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ナノライト  作者: かざぐるま
第四章 Rise and Fall.
31/57

第二十九話 改革

 



『――んじゃまぁ、それぞれの師匠決めてぃこうかぁ。

 弓術、剣術、体術、槍術、投擲術…なんでもぃぃぜ?

 全員、自分が伸ばしたぃ分野を教ぇてくれなぁ。

 あぁ、勿論妖術も歓迎さ、属性も指定してなぁ。』


 そう言葉を紡いだオオラモ。

 すると、紺糸メンバーから続々と声が上がった。


「じゃあぼく『雷』の弓で!」

『ならあいつに教わりなぁ?』


「…あー、両手剣で頼むわ。」

『あぃよ、あそこの骸骨んとこ行きなぁ。」


「はい! はい! 俺『火』!」

『元気だなぁ。ぁの亡骸(ゾンビ)をぉすすめするぜ。』



 ふと、横に居たリエルに裾を引っ張られた。


「ねーヒシさん、私も行くべきかな?」

「…幻妖と闘う意思があるのであれば。」

「――じゃあ、行ってくる!」

「!」


 リエルは軽い足取りでオオラモの元に寄って行った。

 要は、彼女も戦闘に参加するという意味だろう。

 止める気は無い。それが彼女の意思なのだから。

 俺に許されているのは、危ない時に助けることだけだ。


 オオラモの元に辿り着いたリエルが、何かを相談している。


「――、―――。」

『―――……、――――。』

「―――――?」

『――――――。』


 しかし、交渉が上手く進まなかったのだろうか。

 数回の会話の後、彼女は何故か首を傾げた。


 どうしたのか、――聞こうと思った時、リエルの相談相手であるオオラモから声を掛けられた。


『えぇっとぉ? ――ヒシ、ミドル、ロット。

 それと、リエルだなぁ。この四人はもぅ師匠を決めてあるから、後から俺のとこに来てくれよなぁ。』


 ……ふむ、なるほど。



 ◇



『ぃやあ、勝手なことして悪いなぁ。』

「大丈夫です。…けど、なんでこの四人なんですか?」


 素朴な疑問をオオラモにぶつけてみる。

 すると、彼は軽く笑って答えてくれた。


『この四人はちと特殊だからなぁ。

 普通の修行じゃ足りねぇだろぅしなぁ?』

「…特別スパルタコースって認識であってます?」

『あぁ、それで大丈夫だなぁ。』


 出来れば間違っていて欲しかったが。


「急に不安になってきたなー…。」

『 Pyui? 』

『リエルは精霊持ちだからなぁ。

 『癒』以外は使ぇなぃだろ?

 大丈夫、こっちにはそれ専門の奴も居るからなぁ。』


 今移動しているのは、その師匠の元に行くためだろう。


 それにしても、リエルはもう『癒』しか使えないのか。

 俺も『光』しか使えずに苦労した人間だが、使える妖術が『癒』のみという不便さは俺のものを遥かに上回るだろう。

 …そういえば、『癒』だけで戦闘って出来るのか?



「それでよう、オオラモ。ロットとヒシが連れてこられたのは純粋に強ぇからだろうけど、なんで俺まで呼び出し食らったんだ? こん中だと俺一人だけ浮いてねぇか?」

『ミドルは…うぅん、()()()だなぁ。』

「またそれかよ! つーか俺の師匠は誰なんだよ?」

『あぁ、それも()だなぁ。』

「うひゃぁぁ!!」

『ははぁっ、嬉しそぅで何より。』


 どちらかと言えば嫌がっている絶叫だったが…。

 本人がそれでいいなら大丈夫か。



「おれは?」

『ロットは更に特別コース行きさぁ。』

「うん、いちばんつよいひとがいいけど。」

『おぉ、じゃあ要望通りかもなぁ。』

「ほんと?」


『ロットの師匠は、全亡骸(ゾンビ)だなぁ。』


「…よく、わかんない。」

『奇襲でも、正面戦闘でもいぃからな。

 好きなだけ俺達に挑んできなぁ?

 勿論妖術,短剣も使い放題、俺達は死ななぃからなぁ。』

「じっせんくんれん、ってこと?」

『本気でぶつかって、体で学びなぁ。

 多分、ロットはそれが一番伸びるだろぅ?』


「…ほんきでやるよ?」

『あぁ、分かったら早速行ってきなぁ。』


 相変わらずの無表情で、けれど少しだけ喜色を浮かばせながら。亡骸(ゾンビ)を狩る為、ロットは来た道を素早く引き返して行った。



 後は、俺か。

 どういう師匠だろうか。

 片手剣…、もしくは『光』の達人とか?

