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ナノライト  作者: かざぐるま
第四章 Rise and Fall.
30/57

第二十八話 死者の街

 



 枯れ果てた大地を歩く悪魔が居た。

 硝子製の仮面をつけた長身の男――マグラは、

 自身の膨大な妖力を隠すことも無く独り歩く。


 勿論、己の力を誇示する為ではない。

 彼が放つ尋常ではない程の殺気。

 それを感じ取った大抵の生物は、

 彼に挑もうなどと考える余裕すら抱けないだろう。


 実際、この荒野に生物の気配はほとんど残ってない。

 ここに住処を置いていた化物達は、

 既に遠くへと逃げ去っている。


 マグラにとって、それほど好都合なことはない。

 彼は格下を相手にすることの無意味さを知っている。


 …それに、挑んでくる化物が居ない訳でもない。


『 ――BBBOOOooo!!!! 』


 空から襲い掛かったのは巨大な怪鳥。

 ここら一帯のヌシだった化物だ。

 奴は気持ちの悪い叫び声とともに『雷』を飛ばす。


 もう一度言おう。

 マグラにとってこの状況は"好都合"だった。

 雑魚を寄り付かせず、襲ってくる強者共を…


『…小物が。』

『 …o, ooo… 』


 ――養分として刈り尽くせる。

 直後、ガラスの斧によって怪鳥の体が両断された。


 彼が更なる高みを目指す理由は一つだけ。

 醜く汚れた、愚劣な種族を排除するために…。



 そんな崇高な目的を掲げた幻妖が、

 何故このような田舎を彷徨っているのか。


 その答えが、彼の目の前にそびえ立つ壁だ。


『…………。』


 『光』で構成された半透明の分厚い壁。

 込められた妖力量は絶大。術者の力量が窺える。

 なんにせよ、自然物で無いことは明らかだ。


 その壁が五枚。

 四枚は何かを囲い込むように。

 残りの一枚が蓋をするように。

 巨大な直方体の箱を形成していた。


 さて、"半透明"な壁と言ったのは覚えているか。

 当然、外からでも中の様子を覗き見ることは可能だ。

 ……オススメはしないが。

 ………………、

 ………ここで止めるのも野暮というものか。



 箱――否、()に入った太古の幻妖。

 鹿のような形に、龍のような頭。

 馬のような蹄に、牛のような尾。

 全身を覆う美しい寒色の体毛。

 牙は万物を嚙み砕くが如き鋭さを持ち。

 角は常世を貫き通すが如き風格を誇る。



 かつて、街を一つ滅ぼした幻妖――麒麟(ザスター)



 大暴れの後、歴史から忽然と姿を消した化物。

 何故このような檻の中に閉じ込められているのか。

 それを語るには、…まだ少し早いだろう。


 重要なのは、二点。


 まず、ソイツがピクリとも動かないこと。

 まるで時が止まったかのように佇んでいるのだ。

 よく見ればたてがみが微かに揺れているのを捉えられる。


 そして、マグラが宙に斧を浮かべたこと。

 十メートルはくだらない美麗な斧。

 何をしようとしてるのか、言わずとも分かるだろう。


 ――直後、『光』の檻が爆音と共に消滅した。


 永遠のように長く、

 刹那のように短い眠りから覚めた怪物は、


『 FUSSYUUUuuuuu… 』


 一切の戸惑いを見せることも無く。

 眼下に立っていた悪魔を()()()()()


