第二十八話 死者の街
枯れ果てた大地を歩く悪魔が居た。
硝子製の仮面をつけた長身の男――マグラは、
自身の膨大な妖力を隠すことも無く独り歩く。
勿論、己の力を誇示する為ではない。
彼が放つ尋常ではない程の殺気。
それを感じ取った大抵の生物は、
彼に挑もうなどと考える余裕すら抱けないだろう。
実際、この荒野に生物の気配はほとんど残ってない。
ここに住処を置いていた化物達は、
既に遠くへと逃げ去っている。
マグラにとって、それほど好都合なことはない。
彼は格下を相手にすることの無意味さを知っている。
…それに、挑んでくる化物が居ない訳でもない。
『 ――BBBOOOooo!!!! 』
空から襲い掛かったのは巨大な怪鳥。
ここら一帯のヌシだった化物だ。
奴は気持ちの悪い叫び声とともに『雷』を飛ばす。
もう一度言おう。
マグラにとってこの状況は"好都合"だった。
雑魚を寄り付かせず、襲ってくる強者共を…
『…小物が。』
『 …o, ooo… 』
――養分として刈り尽くせる。
直後、ガラスの斧によって怪鳥の体が両断された。
彼が更なる高みを目指す理由は一つだけ。
醜く汚れた、愚劣な種族を排除するために…。
そんな崇高な目的を掲げた幻妖が、
何故このような田舎を彷徨っているのか。
その答えが、彼の目の前にそびえ立つ壁だ。
『…………。』
『光』で構成された半透明の分厚い壁。
込められた妖力量は絶大。術者の力量が窺える。
なんにせよ、自然物で無いことは明らかだ。
その壁が五枚。
四枚は何かを囲い込むように。
残りの一枚が蓋をするように。
巨大な直方体の箱を形成していた。
さて、"半透明"な壁と言ったのは覚えているか。
当然、外からでも中の様子を覗き見ることは可能だ。
……オススメはしないが。
………………、
………ここで止めるのも野暮というものか。
箱――否、檻に入った太古の幻妖。
鹿のような形に、龍のような頭。
馬のような蹄に、牛のような尾。
全身を覆う美しい寒色の体毛。
牙は万物を嚙み砕くが如き鋭さを持ち。
角は常世を貫き通すが如き風格を誇る。
かつて、街を一つ滅ぼした幻妖――麒麟。
大暴れの後、歴史から忽然と姿を消した化物。
何故このような檻の中に閉じ込められているのか。
それを語るには、…まだ少し早いだろう。
重要なのは、二点。
まず、ソイツがピクリとも動かないこと。
まるで時が止まったかのように佇んでいるのだ。
よく見ればたてがみが微かに揺れているのを捉えられる。
そして、マグラが宙に斧を浮かべたこと。
十メートルはくだらない美麗な斧。
何をしようとしてるのか、言わずとも分かるだろう。
――直後、『光』の檻が爆音と共に消滅した。
永遠のように長く、
刹那のように短い眠りから覚めた怪物は、
『 FUSSYUUUuuuuu… 』
一切の戸惑いを見せることも無く。
眼下に立っていた悪魔を踏み潰した。
『 ………? 』
だが、違和感を感じた様子ですぐに足を上げる。
…その違和感は正解だ。マグラは生きている。
避け様に、麒麟の蹄にガラス片を突き刺して。
『 …FUSYUuu…。 』
麒麟は悟る。
この男は自身を凌駕する化物であると。
奴の頭に浮かんだ選択肢は二つ。
挑み死ぬか、逃亡を図るか。
……だが、その思考は無用で終わる。
『……来い。』
たった一言。
言葉を知らぬ麒麟にも意味は伝わった。
この男は自分の力を、強さを欲しているのだと。
マグラは羽を広げ、低空を飛び始めた。
その後ろ姿を麒麟が追う。
主に追従する、家来のように。
---
「お! 見えてきたぜ~!」
「あれが『シセルケト』ですか。」
「おうよ、300年前に滅んだ大都市っつーのは聞いたが…。…それが今じゃ化物の巣窟だ。ま、気楽に行こーぜ。」
ミドルによる軽い呼びかけ。
場の空気が少し和んだ気がした。
ピリピリとした空気が走る遠征隊には、良い薬になったようだ。
緊張感が張り詰めるのも無理はない。