 だとしたら新しい『光』の使い方も見つかるかもしれない。



『ヒシの師匠は、――あそこだなぁ。』



 オオラモが指を差したのは、空だった。

 いや、正確には崩れかけた廃墟の屋上。

 そこに、一つの人影があった。



 ◇



 『光』を駆使し、駆け上がってきた屋上。

 俺の師匠となってくれるその人は、どこか遠くを視ていた。

 身に着けているのは古ぼけた灰色の布切れ。

 破れかけのフードが風に揺られている。

 時々見え隠れする指や頭などは真っ白で、この人も全身が白骨の亡骸(ゾンビ)なのだということが察せられた。


「初めまして、ヒシっていいます。

 俺の師匠になってくれるって聞いたんですけど…。」

『………………。』


 その亡骸(ゾンビ)は、ゆっくりとこちらに振り返った。

 …不思議なオーラだ。懐かしくて、柔らかい。



「あなたの名前は?」


『―――クロスだ。よろしく。』



 あぁ、分かった。――似ているんだ、爺ちゃんに。




 ---




 ヒシが師匠に逢ってから十数分。

 オオラモは足を止めることなく道を突き進んでいた。


『リエル、一つ教ぇてもらってもいいか?

 その子――キュペとはどこで会ったんだぁ?』

『 Pyuii? 』

『あぁ、純粋な疑問でなぁ。』


「チフリズ湖、って分か…ります?」

『っはは、無理に敬語じゃなくてもいぃぜ?』

「…うん。チフリズ湖でたまたま見つけたよ。」

『んん、ぁそこには水の精霊が居なかったかぁ?』

「おぅよ、今もしっかり健在だったぜ!」

『だよなぁ、他の精霊の反応は無かったけども…。』


「最近の大雪はキュペが原因だねー。」

『 Pyui!? P,pyuii… 』

「あ、責めてないよ!? だいじょぶだからね。」

『 Pyuiii…♪ 』

『なるほどなぁ…、』


 反省したようにしょぼくれるキュペ。

 それを見て、オオラモは気難しそうに唸った。


『リエルの師匠なんだがなぁ?