『 ………? 』


 だが、違和感を感じた様子ですぐに足を上げる。

 …その違和感は正解だ。マグラは生きている。


 避け様に、麒麟(ザスター)の蹄にガラス片を突き刺して。


『 …FUSYUuu…。 』


 麒麟(ザスター)は悟る。

 この男は自身を凌駕する化物であると。

 奴の頭に浮かんだ選択肢は二つ。


 挑み死ぬか、逃亡を図るか。


 ……だが、その思考は無用で終わる。



『……来い。』



 たった一言。

 言葉を知らぬ麒麟(ザスター)にも意味は伝わった。

 この男は自分の力を、強さを欲しているのだと。


 マグラは羽を広げ、低空を飛び始めた。

 その後ろ姿を麒麟(ザスター)が追う。



 主に追従する、家来のように。




 ---




「お! 見えてきたぜ~!」

「あれが『シセルケト』ですか。」

「おうよ、300年前に滅んだ大都市っつーのは聞いたが…。…それが今じゃ化物の巣窟だ。ま、気楽に行こーぜ。」


 ミドルによる軽い呼びかけ。

 場の空気が少し和んだ気がした。

 ピリピリとした空気が走る遠征隊には、良い薬になったようだ。


 緊張感が張り詰めるのも無理はない。

 前方数百メートル先に見えるシセルケト。

 その中からは無数の化物の気配が溢れ出ているのだから。


「…爬竜(リザード)くらいの強さって聞いてましたけど。」

「ちょっとくらい誤差はあるよな! ベイドの情報なんて最初からアテにしてねーしな。あいつのこと完璧超人だって思ってる奴らもちらほら居るけどよ、実際中々ガサツな男だぜ? 確かに、料理は出来るし、勉強も出来るし、嫁さん愛も強いし、子供も居るけどな? 俺ぁアイツの粗雑さのせいで死にかけたこともあるからな。二年前とかにな、ヤハナシ村で畑を荒らすモグラが居るから追い払ってこいって――」


 一人で脱線している人が居るが、無視する。

 シセルケトの化物達は一体一体が荒鼠(ゲイル)程度の妖力を保有しているようだった。


 荒鼠(ゲイル)爬竜(リザード)より多少強いくらいだが、何せ相手は大群だ。小さな誤差も重なれば戦局を動かしうる影響力を持つ。


「――したら、急に地面が真っ二つに割れてよ! 地面から俺の十数倍あるような巨大モグラが…」

「…ミドル、そろそろ。」

「あ? もう着いたのか。はえーな。」


 十分間丸々喋り倒したミドルが不満そうに呟く。

 …帰り道に続きを聞くことになりそうだ。


「よーし、入るぞー。

 基本自由行動で良いが、油断はすんなよ。

 死んでも骨は拾ってやらねーからな!」

「れっつごー。」


 緩い掛け声と共にロット、ミドルが街の中へ入っていく。


「リエルさんは…、どうします?

 ここで待機が安全ではありますけど…。」


 横に立つリエルに一応尋ねてみる。

 彼女はチフリズ湖が目的だったはずだ。

 ベイドから依頼を受けた訳でも無い。

 危険を冒して街の中に入る必要まではないだろう。


「んー、一緒に行こっかな。」

『 Pyuii♪ 』

「分かりました、行きましょうか。」


 予想通りの返答。

 俺が口を出すことでは無いか。



 ――――…………。



 シセルケトに入った直後。

 とすっ、と誰かの背中に衝突した。

 …何故か、全員が門の前で止まっているらしい。


「…? どうかしたんですか?」

「……ヒシさん、あれ…。」


 リエルの目線の先を追う。


 …そこに居たのは青白い肌の男。

 服はボロボロで汚らしかった。

 ほっそりとしたその体つき。

 ただし、妖力量は莫迦にならない。


 間違いない、この街に住まう化物だ。


 ソイツはよろよろと歩き、

 少しして、力なく地面に倒れた。


「…倒れたね。」

「…倒れましたね。」

「…死んだのか?」

「…いや、生きてそう。」

「…でも死にかけだな。」

「…助けるか?」

「…うん、流石にな。」


 直後、その青白い男が()()()()()


