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ナノライト  作者: かざぐるま
第三章 The flame is here.
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第二十三話 人生




 メーセナリアの小さな酒場。

 三人の老人が酒を酌み交わしている。


「良い酒だな。」


 そう零したのは背の高い男。

 その年齢に見合わないほどの逞しい体つきであることが一目で分かる。


「だろう? 儂の行きつけでな。」


 返答したのは眼帯の男。

 見る人が見ればその男の秘めたる実力に気が付くだろう。


「飲み過ぎは体に響きますよ?」


 咎めるように言ったのは眼鏡の男。

 人が好さそうな笑みを浮かべているが、心の内までは読み取れない。



 今の人間社会に身分制度というものは無い。

 誰が偉い、誰が奴隷。そんな区別は存在せず、

 全ての人間は平等であるということが定められている。


 だが、街行く人々に

 『誰が一番偉いと思いますか?』

 と問いかければ、数人の名前が挙がるだろう。


 防衛団団長、各ギルドリーダー。

 A,S組に所属する秀才達。

 画家や彫刻家などの有名人。


 だが、最も票が集まるであろう役職がある。

 それに該当するのがカウンター席に座る三人の男達。


 リソルディア街長 ダイダロ。

 メーセナリア街長 ザウロス。

 ユルドース街長 クランズ。


 それぞれの街を総括する重鎮達だった。



「…体に響くくらいが丁度良いからのう。」

「ふふふっ、笑えない冗談を!」

「今のうちに飲んどかんとなぁ。

 ――三人で飲めるのも、これで最後よ。」


 そう言ってザウロスは酒を口に運ぶ。

 言葉とは裏腹にそれはとても小さな一口で、グラスの酒はほとんど減っていない。


「ダイダロ、シアンは息災かの?」

「あぁ、よく働いてくれている。」

「おぉ、そうかそうか。

 あの子は少し真面目すぎるからの。

 『息抜きも必要だ』と伝えといてくれ。」

「あぁ。聞かないだろうがな。」

「お前さんもちゃんと可愛がれよ。

 上司としてじゃなくて、祖父としてな?」

「…余計なお世話だ。」

「二人揃って堅物が過ぎるからのう。」


 ダイダロは気難しそうな顔をして酒を呷った。


「街長の引継ぎ作業は済んだのですか?」

「大方は片付いておる。

 後はシュック次第。…まぁ、大丈夫だろうさ。」

「となると、防衛団の次期団長の方は?」

「はははっ! そっちはしばらく荒れるだろうなぁ。」

「ふふっ、貴方のお子さんが就けば平和ですけどねぇ。」

「あいつはやりたがらんだろうなぁ。

 人一倍、責任感の強い子だからのう。」

「左腕の欠損でしたか…、惜しいですねぇ…。」


 クランズは眉を少し下げてそう言った。


「そういえば、少し前にお前の孫に会った。」

「あぁ、金髪の! 今は17歳でしたか。

 私も久々に会ってみたいですねぇ!」

「そうかそうか。それで、どうだった?」

「…ザウロス、お前にそっくりだった。」

「……そうかそうか。」


 ザウロスは再び酒を一口飲む。

 やはりそれはごく僅かな一口だった。


 だが、彼の表情はどこまでも穏やかで。

 その顔からは一切の苦痛を読み取れなかった。




 ---




「………後、二か月。

 短ければ、数週間のうちに。」


「…っ………。」


「……親父………、」


「―――そうか。」



 爺ちゃんがその宣告を受けたのは、

 俺の手元に星影(ほしかげ)が届いた四日後のことだった。


 確かに最近は散歩の頻度も減っていたし、

 ベッドで横になっている時間なども増えていた。

 だが爺ちゃんが体の不調を俺達に伝えることはなかったし、こちらから聞いてみても『心配無いよ。』と返すばかりであった。



「…恐らく体の至る所に転移してる。

 全てを取り除くのは、不可能だ。」


 壮年の男性――『タラジャ』はそう断言する。