 ちょっと独特な奴だから、仲良くしてやってなぁ。』

『 Pyui! 』

『まぁ、会ってみりゃ分かるかぁ。』


 オオラモは歩みを止め、苦い顔を上げる。

 それに連られるようにリエルとミドルも正面を見つめた。


 彼らの視線の先に在るのは地面に散らばった大量の妖石。

 色も形も多種多様で、数は数えきれない。

 間違いなく人為的に集められたものだった。


 そうして山積みになった妖石の上で寝そべっているのは、一匹の亡骸(ゾンビ)だった。

 他個体の例に漏れず肌は青白く染まっており、干乾びた大地のようにひび割れた箇所からは薄白い骨が覗き見られる。

 身長は小さめ、中性的な体つき。

 仰向けに寝ている為、顔の細部は確認出来ない。

 髪の毛は比較的残っており、生前の姿をぼんやりと推測出来るようだった。


 他の特筆すべき点と言えば、豪快にいびきをかいていることだろうか。


『――ぐごぉぉぉぉお、ぶぼぉぉぉぉぉお。』

「「『 …………。 』」」


 諦めの境地に立ったようなオオラモの表情。

 それが示すのは"いつものこと"という事実だった。


 オオラモは足元に転がっていた妖石を掴み、


 その亡骸(ゾンビ)に向けて容赦なく()()()()した。


『ぐごぉぉぉおおぉぉい"て"え"ぇ"ぇぇ!?!?!?』

『ケタイ、仕事の時間だぞぉ。はよぅ起きろぉ?』


 『ケタイ』と呼ばれたその亡骸(ゾンビ)は、しかめた顔をゆっくりと上げた。


『んああ"? ん、オオラモ。やっほ~。』

『随分なロングスリーパーだなぁ。』

『良い天気だよ、そりゃ寝たくもなるさ~。』


 呆れた顔のオオラモを横目に、ケタイは再び大欠伸をかましている。この一幕だけで彼の人物像がはっきり現れているだろう。


 その後、気持ちよさそうに鼻唄を歌い始めたケタイ。

 しかしリエルの姿を見た瞬間、その顔から笑顔が消える。


『~~♪ …ん?』

「…! どうか、しました?」

『君、だれ?』

「…リエルです。あの、」

『その手にいるペンギンちゃんは?』

「この子はキュペって名前で、」


 リエルの返答を待たず、彼女に接近するケタイ。

 彼はそのまま有無を言わさずに、キュペを奪い取った。


「!」

『 …Pyui…? 』


 ケタイは反抗しかけたリエルを手で制す。


『…う~ん。君、精霊?』

『 Pyui! 』

『そっか~、属性は『癒』だよね?』

『 Pyuii♪ 』

『やっぱり~? …そっかぁ~。』

『 ……Pi? 』


 ニコニコと笑うケタイ。

 彼はその笑顔を崩すことなく、簡潔に述べた。


『キュペ~、わたしの物にならない?』

『 …Pyuii? 』


 戸惑いながらも、首を横に振り否定するキュペ。

 ケタイはそれを見て、悲しそうに溜息を吐いた。


『だよねぇ~…、…やっと会えたのになぁ。

 ほんとに、今まで何処に居たんだか…。』


 嘆くような、泣き入りそうな独り言。

 それを一通り吐き出して満足したのか、ケタイはキュペを丁寧に抱きしめ、すんなりとリエルの腕の中に返却した。


『はい、リエル。』

「あ…、…ありがとう…?」

『お礼なんか要らないし、むしろ怒ってよ~。

 敬語も無しね。わたし敬語って嫌いなんだ~。』


 元の調子を取り戻したように、ケタイは無邪気に笑う。


『それで、オオラモ。なんの用さ?』

『リエルに『癒』を教ぇてくれ、って話でなぁ。』

『ほ~ん、勿論いいよ~。』


 一切悩む様子を見せず即答したケタイは、リエルに自身の細い右腕を差し出した。


『二週間だっけ? よろしくね~、リエル。』

「…うん! よろしく、ケタイさん!」


 こうしてまた一組の師弟が完成した。



 ……さて、死した者達との邂逅。

 どういった方向に転ぶか、――期待が高まる。



 ◆



 止まることを知らず、延々と響き続ける金属音。

 それは一本の長剣と二本の片手剣が激しくかちあうことによって生じていた。


 弛みの無い動きで長剣を操るのは一匹の亡骸(ゾンビ)

 巧みに短剣を使いこなすのは紺髪の小柄な少年だった。


 お互い、一歩も譲らぬ激戦。

 しかし、全ての物事はきっかけ一つで終わりを迎える。


『―――――お!?!?』


 突然、足を踏み外したようによろめく亡骸(ゾンビ)

 原因は地面に撒かれた水分量の多い泥だった。


 予てよりその機会を待ち望んでいた少年は、


 瞬時に双方の短剣へ『雷』の妖術を流し込み、


 回避行動を取れぬ亡骸(ゾンビ)の腹部へ深く差し込んだ。


『……ははっはっ……お見事!!!』


 直後、亡骸(ゾンビ)の全身に致死量の電圧が掛かり…。


 …その亡骸(ゾンビ)は何事も無く立ち上がった。



『期待以上じゃわ、紺の少年!』

「つきあってくれてありがと。」

『へははっ! んなこと言わんでえぇわ!

 いつでも掛かって来なさい、遠慮せずにな!』

「うん、またね。」


 ロットは新たな獲物を探して走り去って行った。

 残されたのは一匹の亡骸(ゾンビ)と、推定十数キログラムはある岩を抱えて直立する一人の男性のみ。


『さて、長いこと待たせちったな。』

「…そろそろ、降ろ、して、いいか…?」

『何言うてんじゃい! 修業はこっからじゃわ!』

「…りーだあぁ…、俺、アンタ、恨むよ…、』


 悲痛な声が廃街の空を反響した。



 ◆



「――修行って何すんだ?

 俺得意な妖術とかも特にねぇけどよ。」

『おぅ、もうすることは決めてぁる。』

「お、期待してるぜ!