『 GYYAAAAaaaaAAAAaaaa!!!!! 』


 とてつもない断末魔。

 犯人は先頭で短剣をぶん投げた少年。


「「 リーダー!? 」」


「あんたって人は…、非情にも程があるぜ…。」

『 aaaaAAAAaaaaAAAA!!!! 』

「いや、どうみてもわなじゃん。」

『 aAAAAaaaaAAAAaaaa!!!! 』

「まだ救える命があったのに…。」

『 AAaaaaaaAAAAAaaa!!!! 』

「ほんとだぜロット、人の心っつーもんが」

『 aaaAAAAaaaaaAAAAaa!!!! 』

「なぁアイツうるさくね? 止め刺そうぜ。」


 一瞬ロットを非難しようとしたミドル。

 しかし、すぐに手の平を返し剣を引き抜いた。


 まぁ確かにうるさい。

 …真面目な話をしよう。

 断末魔にしては長すぎる。

 炎がまったく効いてないようだった。


「だれか、弓。」

「あいよ。」


 男に向けて即座に矢が放たれる。

 猛スピードで突き進む『水』の一矢。

 しかし、男は身を捻り軽々とそれを回避。

 それどころか地面に張られた氷で自身の消火まで始めた。


「…あれ避けんのか。」


 ミドルが感心したように声を洩らす。

 同感だ、危険察知能力は相当高いらしい。


「まぐれだろ…よっ!」


 弓使い数名による集中射撃。

 しかし、当たらない。


 決して彼らの狙いが悪い訳ではない。

 一発も被弾しないあの男が凄いだけだ。

 その回避術がまぐれでないことは既に瞭然。


『 AHYAHYAhyahya! 』


 …避けながら手を叩いて煽る余裕まであるらしい。

 矢を放つ男達の額に血管が浮かび始めた。


「…そのまま、撃ってて。」

『 hyahya, …!! 』


 しゃがんだ化物の頭上を短剣が掠める。

 先程のような投擲ではない。


「…………。」

『 ……haha. 』


 正真正銘、ロットが振るった短剣であり、

 すかさず追撃が飛んでくるということでもある。


 右、左、上、下。『風』『毒』『雷』。

 両手に握る短剣で矢継ぎ早に斬撃が繰り出される。

 それも、毎回属性を変えながら。

 更に、止まることの無い()()()()で。


 ロットによる味方の矢を躱しながらの猛攻。

 勘の鋭い化物と言えど、状況は厳しいようで。


『 ……nnn, 』


 少しずつ、攻撃が当たるようになっていた。


 しかし『風』で痛みを感じている様子は無く。

 『毒』で動きが鈍る様子は無く。

 『雷』で身体が硬直する様子は無かった。


 どれだけ攻撃を与えようと、手応えが無い。

 戦いが長引くほど不利になるのはロットだ。


「………。」


 しかし、ロットの連撃は止まらない。

 男のぼろきれを裂き、右手を切りつけ、

 脚を砕き、体勢を崩させて――


『 …! 』



 心臓を貫いた。



 一寸の乱れなく、正確に穿たれた急所。

 人型の化物ならばこれで仕留められるはずだが、


『 ……huhuhu…, 』

「……はずれか。」


 心臓から短剣を引き抜いたロットが後退と共に呟く。

 全ての妖術が利かない。急所も効果がない。


『 …ahyahyahya!! 』


 新種の化物。

 一体相手でこれだけ手子摺るのだ。

 残りの200匹など相手に出来るはずがない。


「…むりだね。」

「一旦作戦会議挟まねぇとな~。」


 そう言葉が交わされたとき…



『 hyaaa…, ――その必要はねーなぁ。』



 流暢な喋りが聞こえた。

 声の主――青白い肌の化物はにやっと笑う。




『歓迎だ。シセルケトによぅこそ。

 ――随分と待ちくたびれたなぁ。」




 ---




『ほら! 飲め飲め! 今日は宴さね!』

「いや僕まだ未成年で…、」

『んな野暮ったいこと言わんで!」

「はい! 『彼女の浮気現場を見た彼氏』やります!」

『宴会芸にしちゃ重すぎじゃろ! へはは!』

『16歳!? 若ぇのにすげぇなあ!』

「おっさんはなんさい?」

『昨日で338歳やな!』

「大せんぱいじゃん。」

「あ、注ぎましょうか。」

『お、悪いね~。』


「……うーん。」


 おかしい。

 ここはシセルケト。

 来た理由は化物の討伐のはず。


 …何故、討伐対象の化物達と宴会をしているのか。


 今は夜の八時くらい。

 着いたのは夕方の五時くらいだった。

 まだ知り合って三時間しか経ってない。


 …何故、この人達はこんなに馴染んでいるのか。


 横に並んで座るリエルも同じことを思っているらしく。

 彼女の頭の上に疑問符が見えるようだった。


 シセルケトはまさに"廃街"で、

 ほとんどの建物は朽ちて倒壊していた。

 まぁ300年も前の街だ、致し方ないだろう。


 そんな訳で屋内で飲食など出来るはずも無く、

 宴会が開かれているのは大通りのど真ん中だった。



『よっ、少年少女。飲んでるかぁ?』

「…まだお酒飲める年じゃないので。」

『ははっ、真面目なこった。』


 一人の化物が俺の隣に腰を下ろした。

 数時間前にロットの相手をしていた男だ。


『名前は?』

「ヒシです。

 よろしくお願いします、オオラモさん。」

『おぅ、よろしくなぁ。』


 男――『オオラモ』と握手を交わす。


『嬢ちゃんは?』

「ぁ、リエルです。」

『…と、そのちっこいのが?』

「この子はキュペです。」

『 Pyui! 』

『…ほぉん、こりゃまた…、』


 オオラモは物珍しそうにキュペを見つめる。

 それは好意的な視線、慈しむような双眼だった。


『騒がしいのは嫌いかぃ?』

「いえ、まだ事態を飲み込めてなくて。」

『っはは、そりゃそうだよなぁ。』


 朗らかに笑うオオラモ。

 そこに敵対心などは微塵も無い。


『まぁ、気楽になぁ?