前方数百メートル先に見えるシセルケト。
その中からは無数の化物の気配が溢れ出ているのだから。
「…爬竜くらいの強さって聞いてましたけど。」
「ちょっとくらい誤差はあるよな! ベイドの情報なんて最初からアテにしてねーしな。あいつのこと完璧超人だって思ってる奴らもちらほら居るけどよ、実際中々ガサツな男だぜ? 確かに、料理は出来るし、勉強も出来るし、嫁さん愛も強いし、子供も居るけどな? 俺ぁアイツの粗雑さのせいで死にかけたこともあるからな。二年前とかにな、ヤハナシ村で畑を荒らすモグラが居るから追い払ってこいって――」
一人で脱線している人が居るが、無視する。
シセルケトの化物達は一体一体が荒鼠程度の妖力を保有しているようだった。
荒鼠は爬竜より多少強いくらいだが、何せ相手は大群だ。小さな誤差も重なれば戦局を動かしうる影響力を持つ。
「――したら、急に地面が真っ二つに割れてよ! 地面から俺の十数倍あるような巨大モグラが…」
「…ミドル、そろそろ。」
「あ? もう着いたのか。はえーな。」
十分間丸々喋り倒したミドルが不満そうに呟く。
…帰り道に続きを聞くことになりそうだ。
「よーし、入るぞー。
基本自由行動で良いが、油断はすんなよ。
死んでも骨は拾ってやらねーからな!」
「れっつごー。」
緩い掛け声と共にロット、ミドルが街の中へ入っていく。
「リエルさんは…、どうします?
ここで待機が安全ではありますけど…。」
横に立つリエルに一応尋ねてみる。
彼女はチフリズ湖が目的だったはずだ。
ベイドから依頼を受けた訳でも無い。
危険を冒して街の中に入る必要まではないだろう。
「んー、一緒に行こっかな。」
『 Pyuii♪ 』
「分かりました、行きましょうか。」
予想通りの返答。
俺が口を出すことでは無いか。
――――…………。
シセルケトに入った直後。
とすっ、と誰かの背中に衝突した。
…何故か、全員が門の前で止まっているらしい。
「…? どうかしたんですか?」
「……ヒシさん、あれ…。」
リエルの目線の先を追う。
…そこに居たのは青白い肌の男。
服はボロボロで汚らしかった。
ほっそりとしたその体つき。
ただし、妖力量は莫迦にならない。
間違いない、この街に住まう化物だ。
ソイツはよろよろと歩き、
少しして、力なく地面に倒れた。
「…倒れたね。」
「…倒れましたね。」
「…死んだのか?」
「…いや、生きてそう。」
「…でも死にかけだな。」
「…助けるか?」
「…うん、流石にな。」
直後、その青白い男が燃え上がる。
『 GYYAAAAaaaaAAAAaaaa!!!!! 』
とてつもない断末魔。
犯人は先頭で短剣をぶん投げた少年。
「「 リーダー!? 」」
「あんたって人は…、非情にも程があるぜ…。」
『 aaaaAAAAaaaaAAAA!!!! 』
「いや、どうみてもわなじゃん。」
『 aAAAAaaaaAAAAaaaa!!!! 』
「まだ救える命があったのに…。」
『 AAaaaaaaAAAAAaaa!!!! 』
「ほんとだぜロット、人の心っつーもんが」
『 aaaAAAAaaaaaAAAAaa!!!! 』
「なぁアイツうるさくね? 止め刺そうぜ。」
一瞬ロットを非難しようとしたミドル。
しかし、すぐに手の平を返し剣を引き抜いた。
まぁ確かにうるさい。
…真面目な話をしよう。
断末魔にしては長すぎる。
炎がまったく効いてないようだった。
「だれか、弓。」
「あいよ。」
男に向けて即座に矢が放たれる。
猛スピードで突き進む『水』の一矢。
しかし、男は身を捻り軽々とそれを回避。
それどころか地面に張られた氷で自身の消火まで始めた。
「…あれ避けんのか。」
ミドルが感心したように声を洩らす。
同感だ、危険察知能力は相当高いらしい。
「まぐれだろ…よっ!」
弓使い数名による集中射撃。
しかし、当たらない。
決して彼らの狙いが悪い訳ではない。
一発も被弾しないあの男が凄いだけだ。
その回避術がまぐれでないことは既に瞭然。