 俺はそんな頭よくねぇから出来れば簡単な感じで頼む!」

『っはは、その要望には応えられねぇかもなぁ。』


 場所はリエルとケタイの位置から少し離れた広場。

 オオラモとミドルの修行が始まろうとしていた。


『ミドルに覚ぇてもらぅのは、『封』の妖術だ。

 それともう一つ、『無』の妖術も同時進行でなぁ。』


 ミドルが怪訝そうな顔をオオラモに向ける。


「なんか、地味な属性の二大巨頭じゃねぇか?」

『いぃや、奥深い属性の二大巨頭だなぁ。』

「物は言いようってな!」


 ケタケタ笑うミドル。

 それに対し、オオラモは小さく微笑んだ。


『まぁ、観てもらった方が早ぇよなぁ?』


 オオラモがポケットから取り出したのは一欠片の妖石。

 恐らくケタイの元から盗み出したものだろう。


『ミドル、『封』って何だと思ぅ?』

「あ? なんか封印するみたいなイメージしかねぇな!」

『ははぁっ、まだ浅すぎるなぁ。』

「んなこと言われても、考えたことすらねぇぜ。」


 ミドルは子供のように口を尖らせた。


『『封』は"後退させる力"。

 物事を本来とは逆方向に押し留める術だなぁ。』


「…さっぱり分からん!」

『おぃおぃ、まだ序章だぜ?』


 頭頂部に疑問符を浮かばせたミドルをよそに、オオラモは更に語り始める。


『次、"妖力孔"ってぃう概念を教ぇる。』

「『封』の説明もう終わりかよ!」


 突っ込みには安定のスルー。


『妖力…、これにつぃては未だに謎が多すぎる。

 が、俺達の研究で一つの事実が判明してなぁ?

 一口に"妖力"と言っても、二種類の物が存在するのさ。』


『一つは、俺達生物が吸収出来る妖力。

 もう一つが、生物が吐き出した妖力。』


『この二つは全く別々の性質でなぁ。

 生物が一度放出した妖力は、もぅ二度と吸収出来なぃのさぁ。…精霊は例外だけどなぁ?』


 最後に付け加えられた言葉を不審がるように眉をひそめたミドルだったが、特に指摘をするつもりは無いようだった。


「妖力を放出って、妖術のことか??」

『あぁ、それと"妖力孔"を介した放出だなぁ。』

「出た出た、その意味分かんねぇやつ。」


『妖力ってのは常に流れてるんだ。

 物質を循環したり、流れ入ったり出たり、なぁ?

 その時に、外部との交流を行ぅ"門"の役割を担ってぃるのが、妖力孔って訳さぁ。』


「…それって、意識しなくても勝手に放出されてんのか?

 寝てる間とか、非戦闘時にもってことだろ?」

『当然、一種の"呼吸"って考ぇて欲しぃなぁ。

 その分を補充するよぅに新しぃ妖力が入ってくるぜ?」

「ほーん、んだよ意外と面白れぇ話じゃねぇか!」


 無邪気な笑顔を見せるミドル。

 彼自身、熟練の游蕩士だ。妖力と関わってきた時間は常人よりも遥かに多いだろう。経験的に、感覚で理解できる部分が多かったのかもしれない。


『一旦整理するなぁ?

 『封』は自然な流れを妨げる妖術。

 妖力孔ってのは妖力を出入りさせる穴のことだったなぁ』


『ミドル、妖力の自然,健全な流れって何だと思ぅ?』

「そりゃ妖力孔から出入りすることだろ??」

『そぅだな。だから、それを『封』で止めてやるのさぁ。』


 オオラモの手に有る妖石が光り輝き始める。

 色は灰色――『封』特有の鈍い発光だった。



『――妖力孔の排出機能を封じるのさぁ。

 流れを妨げ、体の内部に妖力を閉じ込めるよぅになぁ?』


「―――おいおい…、マジかよ…!!!」



 ――オオラモの持つ妖力量が、()()()()()()()()



 ◇



『『癒』は"進行させる力"ね。

 だから、妖力孔の吸入機能を促進させるの~。

 流れ入ってくる妖力量を増大させるためにね?』


 ケタイの手に有る妖石が光り輝き始める。

 色は桃色――『癒』特有の柔らかな発光だった。


「―――!」

『けははっ、感じれた?』

「うん、凄い…威圧感みたいな。」

『そうそう、それが妖力を感知するってこと~。』


 拍手をしてリエルを賞賛するケタイ。


『じゃあ、早速次の話に行くね~?