 ユルドース(いち)の医者が不可能だと言いきったのだ。

 そんなものに誰が手をつけられようか。


「全身に激痛が走っているだろう。

 どうして、もっと早く私に言わなかった。」

「言ってどうにかなるものでも無いだろうさ。」

「それでも、あと数年は延命が出来たはずだ。」


 険しいタラジャの声とは対照的に、

 爺ちゃんはどこまでも落ち着いていた。


「…手術をするなら今すぐにでも準備する。

 焼け石に水だが、何もしないよりはマシだ。」

「タラジャ、…必要無いよ。」

「! 本当に、死ぬぞ。」

「あぁ、それが自然だからのう。」

「………はぁ……。」


 タラジャは絞り出すように息を吐く。

 そこには言葉に表せないような悔いが込められていた気がする。


「…なんにせよ、痛みは消そう。」


 彼はそう言って鞄から数本の針を取り出した。

 ニュートがクリモに使っていたモノと一緒だ。

 痛みを抑えるための『封』の妖具だろう。


「……悪いのう。」


 爺ちゃんは突如として謝罪を口にする。


「…私は、今でも迷う。

 命を救うのが医者の仕事だが、

 相手の意思を尊重するのが人間としての善行だ。

 死を受け入れた病人に、私は何をしてやればいい。」


 医者としての苦悩を吐露するタラジャに爺ちゃんは、


「ただ誠実に関わってくれればええ。

 それだけで儂らは充分救われとる。」


 穏やかにそう言葉を返した。

 それ聞いたタラジャは再び溜息をついた。


「…私は、何も救えてやいないさ。」

「そうか、…悪いのう。」


 …とても俺が口出しできるような空気ではなかった。



 ◆



 その二日後、爺ちゃんは街長を退いた。

 たったの二日で引継ぎが終わったことからも、爺ちゃんが前々から辞任の準備を始めていたことが窺える。


 それから爺ちゃんは挨拶回りを始めた。

 杖を片手に街中をゆっくりと進んでいく。

 一つ一つの建物、一人一人の街民を。

 目に焼き付けるように、ゆっくりと。


 爺ちゃんの傍には常に俺か兄ちゃんが付いた。

 爺ちゃんが倒れた時すぐに処置できるように、

 それと、少しでも長い時間を一緒に過ごせるように。



 …余命宣告を受けてから、六日後の夜。


「そろそろ行くかのう…。」


 爺ちゃんが呟いたのはそんな言葉だった。

 夕飯後のゆったりとした空気が急速に固まる。


「行くって、どこにですか。」

「なぁに、少し帰るだけだよ。」


 爺ちゃんはそう言って椅子に立てかけていた杖を取る。

 ふらりと立ち上がり、そのまま玄関へと歩いていった。


 兄ちゃんと顔を合わせ、すぐに後を追う。



 初夏特有の澄んだ夜風が吹いている。

 爺ちゃんに羽織を手渡すと、嬉しそうに笑っていた。


「爺ちゃん、どこに行くつもりですか。」

「……ヒシは、大きくなったなぁ。」

「―――?」

「テロスも、本当に逞しい子に育った。」

「…親父の育て方が良かったんじゃねぇか?」

「はっはっは、そうかもしれんのう。」


 爺ちゃんは一頻り笑うと、不意に空を見上げる。

 いや、見ているのは空よりも更に遠い場所みたいだ。


「…あの日、儂の家に手紙が届いた。

 ――『人を憎む獣が全てを焼き払う。』

 そんな、突拍子も無い手紙だった。

 だが、送り主は儂のよく知っとる人だった。

 そこで悟ったよ、冗談などでは無いとな。」


 爺ちゃんは独り言のように語り始める。

 俺は黙って耳を傾けることしか出来なかった。


「儂は防衛団団長という立場を使い、

 入念な調査と準備を重ねた。

 そうしていよいよ民の避難を始めようという時、

 あの幻妖――地獄犬(ヘルハウンド)が街を襲った。」


「その襲撃は予測よりも遥かに早かった。

 後の調査で、奴がエフ森林を横断していたことが分かった。

 森を、生物を、その業火で焼き払いながらな。

 地の精霊は、奴を止められなかったのだろう。」


「待機していた防衛士、游蕩士。

 持ちうる力の全てで奴にぶつかった。

 だがそこまでして尚、奴には敵わなかった。