『 AHYAHYAhyahya! 』
…避けながら手を叩いて煽る余裕まであるらしい。
矢を放つ男達の額に血管が浮かび始めた。
「…そのまま、撃ってて。」
『 hyahya, …!! 』
しゃがんだ化物の頭上を短剣が掠める。
先程のような投擲ではない。
「…………。」
『 ……haha. 』
正真正銘、ロットが振るった短剣であり、
すかさず追撃が飛んでくるということでもある。
右、左、上、下。『風』『毒』『雷』。
両手に握る短剣で矢継ぎ早に斬撃が繰り出される。
それも、毎回属性を変えながら。
更に、止まることの無い弾幕の中で。
ロットによる味方の矢を躱しながらの猛攻。
勘の鋭い化物と言えど、状況は厳しいようで。
『 ……nnn, 』
少しずつ、攻撃が当たるようになっていた。
しかし『風』で痛みを感じている様子は無く。
『毒』で動きが鈍る様子は無く。
『雷』で身体が硬直する様子は無かった。
どれだけ攻撃を与えようと、手応えが無い。
戦いが長引くほど不利になるのはロットだ。
「………。」
しかし、ロットの連撃は止まらない。
男のぼろきれを裂き、右手を切りつけ、
脚を砕き、体勢を崩させて――
『 …! 』
心臓を貫いた。
一寸の乱れなく、正確に穿たれた急所。
人型の化物ならばこれで仕留められるはずだが、
『 ……huhuhu…, 』
「……はずれか。」
心臓から短剣を引き抜いたロットが後退と共に呟く。
全ての妖術が利かない。急所も効果がない。
『 …ahyahyahya!! 』
新種の化物。
一体相手でこれだけ手子摺るのだ。
残りの200匹など相手に出来るはずがない。
「…むりだね。」
「一旦作戦会議挟まねぇとな~。」
そう言葉が交わされたとき…
『 hyaaa…, ――その必要はねーなぁ。』
流暢な喋りが聞こえた。
声の主――青白い肌の化物はにやっと笑う。
『歓迎だ。シセルケトによぅこそ。
――随分と待ちくたびれたなぁ。」
---
『ほら! 飲め飲め! 今日は宴さね!』
「いや僕まだ未成年で…、」
『んな野暮ったいこと言わんで!」
「はい! 『彼女の浮気現場を見た彼氏』やります!」
『宴会芸にしちゃ重すぎじゃろ! へはは!』
『16歳!? 若ぇのにすげぇなあ!』
「おっさんはなんさい?」
『昨日で338歳やな!』
「大せんぱいじゃん。」
「あ、注ぎましょうか。」
『お、悪いね~。』
「……うーん。」
おかしい。
ここはシセルケト。
来た理由は化物の討伐のはず。
…何故、討伐対象の化物達と宴会をしているのか。
今は夜の八時くらい。
着いたのは夕方の五時くらいだった。
まだ知り合って三時間しか経ってない。
…何故、この人達はこんなに馴染んでいるのか。
横に並んで座るリエルも同じことを思っているらしく。
彼女の頭の上に疑問符が見えるようだった。
シセルケトはまさに"廃街"で、
ほとんどの建物は朽ちて倒壊していた。
まぁ300年も前の街だ、致し方ないだろう。
そんな訳で屋内で飲食など出来るはずも無く、
宴会が開かれているのは大通りのど真ん中だった。
『よっ、少年少女。飲んでるかぁ?』
「…まだお酒飲める年じゃないので。」
『ははっ、真面目なこった。』
一人の化物が俺の隣に腰を下ろした。
数時間前にロットの相手をしていた男だ。
『名前は?』
「ヒシです。
よろしくお願いします、オオラモさん。」
『おぅ、よろしくなぁ。』
男――『オオラモ』と握手を交わす。
『嬢ちゃんは?』
「ぁ、リエルです。」
『…と、そのちっこいのが?』
「この子はキュペです。」
『 Pyui! 』
『…ほぉん、こりゃまた…、』
オオラモは物珍しそうにキュペを見つめる。
それは好意的な視線、慈しむような双眼だった。
『騒がしいのは嫌いかぃ?』
「いえ、まだ事態を飲み込めてなくて。」
『っはは、そりゃそうだよなぁ。』
朗らかに笑うオオラモ。
そこに敵対心などは微塵も無い。
『まぁ、気楽になぁ?