 ここまではリエルもすぐに出来るようになるんだけど、君には一つだけ問題点があってね。

 使える妖術が限られ過ぎてるのさ~。』


「…あ、キュペと契約したから?」

『正解~、その原理も説明しようか。』



 ケタイは近くにあった手頃な器を二つ運び、その片方に無色透明な水を注ぎ込んだ。


『こっちの器がリエルの妖力槽ね。

 中の水は保有している妖力だと思って~。』


 次に、もう一つの器で適量の水を掬いあげたケタイ。


『こうやって水を掬って、着色をするの。』


 彼は掬い上げた方の器に一滴のインクを垂らした。

 すると、中に入った水がみるみるうちに鮮やかな赤へと染まっていく。


 ケタイは近くの妖石に色水を振りかけた。

 妖石に妖力を注ぐ様子を表現しているのだろう。


『これで属性付きの妖術が使えるってこと。

 普段リエルは無意識にやってると思うけどね~。』


 話について来ているか確認するように、リエルへ視線を飛ばしたケタイ。そんな彼に対し、リエルは元気良く数回頷いて見せた。



『ただし、精霊と契約した場合~。――こうなる。』


 直後、ケタイが持っていた器そのものが桃色に染まった。

 彼がそれを用いて透き通った水を掬ってみせると、掬われた水はインクを垂らすまでも無く鮮やかに色づいた。


「!」

『ね、分かったでしょ?

 それくらい精霊ってのは強力なの~。』

「これが私の状態ってこと?」

『そうそう、属性が限定されちゃってるの。』


 しかし、リエルは小さく首を傾げた。


「…でも、化物だと最初から使える属性が限定されてるよねー。あれはどういう原理なの?」

『あ~、彼らは生まれつき持ってるインクの種類が少ないからね。器の色がどうのこうのとかじゃなくて、初めから制限が掛かってるって感じかな~。』

「……そうなんだ。」


 何かを理解したように呟くリエル。

 きっと彼女の頭には一人の青年が浮かんでいることだろう。


 ケタイは再び大きい方の水槽へ眼を向けた。


『それでね、リエルは『癒』を使ってこっちの水を増やせるんだけど…、肝心の妖術が限られてる訳さ~。『火』や『雷』みたいな、攻撃特化の妖術を使えないからね~。』


「…? じゃあどうしたらいいの?」


『だから~、()()()()使()()()。』


 トントンと、大きな水槽の縁を叩くケタイ。

 それを見てもリエルはあまりピンと来ていない様子だった。


「……?」

『わたしがリエルに教えるのは『無』さ~。』

「『無』…? けど、他の属性は使えないって…。」

『そう、これが『無』の面白い点ね~。

 『無』の時は、こっちを、こうやって…、ふぬぅ!』

「……け、ケタイさん?」


 困惑した声を出すリエル。

 それに構うことなく、ケタイは巨大な水槽を()()()()()

 彼は水槽を慎重に傾け、地面に置かれた妖石にちょろちょろと透明な水を注いでいく。


「……何をして…?」

『ふ"ん"ぬ"うぅぅ!! うぉぉ"ら"あぁ!!!』

「………………。」

『 Pyuii? 』

『…あ"ぁー、…よいしょっ、重た~!』


 リエルはキュペの眼を手の平で覆った。

 まるで"教育に悪い"とでも言いたげに。


『…分かった~? こういうこと。』

「ごめん、分かんない…。分かりたくない…。」

『え、ドン引きじゃん~?』


 ケタイはぽりぽりと頭を掻いた。

 彼にとってもその反応は想定外だったのだろう。

 常人ならばどうしたってその反応になると思うが。


『えぇ~と、つまりね。

 『癒』に染まった器を使わなければいいの~。』

「…あ、そういうことか。

 けど、あんな大変なことしなくてもー…。」

『いや~? 『無』は実際あんな感じだよ。』

「え、そうなの?」

『うん、仕方の無いことなんだけどね~。』


 ケタイは地面にがりがりと大きな円を描いた。


『そもそもね、『無』って何だと思う~?』

「属性が無いから『無』?」

『うん、大体はそうだね。

 …これはわたしの研究なんだけど、全ての妖術は元々『無』だったはずなんだ~。』

「すべて…?」


 頷くケタイ。


『この円が『無』ね~?