 儂らは奴の復讐を止めることが出来なかった。」


「あるギルドリーダーは家族を庇って息絶えた。

 ある熟練の游蕩士は骨も残らず焼き尽くされた。

 ある若き防衛士は、勇敢に立ち向かい散っていった。

 儂に『想い』と『誇り』と『願い』を託してな。」


「儂は、奴の右目に嵌まっていたその石を破壊した。

 勇敢な彼が遺した言葉があの戦いを終わらせた。

 だが、振り返った先にあったのは惨状だけ。

 積み重なった死体と焼け焦げた瓦礫だけだった。」


「壊れた両足の痛みも忘れ、見えない右目も気に掛けず。

 儂は、ただひたすらに歩き、探し続けた。

 光を失った、小さな男の子に出会ったのはその時。

 名前を聞いても、歳を聞いても、首を振るばかり。

 傍にあった二つの炭を見て、儂は言葉を止めた。」


「最後に、もう一度だけ問いかけた。

 『名前は分かるかい?』と。

 それでもその子は『分からない』と首を振る。

 儂は、自分が最早戦えないことを知っていた。

 もう大勢の民を守れる体ではないことを。

 だから、その小さな命だけは。

 『テロス』と名付けたその少年だけは。

 余生を懸けて護りきろうと、心に誓った。」


 そこまで話して、爺ちゃんは視線を兄ちゃんに向けた。


「テロス。逞しい子に育ったのう。」

「……っ……あぁ…親父……。」



 ◇



 爺ちゃんはふと足を止めた。


「少し、暗いのう。」

「明るくしますね。」


 左手の人差し指に『光』を込め、足元を照らす。


「おぉ、明るいな。これで足元もよく見える。」


 爺ちゃんは楽しげに歩みを再開した。


「…早朝、まだ太陽も登っていない頃。

 優しく戸を叩く音で目を覚ました。

 扉を開けると、そこには一人の女性が立っていた。

 フードを被っていて、顔は見えなかったがのう。」


「女性は儂に言った。

 『どうか、この子をお願いします』と。

 何故儂を訪ねたのか、今となっては分からぬ。

 だがその懇願を突っぱねることは出来なかった。

 彼女の声色から、ただならぬ事情があるのだと

 悟らざるをえなかったからのう。」


「女性は儂に少年を預けると、

 『その子は、――ヒシです。』と告げた。

 それから、年齢と性格と誕生日と好嫌(すききらい)と…、

 数えきれないくらい、沢山の情報を残して。

 最後に少年の細い髪の毛に優しく触れて。

 気づけば、儂の前から姿を消しておった。」


 爺ちゃんの口から初めて聞く、母の話。

 何度聞いても教えてくれなかった、母の話。


「日が昇り、天気雨が降り始めた頃。

 ヒシ、お前が目を覚ました。

 五歳とは思えぬ丁寧な口調で問うてたな。

 『ここはどこですか? あなたは? …母は?』と。

 その時儂は、真実を話さなかったのう…。」


「…儂にも、詳しいことは分からん。

 何故お前の母君が息子を手放したのかすらな。

 だから、儂から教えられる真実は一つだけだ。」


「――お前は、深く、深く、愛されとった。」


 …最近はめっきり無くなったが、

 前まではよく母と過ごした日々の夢を見ていた。

 その夢はとても幸せで心地の良いものだった。

 だが、夢の中でふと我に返るのだ。

 まるで観客に戻ったかのように、唐突に。

 その瞬間、ある事実が記憶に蘇る。


 『あぁ、俺は母に捨てられたのだと。』


 愛していた母に愛されていなかったのだと。

 その最悪な思いを抱えながら目を覚ますと、

 俺の目からは必ず涙が零れていた。


 だが、真実は違っていたらしい。

 母が俺をこの街に置いていったことは変わらない。

 俺が幾度となく虚無感を味わったことも。


 それでも、この体は驚くほど軽くなっていた。


「儂から教えられることはこれだけだ。

 あとは、自分の手で答えを見つけなさい。」

「……はい。爺ちゃん。」



 ◇



 気が付けば、北門に辿り着いていた。

 北門を潜り抜けて更に進むとパームネマ川に、ひいてはユルドースに繋がる道がある。


 とすると、爺ちゃんの目的地はユルドース?