俺達も数百年ぶりの客で嬉しぃんだ。』
…やはり。
「…少し、踏み入ったことを聞いても?」
『おぅ、なんでも聞ぃてきな?』
首を捻って、辺りを見回す。
紺糸のメンバーと飲んでいる化物達は、
青白い肌の者もいれば骨だけの者もいた。
普通の生物なら死に至っている身体状態。
ベイドが"死者の街"と言っていたことを思い出す。
この街が滅んだのは三百年前。
数匹の幻妖が一斉に襲ってきたと聞いた。
民を逃がす為、百人余りの游蕩士・防衛士が自らの命を投げ打ち足止めをしたと。
「皆さんは、元々人間でしたか?」
この結論に至るのはそう難しくない。
『おぅ、ヒシの推測通りだ。』
それならばオオラモの強さも納得だろう。
あれは一般人には到底出来ない動きだった。
『俺達は自分達を亡骸って名付けた。
文字通り、死んでなお動く死体群だしなぁ。』
心臓を貫いても意味が無い訳だ。
何せ、元から死んでいるのだから。
「…このことに封の精霊は関係してますか?」
『なんでそぅ思った?』
「半分は勘です。」
ベイドはこの街に封の精霊が居ると言っていたが、今の所その気配は掴めていない。
死体が化物に変化すること。
なんらかの妖術が絡まなければ起こりえない。
そして、それだけの大規模妖術。
扱えて精霊クラスだけだろう。
『良ぃ勘持ってるなぁ。』
「俺達の目的が封の精霊の確保なので、
もしかしたら固定観念かもしれませんが。」
『…いゃ、それも推測通り。
亡骸化はドロプの妖術だからなぁ。』
…封の精霊、名前は『ドロプ』というらしい。
こんな強力な化物を大量生産できるとは…。
万が一敵対すればただでは済まないだろう。
「もう一つだけ、」
『あぃよ。』
「待ちくたびれた とは?」
門の前でオオラモが呟いた言葉だ。
小さな声だったが微かに聞き取れた。
『………そだなぁ。』
何かを思案している様子のオオラモ。
その眼はどこか遠く、…楽しそうに酒を飲む紺糸と亡骸の集まりを見つめているようだった。
『…でかぃ波が来る。』
「………波?」
『ぁあ、それを乗り越ぇたら、』
オオラモは寂しそうに笑い、
『……お別れだからなぁ。』
意味ありげな呟き。
その真意までは、問い詰められなかった。
宴もたけなわ。
オオラモも酒を飲みに人の環の中に戻り、
リエル、キュペとの静かな空間が再び帰ってきた。
「…ヒシさん。」
そんなとき、リエルが小さく口を開く。
「どうしました?」
「今日何の日か覚えてる?」
「…? なんか、ありましたっけ…?」
記憶を辿る。
言い方的に何かの記念日だろうか。
…記念日を忘れるのはかなり危険な行為だ。
場合によっては人を怒らせることもある。
思い出せ。
リエルと知り合ったのは去年の11月くらい。
今日が"初めまして記念日"という訳では無い。
何か約束事でもしてたか?
いや、そういうのは絶対に忘れない。
リエルの誕生日はまだもうちょっと先だし…
必死に頭を回すが、思い当たることは無かった。
そんな俺の姿を見てリエルはくすくすと笑う。
「やっぱり忘れてた!」
「ごめんなさい…、本当に覚えてないです。」
「ふふっ、…はい、これ。」
リエルがポケットから取り出した物を渡してくる。
「この箱は?」
「いいから! 開けてみて!」
指示通り、受け取った小さな箱を開く。
中に入っていたのは黄色の装飾がついたピアス。
「18歳の誕生日、おめでとう!」
……あぁ。
8月2日。そういえば、今日だったな。
生を享けて丁度18年。
爺ちゃんの下に預けられて丁度13年。
ヒシという化物の、一つの区切りだ。
「……う、嬉しく無かった…?」
「…いえ、嬉しいです。ほんとに。」
人に祝われるという喜びからか。
零れかけた涙を見せないよう、すぐに手で拭う。
「ごめんね、妖具とかじゃない普通のピアスで。」
「全然、充分すぎるくらいです。」
不安そうに謝罪するリエルを手で制止し、
「…ありがとうございます、大事にします。」
「うん! 改めて、おめでと!!」
心に決める。
彼女の誕生日、そのときは――。
---
翌日の朝。
路上での雑魚寝から起床し、集合した300人強の人々。
内訳は紺糸28人、亡骸211名、その他2名。
その集団の真ん中で一体の亡骸が視線を集めていた。
『――あー、単刀直入にいぅな?