 俺達も数百年ぶりの客で嬉しぃんだ。』


 …やはり。


「…少し、踏み入ったことを聞いても?」

『おぅ、なんでも聞ぃてきな?』


 首を捻って、辺りを見回す。

 紺糸のメンバーと飲んでいる化物達は、

 青白い肌の者もいれば骨だけの者もいた。


 普通の生物なら死に至っている身体状態。

 ベイドが"死者の街"と言っていたことを思い出す。


 この街が滅んだのは三百年前。

 数匹の幻妖が一斉に襲ってきたと聞いた。

 民を逃がす為、百人余りの游蕩士・防衛士が自らの命を投げ打ち足止めをしたと。


「皆さんは、()()()()でしたか?」


 この結論に至るのはそう難しくない。


『おぅ、ヒシの推測通りだ。』


 それならばオオラモの強さも納得だろう。

 あれは一般人には到底出来ない動きだった。


『俺達は自分達を亡骸(ゾンビ)って名付けた。

 文字通り、死んでなお動く死体群だしなぁ。』


 心臓を貫いても意味が無い訳だ。

 何せ、元から死んでいるのだから。


「…このことに封の精霊は関係してますか?」

『なんでそぅ思った?』

「半分は勘です。」


 ベイドはこの街に封の精霊が居ると言っていたが、今の所その気配は掴めていない。


 死体が化物に変化すること。

 なんらかの妖術が絡まなければ起こりえない。

 そして、それだけの大規模妖術。

 扱えて精霊クラスだけだろう。


『良ぃ勘持ってるなぁ。』

「俺達の目的が封の精霊の確保なので、

 もしかしたら固定観念かもしれませんが。」

『…いゃ、それも推測通り。

 亡骸(ゾンビ)化はドロプの妖術だからなぁ。』


 …封の精霊、名前は『ドロプ』というらしい。

 こんな強力な化物を大量生産できるとは…。

 万が一敵対すればただでは済まないだろう。


「もう一つだけ、」

『あぃよ。』


()()()()()()() とは?」


 門の前でオオラモが呟いた言葉だ。

 小さな声だったが微かに聞き取れた。


『………そだなぁ。』


 何かを思案している様子のオオラモ。

 その眼はどこか遠く、…楽しそうに酒を飲む紺糸と亡骸(ゾンビ)の集まりを見つめているようだった。



『…でかぃ波が来る。』


「………波?」


『ぁあ、それを乗り越ぇたら、』



 オオラモは寂しそうに笑い、



『……お別れだからなぁ。』



 意味ありげな呟き。

 その真意までは、問い詰められなかった。





 宴もたけなわ。

 オオラモも酒を飲みに人の環の中に戻り、

 リエル、キュペとの静かな空間が再び帰ってきた。


「…ヒシさん。」


 そんなとき、リエルが小さく口を開く。


「どうしました?」

「今日何の日か覚えてる?」

「…? なんか、ありましたっけ…?」


 記憶を辿る。

 言い方的に何かの記念日だろうか。

 …記念日を忘れるのはかなり危険な行為だ。

 場合によっては人を怒らせることもある。


 思い出せ。

 リエルと知り合ったのは去年の11月くらい。

 今日が"初めまして記念日"という訳では無い。

 何か約束事でもしてたか?

 いや、そういうのは絶対に忘れない。

 リエルの誕生日はまだもうちょっと先だし…


 必死に頭を回すが、思い当たることは無かった。

 そんな俺の姿を見てリエルはくすくすと笑う。


「やっぱり忘れてた!」

「ごめんなさい…、本当に覚えてないです。」

「ふふっ、…はい、これ。」


 リエルがポケットから取り出した物を渡してくる。


「この箱は?」

「いいから! 開けてみて!」


 指示通り、受け取った小さな箱を開く。

 中に入っていたのは黄色の装飾がついたピアス。



「18歳の誕生日、おめでとう!」



 ……あぁ。

 8月2日。そういえば、今日だったな。

 生を享けて丁度18年。

 爺ちゃんの下に預けられて丁度13年。


 ヒシという化物の、一つの区切りだ。


「……う、嬉しく無かった…?」

「…いえ、嬉しいです。ほんとに。」


 人に祝われるという喜びからか。

 零れかけた涙を見せないよう、すぐに手で拭う。


「ごめんね、妖具とかじゃない普通のピアスで。」

「全然、充分すぎるくらいです。」


 不安そうに謝罪するリエルを手で制止し、


「…ありがとうございます、大事にします。」

「うん! 改めて、おめでと!!」


 心に決める。

 彼女の誕生日、そのときは――。




 ---




 翌日の朝。

 路上での雑魚寝から起床し、集合した300人強の人々。

 内訳は紺糸28人、亡骸(ゾンビ)211名、その他2名。


 その集団の真ん中で一体の亡骸(ゾンビ)が視線を集めていた。


『――あー、単刀直入にいぅな?