 だが、そんな弱っている体でユルドースまで歩いていこうとするのは無謀にも程がある。


『 Pi-! 』

「! ファイちゃん!」

「おぉ、よく来てくれた。」


 雛鳥(ファイン)のファイが嬉しそうに鳴いた。

 爺ちゃんはファイの可愛らしい羽毛を優しく撫でる。


「…? ファイちゃんは確かニュートさんの…、」


 辺りにニュートの姿は見当たらない。

 ファイ単体でここまで飛んできたのか。


「…なぁ、親父。」

「どうしたテロス。」

「行き先は、まだ教えられないのか?」

「あぁ、教えられない。」

「…俺達は、付いて行っちゃダメか?」

「…あぁ、ここでお別れだよ。」

「!」

「……そう、か。」


 兄ちゃんは勘が良い。

 俺が気づかなかった答えに既に辿り着いていた。

 或いは、気づかないようにしていた答えに。


「二人とも、こっちにおいで。」


 言われた通り、爺ちゃんに近づくと、



「………!」



 爺ちゃんは俺達二人を強く抱きしめた。


 ほとんど肉のついていない細い腕。

 元防衛団団長とは思えぬほど弱い力。


 少し前までは、ここまで衰耗していなかった。

 それこそ爬竜(リザード)を仕留められるくらいには。


 爺ちゃんの体は、もう限界に近いのだろう。



「二人とも、強い子に育った。

 幼子(おさなご)が背負うには重すぎる経験、

 それを乗り越えて、よくここまで成長した。

 父として、祖父として、誇らしいよ。

 お前達は、儂の、自慢の、子供達だ。」



「…はい。」

「……、…あぁ……。」



 爺ちゃんは俺達を放し、ファイの背中に登った。



「人との繋がりに、別れは付き物。

 泣くなとは言わん、だが、最後くらいは、

 どうか笑顔で、見送ってくれんか。」



 笑顔、笑顔。

 そう、笑顔だ。

 思い出せ。起床、帰宅、食事、就寝。

 俺達の家にあったのは、いつでも笑顔だった。


 いつも通りの、精一杯の、笑顔で。



「――爺ちゃん、……さよなら。」

「……じゃあな、親父。」



「あぁ、儂の大切な宝物達。

 儂は本当に、幸せだった。」



 爺ちゃんは、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。







 夜空に羽ばたいていく一匹の雛鳥。

 その姿は闇に溶けて次第に見えなくなる。

 彼女の背に乗る老人の姿も、同様に。

 俺達の知らない、どこか遠い地へと。



「…兄ちゃん、泣いちゃダメですよ。

 爺ちゃんの最期なんですから。」


「…なぁ、ヒシ。おれ、笑えてたか?」


「……わかんないです。」




「…っ、…みえないので、……わかん、ないです…。」




 ---




「――ここで大丈夫。」

『 Pii…? 』

「お前は、(あるじ)のもとに帰りなさい。」

『 ……Pii-! 』

「はははっ、良い子だな。

 気を付けて、帰るんだよ。」

『 Pi-! 』


 元気な雛鳥は踵を返し、空に飛び立った。

 寂れた街に残されたのは老いぼれ一人だけ。


「………。」


 それは、現存する三つの街とはまるで違う。

 廃墟と瓦礫とガラス片のみが散らばる廃街。

 人の姿は見えず、活気の活の字も無い。


 ザウロスはふと地面にしゃがみ込んだ。


 彼がまじまじと見つめるのは、巨大な裂け目。

 大通りを両断するような細く長い割れ目。

 彼がこの街に住んでいた時には無かった物だ。


 それが意味することを頭に浮かべながら、

 立ち上がった彼は更に足を進めていく。


 その足取りは覚束ない。

 杖で体を支えながら、ゆっくりと前に進む。

 どれだけ足を進めようとも、景色は変わらないのに。

 破壊された建物が続くだけなのに。

 彼はそれでも、懐かしむように進んでいた。


 どれだけ時間が経っただろうか。