二週間後、この街は戦場になるらしぃんだ。』
「……らしいって?」
『ただの勘にすぎない話だからなぁ。』
「…それ、しんようしていいの?」
『まぁ、外したことはねぇなぁ。』
問い詰めるような口調のロットに対し、
オオラモはさらりとそう告げる。
彼がふざけている訳では無いことは、その雰囲気からすぐに分かった。
『その討伐をお前達に頼みたくてなぁ。』
「…自分たちでした方が、たぶんはやいよ。」
それはそうだろう。
不死身の戦士が200体。
わざわざ30人の人間に頼む必要は無い。
『いぃや、俺達は出来ねぇ。
…もう、体にガタが来ちまっててなぁ。』
「……ふーん。まぁ、倒すのはいいけど。」
『おぉ、よろしくなぁ。』
オオラモは穏やかな笑みを浮かべる。
「…ほうしゅうは?」
『封の精霊を紹介すること、でどぅだ?』
「おっけー。」
討伐依頼。
ロットが引き受けない道理が無い。
むしろ彼にとって重要なのは――
「それで、あいては? …つよい?」
自分の欲を満たしてくれる存在かどうか。
『……如何にこの街が滅びたか、
聞ぃたことがある人はいねぇか?』
…ちなみに、俺も詳しいことは知らない。
複数の幻妖による襲撃を受けたという話は、
メーセナリアでベイドから少し聞いた程度。
シセルケトという街の存在を知ったこと自体がその時だ、詳しい調べ物をする時間も無かった。
『無さそうだなぁ。
三百年も前なら、そんなもんかぁ。』
しみじみと呟くオオラモ。
…そうして、衝撃の事実を口にする。
『シセルケトを襲った幻妖は、五匹。』
「「「 ……は? 」」」
間抜けな声が重複した。
だが、どうしたってそのような反応になる。
通象、幻妖一匹で街一つが滅ぶとされている。
一般人が幻妖と相対した場合、三秒と経たずその命を散らすことになる…という脅し文句は、誰もが耳にしたことのあるフレーズだろう。
比喩でもなんでもなく、実際その通りの結果になる。
例えば、<鱗片の影>。
龍人と爬竜、二匹の幻妖が同時に街を襲っていれば、俺達に勝ち目など無かった。都市陥落まで秒読みだっただろう。
結果としてメーセナリアが崩落しなかったのは、
その二匹の連携力不足に救われたからであろう。
つまりはそういうことだ。
幻妖にとって協力というのは"利害の一致"。
奴らは緻密な連携というものを取らない。
万が一、複数の幻妖が本当の意味で"協力"した時。
人間の眼に映るのは、『絶望』だけだ。
『とりぁえず、列挙するなぁ?
朱雀――『火』の鳥。
白虎――『風』の虎。
玄武――『地』の亀。
麒麟――『雷』の馬。
青竜――『水』の竜。』
…おかしい。
何故、ほとんど聞いたことがない?
『俺達が仕留めたのは青竜のみ。
他の奴らは…仕留め損ねちまってなぁ。』
つまり四体の幻妖が未討伐だった訳だ。
ならばどこかの街で更なる被害を出していてもおかしくない。
それこそ、歴史書に大々的に乗るくらいに。
なのに俺が辛うじて知ってるのは麒麟くらいだ。
『それで、その中の三体がまた来るんだ。』
「…オオラモさん、待ってください。」
『ん、どうしたぁ? ヒシ。』
思わず口を出してしまう。
オオラモはのんびりとこちらを向いた。
…彼が言ってるのはこういうことだ。
「三十人で、三体の幻妖を討伐しろと?」
無理難題、荒唐無稽。
現実性の欠片もない話だ。
『だから、俺達がいるんだよなぁ?』
しかし、オオラモの自信に満ち溢れた目が。
俺の発言を否定するかのようにギラりと光る。
『こっちは武人の先輩、総勢二百人だ。
二週間でみっちり鍛えてやるからなぁ。
――過酷な訓練になる。…覚悟しなぁ?』
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