 二週間後、この街は戦場になるらしぃんだ。』

「……らしいって?」

『ただの勘にすぎない話だからなぁ。』

「…それ、しんようしていいの?」

『まぁ、()()()()()()()()()()。』


 問い詰めるような口調のロットに対し、

 オオラモはさらりとそう告げる。

 彼がふざけている訳では無いことは、その雰囲気からすぐに分かった。


『その討伐をお前達に頼みたくてなぁ。』

「…自分たちでした方が、たぶんはやいよ。」


 それはそうだろう。

 不死身の戦士が200体。

 わざわざ30人の人間に頼む必要は無い。


『いぃや、俺達は出来ねぇ。

 …もう、体にガタが来ちまっててなぁ。』

「……ふーん。まぁ、倒すのはいいけど。」

『おぉ、よろしくなぁ。』


 オオラモは穏やかな笑みを浮かべる。


「…ほうしゅうは?」

『封の精霊を紹介すること、でどぅだ?』

「おっけー。」


 討伐依頼。

 ロットが引き受けない道理が無い。

 むしろ彼にとって重要なのは――


「それで、あいては? …つよい?」


 自分の欲を満たしてくれる存在かどうか。


『……如何にこの街が滅びたか、

 聞ぃたことがある人はいねぇか?』


 …ちなみに、俺も詳しいことは知らない。

 複数の幻妖による襲撃を受けたという話は、

 メーセナリアでベイドから少し聞いた程度。

 シセルケトという街の存在を知ったこと自体がその時だ、詳しい調べ物をする時間も無かった。


『無さそうだなぁ。

 三百年も前なら、そんなもんかぁ。』


 しみじみと呟くオオラモ。

 …そうして、衝撃の事実を口にする。



『シセルケトを襲った幻妖は、()()。』



「「「 ……は? 」」」



 間抜けな声が重複した。

 だが、どうしたってそのような反応になる。


 通象、幻妖一匹で街一つが滅ぶとされている。

 一般人が幻妖と相対した場合、三秒と経たずその命を散らすことになる…という脅し文句は、誰もが耳にしたことのあるフレーズだろう。

 比喩でもなんでもなく、実際その通りの結果になる。


 例えば、<鱗片の影>。

 龍人(スケイル)爬竜(リザード)、二匹の幻妖が同時に街を襲っていれば、俺達に勝ち目など無かった。都市陥落まで秒読みだっただろう。


 結果としてメーセナリアが崩落しなかったのは、

 その二匹の連携力不足に救われたからであろう。


 つまりはそういうことだ。

 幻妖にとって協力というのは"利害の一致"。

 奴らは緻密な連携というものを取らない。


 万が一、複数の幻妖が本当の意味で"協力"した時。

 人間の眼に映るのは、『絶望』だけだ。



『とりぁえず、列挙するなぁ?

 朱雀(モーダル)――『火』の鳥。

 白虎(ファズト)――『風』の虎。

 玄武(ソリッド)――『地』の亀。

 麒麟(ザスター)――『雷』の馬。

 青竜(ロアッグ)――『水』の竜。』



 …おかしい。

 何故、ほとんど()()()()()()()()



『俺達が仕留めたのは青竜(ロアッグ)のみ。

 他の奴らは…仕留め損ねちまってなぁ。』



 つまり四体の幻妖が未討伐だった訳だ。

 ならばどこかの街で更なる被害を出していてもおかしくない。


 それこそ、歴史書に大々的に乗るくらいに。


 なのに俺が辛うじて知ってるのは麒麟(ザスター)くらいだ。



『それで、その中の三体がまた来るんだ。』

「…オオラモさん、待ってください。」

『ん、どうしたぁ? ヒシ。』


 思わず口を出してしまう。

 オオラモはのんびりとこちらを向いた。

 …彼が言ってるのはこういうことだ。



「三十人で、三体の幻妖を討伐しろと?」



 無理難題、荒唐無稽。

 現実性の欠片もない話だ。



『だから、俺達がいるんだよなぁ?』



 しかし、オオラモの自信に満ち溢れた目が。

 俺の発言を否定するかのようにギラりと光る。



『こっちは武人の先輩、総勢二百人だ。

 二週間でみっちり鍛えてやるからなぁ。



 ――過酷な訓練になる。…覚悟しなぁ?』




 ---




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