 不意に、どさりと何かが倒れる音が響いた。


「…ふぅぅ、…もう、動かんのう……。」


 それは老人が地面に倒れた音。

 かつての最強が、冷たい瓦礫の上に伏した音。


 『封』で痛みを消していても、

 体の調子が良くなるわけではない。

 ただ、不調を感じなくするだけだ。


 彼が患った病気が、彼のほとんどを蝕んだ。

 彼が動けないのは、ただそれだけのこと。

 彼が死んでいくのは、ただそれだけのこと。


 その孤独で面白味もない死に、


『………………。』


 少しだけ、色が加わった。


「…会うのは、初めてだなぁ。」


 ザウロスは語り掛ける。


「マグラ。」


 人間の姿を模しただけの、悪魔に。


『あぁ、人間。――いや、ザウロス。』


 その魔人(デビル)も返事を返した。

 何処までも冷たい、無機質な声で。


 だがその返答に対し、ザウロスは穏やかに笑う。


「儂の名前も憶えておったか。」


『あぁ、アイツから何回もお前の名を聞いた。』


「そうかそうか。儂も、同じだった。」


『…断じて同じなどでは無い。』


「そうピリピリするな。

 最後くらい穏やかな気持ちで逝きたくてな。」


『貴様の私情など、俺には関係ない。』


「儂はお前達二人を兄弟だと思っとる。」


『気安くそんなことを口にするな。』


「だから、一度くらい会って話がしたかった。

 こんな今際の際になってしまったがのう。」


『お前と話すことなど…、』


「はははっ、なら何故儂の前に出てきた。」


『………殺す為に決まってる。』


「なら、少しだけ待っとってくれ。

 その時まで、話そうじゃないか。」


 微笑むザウロスに、不機嫌そうなマグラ。

 だが、戦闘は起こらなかった。


「…お前さん、まだ人間が憎いか。」


『あぁ。未来永劫、恨み続けると誓おう。』


「そうかそうか。残念だのう…。

 互いに分かり合うことは、出来ぬか?」


『…そんなくだらんことを話すなら、今すぐ殺す。』


「聞いてみただけよ、本心ではあるがのう。

 儂も、沢山の化物を殺してきた。

 自分を、誰かを守る為にな。

 復讐とは違うが…、根本的には同じだろうなぁ。

 一度道を分かてば、二度と共に歩くことは出来ん。」


『…一つ聞かせろ。』


「おぉ、なんでもいいぞ。」


『お前こそ何故ここに来た。

 その行動は俺に、敵に力を渡すだけだ。』


「…こんな老人、殺したところで大差は無い。」


『いや、それは違う。お前は間違いなく強い。

 お前を殺せば、俺は確実に強くなれる。

 お前は自分のことを人間に殺させるべきだった。

 そうすれば、人間側の力が大幅に増したはずだ。』


「そうかもしれんのう。

 だが、その必要は無かったよ。

 ――そんなことをせずとも、あの子らは強い。」


『…慢心、過信、自惚。それが敗北を生む。』


「はははっ、ただの事実を述べたまでよ。』


 ザウロスは咳き込む。

 それは彼に残された時の少なさを語っていた。


「…そろそろ、終わりが近いな。

 殺すなら早めにした方が良い。

 儂が自分でくたばる前にな。」


『あぁ、言い遺すことは無いか。』


 マグラは上空にガラスの斧を形成した。

 寝そべった状態のザウロスはそれを、

 正確にはその先にある夜空を見上げる。



「何処までも続く(ふか)(そら)

 消えることの無い(ほし)(かげ)

 あの子達の未来が、何処迄も、何時迄も……。」



『…………………。』









 何かが突き刺さるような硬い音。

 後に残されたのは、ガラスの墓標のみ。


『……………。』


 暫しの間それを眺めていた男は、

 血一滴付いていない上空の斧を妖力に還し、

 独り静かにその場を立ち去った。




 ---




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