもわからない。


 わからない。

 なにも。

 行きたい場所があるのに、何処に行けばいいのかわからない。


 自分が何者かも、何を求めていたのかも。

 削げ落ちた肉と一緒に落としてしまった。


 足りない。

 自分が足りない。


『ア――――ッ!!』


 悲痛な声は悍ましいノイズに満ちている。

 大地を引っ掻きながら、這いずりながら、それでも魂はそれぞれの場所を目指して進んだ。

 何を求めているかもわからないのに、何かを目指して這いずった。


 ――だから、この世界では、遺体を燃やしてはならないのだ。


 余程の罪人でもない限り、燃やしてはならない。


『アィヴィ……ァア――――ッ!』


 こんなにも悍ましい魂を、生んでしまうから。










 ぱち、とクインティーナは目を開けた。

 夜明けと同時、使用人らしい起床時間だった。

 二度寝と無縁な彼女はそのまま身を起こし……悲痛な悲鳴が耳に残っている気がして、不思議そうに耳を押さえた。


「なんだか、恐ろしい夢を見た、ような……?」


 ――夢の記憶を、彼女は持たない。


 だって所詮、夢だから。

 大地を彷徨う魂となった誰かの記憶など、何一つ残っていなかった。



通りすがりの残留思念。

予想した方いましたね。正解です。落ちてきましたよ!

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― 新着の感想 ―
彼等はあのあと落ちてしまったんですねぇ…… マイナは自分が何者なのかも分からず大地のどこか彷徨う罪人達の一人になってしまったんだなぁ……はじまりはアイヴィーさんへの想いだったのに、悲しい最期でしたね。…
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