 ――その中に、グループが出来るの。』


 赤のインクで小さな円が描かれる。


『燃え盛るような妖術――『火』だね~。

 すると、『火』以外の妖術が『無』になる訳~。

 ――しばらくしてまた一つ、グループが出来た。』


 青のインクで小さな円が描かれる。


『清らかで涼し気な妖術――『水』。

 次は『火』と『水』以外の箇所が『無』だね~。

 ――こんなことが幾度となく繰り返されるの~。』


 描かれたのは小さな緑の円。

 その次は橙色、その次は茶色、その次は緋色、―――。

 最終的に十二色の円が現れ、『無』の円の大部分を占めるに至った。


『これで残った箇所が、今の『無』ってこと~。

 淡泊に表現しちゃうと、所謂"その他"ってやつ。』


「…けど、大変ってのはどういうこと?」

『リエルも妖術を使う前に、どんな妖術にするか頭の中でイメージを作るでしょ~?』

「うん、じゃないと使えないからねー。」


『グループ化された他の属性はね、イメージがしやすいの。"火を創る"とか"水を創る"とか、具体化されてて分かりやすいでしょ?

 けど、『無』をイメージしろって言われたって…、正直意味が分かんないじゃん~?』


 おどけた調子で両手を広げたケタイが笑う。


『舗装された道と凸凹の山道。

 どっちを通るのが楽かって話だよね~。』

「…すごい腑に落ちたかも。」

『お、それは良かった~。

 じゃあリエルには修羅の道を進んでもらうから~。』

「……なんで嬉しそうなのー?」

『っけははは、気のせい気のせい~!』


 ケタイは再び妖石を一つ拾い上げた。

 …その妖石は、白い輝きを放ち始める。



『まだ名前が付いてないからね~。

 敢えて命名するなら~…、―――"鎧"。』



 ◇



『ミドル、よく見てなぁ?

 お前に覚ぇてもらぅのは、―――"波"。』




 ---




「――クロスさん、何をするんですか?」

『オオラモから、『光』を教えてくれと頼まれた。』

「…はい、よろしくお願いします。」


 クロスと共に移動してきたのは、街の片隅。

 建物の倒壊などは中心部よりも悲惨で、辺りには大小様々な瓦礫が散らばっていた。


 刀身の長い片手剣を腰に携えるクロスは、俺に向き合い鞘から剣を引き抜いた。

 彼はそのままゆっくりと口を開く。



『《月華(げっか)》という技は知っているか?』



「! えぇ、使い勝手が良いので、俺は好きです。」

『俺に使ってみろ。』

「―――!」


 体の前に剣を構えるクロス。

 受け止めるから、全力で来いと。

 ぽっかり空いた瞳が、そう言っているようだった。


「……はい。」


 大丈夫、遠慮はいらない。

 最悪クロスに刃が当たっても、彼は亡骸(ゾンビ)だ。


 …《月華(げっか)》は、剣全体に『光』の妖力を込める所から始まる。


 充分に妖力が溜まった後に、妖術を発動。

 得られる基本的な効果は"剣の超軽量化"だ。

 それにより、斬撃の速度が劇的に上昇するから…。


 …後は、クロスに肉薄し、全力で斬りかかるだけ…!



「――《月華(げっか)》」



 振るった一太刀目を難なく躱された。

 しかし、すぐさま切り返した二振り目…空を切った。

 …三,四,五,六,七,八,九,…十,


「……っ……!」


 どれだけ剣を振るってもクロスに刃が当たることは無い。

 絶望的で圧倒的なまでの実力差、…勝ち目がない。


 それでも腕を止めずに、クロスに斬りかかった。

 ……百十六,百十七,百十八,百十九…,


 ――ぴったり百二十撃目。

 クロスが俺の剣を素手で受け止めてみせた。


「…! …参りました。」

『あぁ。思っていたよりも、ずっと良い。

 ―――だが、ヒシ。お前は少し間違えている。』


 ……間違い?



『本来《月華(げっか)》は一撃必殺の妖術だ。』


「――――!!!」



 俺がこの技を知ったのはまだ游蕩士になる前だった。

 何か一つでも技が欲しくて、爺ちゃんの《時雨(しぐれ)》を参考に刃を『光』で補強してみたのがきっかけ。

 既に似た技が存在していたのは驚きだったが、技名を受け継ぎつつも自分好みに研鑽してきた妖術だ。



『…少し腕に負荷が掛かるかもしれない。

 だが、恐らくお前ならば習得できるはずだ。』



 俺の肩に乗せ、真っ直ぐ見据えてくるクロス。

 とても冷えた無機物の手。…けど何故か少し温かい。



『…どうする?』

「――やります。」



 ……それを聞いた、クロスは優しく微笑んだ。




 ---




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